つかめ! 観光のビジネスチャンス

第3回 注目の一般社団法人中野区観光協会

2015年2月17日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2014年4月10日号

観光立国を提唱するわが国の観光力を向上し、観光をビジネスにつなげていく仕組み作りのポイントを事例を交えて紹介します。(全3回)

中野区観光協会の立ち上げ
 中野は若者だけではなく、幅広い年齢層に人気が高く「住んでみたいまちランキング」でも必ず上位に入る人気のまちだ。その魅力は都心部にありながら、のどかな下町情緒や個性的な商店、飲食店などが多くある一方、フィギュアやアニメグッズなど、独自色豊かな店が集まる商業施設も多く、秋葉原と並ぶ新しいオタク文化の発信地としても人気が高まっている。 
 そんな中野は昨年4月、広大な警察大学校跡地をベースに駅周辺の大規模な再開発が完了。大手企業の本社が入居するオフィスビルや複数の大学の誘致にも成功し、目まぐるしい変化を遂げている。増えるであろう来訪者を予測し、2年前に地元を愛する地元経済団体のメンバー達が発起人となり、各種事業者やボランティアスタッフなど区民が一致団結し、多くの議論を経て立ち上げたのが中野区観光協会である。
 ここで注目すべき点は同協会が一般社団法人化に踏み切ったことだ。前号でも紹介したが近年の旅客の旅の楽しみ方は成熟し、訪問するその土地を見るだけでは満足せず、郷土色を五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)で味わうことを求めている。同観光協会はこうした旅客が望むプログラムを提供できるよう、区民自身が中野の魅力を考え、訪問者が楽しめる受け入れ体制を構築していく。すなわち着地型観光を機能的に運営できるように構築されている。
 観光協会の本来の目的は地元経済を活性化することであるが、行政が中心となり予算を付けて運営されてきた従来型の観光協会の機能では、成熟した来訪者の満足度を上げることができず、結果として従前のイベント消化型の運営に終始して地域観光が沈下していく傾向にある。中野区観光協会は設立1年前から、自分が住む中野のまちの魅力を改めて棚卸しするためワークショップ型の勉強会を精力的に開催し、区内に眠る魅力の発掘と活用方法を外部の講師から学び、区民自らが中野の売り出し方を考えてきた。その結果、観光協会の活動は外部からの来訪者を増やすことだけを目的とせず、まずは住んでいる区民が楽しく、また役に立つ企画を模索することになった。
 そこで生まれたのが観光協会のボランティアスタッフが厳選したランチの店と居酒屋を紹介する「中野路地裏MAP」だ。区民評価により本当に来訪者に紹介したい店を地元目線で選び、路地裏の分かりにくいディープな店までも掲載されている。この4月から新生活を中野の地でスタートさせる学生や企業の人々が一番欲しい情報であるのと同時に、一般来訪者にとっても今までのガイドブックにはない新鮮な情報提供がなされている。まさにスポンサーや行政のしがらみなどの影響を受けずに、独立性を持ち掲載内容を決定している。こうした活動が結果としてまちの魅力を再発信することになり、まちを人々が回遊しお金を落とす仕組みが生まれていく。

旅行者を固定客に
 観光をビジネスにつなげていく仕組み作りは今回の事例のように地域に限ったことではない。各企業内でも再度観光につなげていける自社素材がないかを視点を変え総点検してみることから始めてほしい。
 横浜の「崎陽軒」は、昭和3年に「横浜に名物を作ろう」と、シュウマイを横浜駅で売り出したことを皮切りに発展してきた。創業100年を越えた同社の工場見学は今では横浜観光の目玉スポットの一つになっており、年間約1万人が訪れるほどの大盛況だ。訪問した観光客は同社の歴史と横浜の昔の様子やシュウマイの製造過程を五感で味わいながら見学し、同社の製品への信頼性やホタテをふんだんに使った個性的なシュウマイの味を脳裏に焼き付け帰宅する。まさにこうした「産業観光」を通じて旅行者が固定客となっていく。東京五輪開催までの期間に日本のあらゆる地域や企業で世界に向けた新たな観光のビジネスチャンスを育成してほしい。


執筆者
跡見学園女子大学 准教授 篠原 靖

掲載:東商新聞 2014年4月10日号

以上