つかめ! 観光のビジネスチャンス

第2回 足もとにある本物を探せ 中央区観光協会の取り組み

2015年2月9日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2014年3月20日号

観光立国を提唱するわが国の観光力を向上し、観光をビジネスにつなげていく仕組み作りのポイントを事例を交えて紹介します。(全3回)

 政府の「日本経済再生に向けた緊急経済対策」に盛り込まれた観光庁の今年度事業「官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」は、特色ある地域資源を活用した旅行商品化を望む意欲的な地域に対して、地域活性化や旅行商品化の分野の専門家(目利き)を派遣し、新たな旅行商品の造成と定着の支援を目的としている。応募を開始すると、なんと全国から613件の応募が殺到。観光による地域活性化への取り組みの面の広さに改めて驚かされた。応募の中から、市場に対する訴求性と、旅行商品として定着しうる可能性の高さを観点に選考を進め、最終的に78件が選定された。今回はその選定を受けた中から、中央区観光協会が新たに旅行商品化を目指す「本物を知る!お江戸満喫まち歩き」事業を紹介したい。
 本事業の背景を整理すると、日本橋は五街道の起点であることに加え、江戸城に続く水運により物流の拠点として全国から様々な物資が集まり、人、物、金が集中した。また商業だけでなく、江戸文化の象徴とも言える江戸歌舞伎や人形浄瑠璃をはじめ数々の本物の日本文化が根付いた街でもある。そんな日本橋も時代の変遷と共に新宿、渋谷などの繁華街に客足を奪われ、かつての名門百貨店も看板を下ろした。この頃からかつての日本橋の盛況ぶりを懐かしむ声が徐々に高まり、何とかこの日本橋を蘇らせようという地元の機運が高まっていく。そして2004年3月、閉店した「東急日本橋店」の跡地に、新たな商業施設「COREDO日本橋」がオープン。これをきっかけに、官民地元が一体となって推進する「日本橋再生計画」が動き出し、日本橋全体で街の活性化への取り組みが本格化した。
 今回の「本物を知る!お江戸満喫まち歩き」事業は、恵まれた地域の生い立ちのドラマや生活文化を再度検証し体験型にプログラム化されている事が素晴らしい。今回、実験的に大手旅行会社から発売されたモニターツアーは、「元吉原」と呼ばれ繁栄を極めていた人形町の芳町を巡る「芳町芸者の踊り鑑賞とお座敷遊びコース」、水辺から江戸を感じる「舟運コース」など、全9コース。各コースとも江戸の町人が生活の中で育んだと言われる「江戸仕草」を学ぶカルチャー的要素や、有名老舗の主人から代々継承して来た商いの歴史や、かつての日本橋の繁栄振りを語っていただくなど、地元の魅力的な人物と出会う事を観光の目的にした「人物観光」の視線からも編集されている。
 本事例のようにまずは地域の方々の危機感を背景に、今まで協力を得られなかった、直接的に観光との関わりが無かった人々までも、地元活性化のために協力しようとする体制が確立され、結果として新たな客層を地域に誘客できる。金太郎飴のような横並びの観光商品が多い中で、中央区観光協会の取り組みは本物を追求する旅行者のプレミアム感を充足させる様々な個性的なプログラムが開発されている。同協会の活性化に取り組む情熱に敬意を表したい。

地域観光推進に向けた5つのステップ
 最後に地域観光の推進に重要となる課題を5つのステップに分けて整理したい。①地域資源を活かす上で、どのような素材に着目するか(資源発掘の視点)②資源を活かす上での「顧客価値」は何か(顧客価値の視点)③顧客価値創出のための資源の編集・加工の視点は何か(資源の編集の視点)④継続的な事業として発展させるビジネスモデル構築への工夫(事業モデル化の視点)⑤事業発展に必要な人材と、人材育成のための工夫(人材育成の視点)―これら5つの視点を整理していくことが大切である。
 忘れがちな都市観光のキーワードは「足もとにある本物を探せ」と言う事になる。こうした時代検証の中で誕生したツアーが造成できる事こそ、地域の歴史や文化を次の世代に継承し、若者が自分たちの街を誇りに思い将来を主体的に築き上げていく契機になる。


執筆者
跡見学園女子大学 准教授 篠原 靖

掲載:東商新聞 2014年3月20日号

以上