暮らしのデザインを考える

第5回 “自然から学ぶ”機能とカタチ

2014年5月18日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2013年3月10日号

デザインは、“美しく魅力的なモノづくりやコトづくりを通じて快適な暮らし”を考えること…。デザインが一般的な認識よりもずっと統合的な領域だということについて紹介していきます。(全6回)

~生物のしくみがアイデアの素~

 ヒトの身体は曲面で構成されているのに、身の回りの生活用品にはなぜ直線定規とコンパスの円とを組み合わせた幾何学的なカタチが多いのだろうか。これらは皆、機械加工に適した単純な部品のカタチや、簡単な組み立てを前提にしていることなどが理由として想像できる。しかしながら、ヒトが直接身に付ける、あるいは触れるモノや、取り扱う道具類の使い易さは、スプーンやイヤフォンなど小さいモノから、洋服や靴、あるいは自動車用のシートなど大きいモノまで、有機的な自由曲面に近いカタチの中にあることは間違いない。
 製品の性能向上には、有機的な曲面形状の採用は有効だ。かつて新幹線の先頭形状開発の機会を得て、楔型と翼型を有機的な三次曲面で構成した独創のカタチを提案した。新幹線の先頭形状は走行時の環境騒音を低減し横揺れを抑えるなど、様々な問題を独創のカタチで解決することができた。「形態は機能に従う」と言ったのは、19世紀の建築家ルイ・サリバンの言葉であるが、その百年後、新幹線はより積極的に「形態は機能を創る」ことを証明した。結果として、この独創的なカタチは”カモノハシ“に似ているとか”アヒル顔“との愛称をいただいた。
 その新幹線の開発から何年か過ぎた頃、学生とともに動物園を訪れる機会があった。鳥の頭蓋骨の標本が並んでいるのを偶然見つけ、あまりにも高速車両のカタチとそっくりであったことに驚かされ、更に自然界の匠を凝らしたその軽量化構造には頭が下がった。日頃よりデザインを学ぶ学生達には、”スケッチ“や”観察“の有用性とともに”自然から学ぶ“ことの大切さを伝えている。
 人工物は自然のアナロジーとして、意図するとしないに関わらず生物を発想の源としているモノが多くある。生体のカタチと機械的強度については、骨格が圧縮材としての剛性と、引張材として柔軟な靱帯・膜・筋肉・腱などの構成により調和が保たれている。シャボン玉の重なりや、蜂の巣のハニカム構造など、面と面との接触線に添って出来る小さな帯状の曲面は、軽量ながら頑丈な構造を持つH型やI型鋼材等の細部断面に似ている。更に曲面形状は、貝殻をヒントにしたドーム型建築、自動車のボンネット面や屋根など強度を必要とするカタチにも生かされている。
 人類の祖先はまた自然界に存在する物質や現象から、数列と美の比例である黄金比・白銀比といった幾何の法則を見出し、各種曲線など審美的なカタチ生成に適用してきた。中でも螺旋のカタチとしては、羊の角、鳥の爪、巻貝など成長して等角螺旋構造を持つもののほか、象の鼻、蛇のトグロ、蛸の足などの動きにも見ることができる。宇宙の大星雲からDNAの二重螺線まで、生命の源として存在することは不思議である。
 川の流れ、波の断面、音の波形など、自然界は正弦曲線の合成であるとも言われているが、モノづくりにおいても宮大工による社寺建築は、屋根の曲線など力学的にも理に適うような無理のない美しいカタチを伝承し続けている。
 懸垂線を発想の源にしたアントニオ・ガウディによる「サグラダ・ファミリア教会」、エーロ・サーリネンの「ゲートウェイ・アーチ」など、時代を超えて風景を魅了し続けているモノには、地球の重力が創る曲線が生かされている。
 一年程前のこと、雑誌コラム欄に鮫肌の鱗部分の超拡大写真を見つけ眺めていた。鱗の一片一片がまるでレーシングカーのような構成面となっていて、高速移動のための機能的なカタチとなっていることに驚いた。久しぶりの感動…毎日が発見の連続である。地球の歴史に生き残ってきた生体由来の技術応用から、太陽エネルギーを含む再生可能なクリーン・エネルギーの活用まで、自然界から学ぶ持続可能な暮らし方のヒントはまだまだ多い。

(産業技術大学院大学教授 福田哲夫)


執筆者
福田哲夫(ふくだてつお)1949年生。日産自動車を経てフリーランスデザイナーとして活動。トランスポーテーションを中心に産業用機器から生活用品まで幅広く開発をサポート。2005年より公立大学法人首都大学東京教授、2008年より同法人産業技術大学院大学教授・創造技術専攻長。新幹線車両等を中心に受賞多数。

掲載:東商新聞 2013年3月10日号

以上