日本経済を読み解く おさらい!経済統計データの基本

第7回 異次元の金融緩和政策で金融指標の読み方が重要になってきた…マネタリーベース マネーストック

2014年6月30日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2013年6月10日号

多くの経済活動を定量的に示す統計データの読み方の基本を、時事的な話題とともに解説します。(全8回)

 今ほど金融政策の効用について注目が集まっている時期はなかったと言っていいでしょう。言うまでもなく黒田日銀総裁のもとで日本銀行がスタートさせた「異次元の金融緩和」が、実体経済にどれだけの影響を持つかが各方面から注目されているためです。これから2年ほどの間にその結果が出てきます。ということは、今、金融政策に関する指標を学ぶには格好の時期であるともいえます。

●マネタリーベースの読み方
 「マネタリーベース」という言葉がにわかに脚光を浴びたのは、黒田日銀総裁の下で開かれた初の金融政策決定会合後の声明で、日銀の金融調整目標を金利(無担保コール翌日物)からマネタリーベースに代えたと明言されたからです。
 マネタリーベースとは「世の中に出回るあらゆるマネーの源泉(ベース)になるもの」で、世の中に流通している通貨(日銀券=お札と硬貨)の量と民間金融機関が日銀に持つ当座預金残高を合わせたものです。
 日銀は民間金融機関が保有する国債などを買付け、その代金を当座勘定に入金します。そして民間金融機関は現金が必要となれば、その当座預金から払い戻してもらうのです。その時に発行されるのが日銀券です。つまり、民間金融機関による現金需要が増えると日銀券の発行も増えるのです。
 日銀はこのマネタリーベースを2年後に2倍にするという目標を掲げました。そのために国債のほか株式投信の一種であるETF(指数連動型上場投資信託)、REIT(不動産投信)の買入額を2倍にします。
 こうして民間金融機関が日銀に持つ当座預金が増えれば、民間金融機関がいつでも使えるお金の量が増えます。その結果、企業や個人向けの貸付が増加、デフレ経済から脱却することが期待されているのです。

●マネーストック
 一見するとマネタリーベースと紛らわしいのですが、全く異なる概念です。これは「金融機関を除く」民間全体が使える通貨の総量を指します。
 つまり、金融機関が企業や個人にお金を貸し出した段階で増えるものなのです(民間金融機関が日銀に持っている当座預金はマネーストックには含まれません)。つまり、実際に企業や個人によってモノの売買やサービスの購入などの経済取引のために用いられる通貨(お金)を指します。
 マネーストック統計にはいくつかの種類がありますが、重要なのはM3(エムスリー)です。M3とは、現金として流通している通貨と国内銀行などの金融機関が受け入れている要求払い預金(普通預金、通知預金)に定期預金と譲渡性預金(CD)を加えたもので、その残高の伸び率が「マネーストックの伸び」です。
 現在の日銀の金融調整目標は前述のマネタリーベースなのですが、それを増やすこと自体が最終目標ではありません。原理的にはマネタリーベースを増やし、それが銀行貸し出しを通じてマネーストックの増加につながり、民間全体で使えるお金の総量が増え、それが設備投資、研究開発、消費などにつながることが期待されているのです。
 しかし、従来はマネタリーベースを増やしても、それがマネーストックの増加にはなかなかつながりませんでした。それは企業や家計が将来の景気について楽観的になれないために積極的に借り入れを増やそうとはしなかったからです。
 アベノミクスでは、インフレ率が高くなるという期待を企業、個人に抱かせ、「安いうちに投資、消費しておかねば」という気持ちに誘導することで、借り入れを積極化させ、成長率引き上げにつなげようというのがメインシナリオなのです。
 その意味では、マネタリーベースの増加が、マネーストックの増大をどれだけ促すかが、アベノミクスの成否を占うとても重要なテーマとして浮上してきたとも言えます。


執筆者
株式会社金融データシステム 代表取締役 角川 総一

掲載:東商新聞 2013年6月10日号

以上