暮らしのデザインを考える

第4回 “五感”で感じるデザイン …風・音・光とテクスチュアで吟味する

2014年5月8日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2013年2月10日号

デザインは、”美しく魅力的なモノづくりやコトづくりを通じて快適な暮らし“を考えること…。デザインが一般的な認識よりもずっと統合的な領域だということについて紹介していきます。(全6回)

 東京には京都や金沢とは趣が異なる和菓子がある。築地Sの「饅頭」をはじめ、浅草Tの「きんつば」、向島Tの「桜餅」やKの「団子」、上野Uの「どら焼き」とOの「豆大福」、そして銀座Kの「最中」など読者諸兄の異論は承知で、江戸好みというより独断と偏見にて小生好みを並べただけであり、またお茶事でもないのでご容赦いただきたい。
 中でも小振りの「最中」は、包装紙の上からでもそれと暗示させる香ばしさが”嗅覚“を刺激して秀逸である。若干くびれのある柔らかなカタチに銘が入った焦がし皮は”視覚“を、また歯先と唇の水分を奪う”触覚“とともに、サクッとした”聴覚“を刺激する。そのすぐ後に訪れる湿潤な甘い餡と口中で渾然一体となり、”味覚“という五感総動員の感動体験として記録される。デザインも同様に形態や色彩などの視覚情報を超えた五感刺激の統合作業であることをお伝えしたい。
 美の構成要素は、一般的に形・色・素材・光・運動など、視覚的評価が可能なものばかりである。二十一世紀における感性価値の議論には、視覚情報以外の快適性に繋がる要素が重要だ。素材の色、艶に加えて、香りからテクスチュアまでの皮膚感覚が重要で、統合的なセンスが要求されることになる。これらの要件は、江戸時代からのマーケティングセンスにも現れている。あえて店舗の軒先で焼く、鰻の蒲焼きや焼鳥の煙と甘く焦げる匂い、あるいは軒先への打ち水に酢を仕込み食欲を喚起させる寿司屋など、感覚を刺激する智慧は現在にまで生きている。
 「風」の評価は、季節の匂いを”嗅覚“で感じ、冬の乾燥した空気から夏の湿気を含む空気まで”触覚“として皮膚で感じる。また遮音・防音や風音の評価は”聴覚“で、木の葉の揺れは風を可視化し”視覚“で吟味する。
 「音」について考えてみる。オフィスで一日の仕事を終えパソコンや空調の電源を切った際、その環境の静けさに気付き、機器類から排出される騒音の量にあらためて驚ろかされる。一方でATMや自動販売機では、機械音があることにより安心感を得ている。お札やカードを投入しても機械音が無い場合には、作動状況が解らず不安になることが予測できる。胎児がお母さんの心臓や血流を含む周囲の生活音を受け入れながら眠ることとは少し違うが、興味の無い講演会だけではなく、電車の揺れや走行音の中でもつい居眠りをしてしまうことなど、騒音とは音量の問題ではないことが解っている。新幹線の快適な室内設計でも、音場としての全体騒音値dB(デシベル)の議論だけではなく必要な周波数帯Hz(ヘルツ)での議論を重ねながらデザインされている。
 「光」についてはどうだろう。社員食堂は清潔で高揚感と活力を生む明る目の全体照明に対して、高級レストランではテーブルごとの部分照明により落ち着きのある佇まいの演出をするなど、目的ごとのしつらいが違う。全体照度Lx(ルックス)はもとより、その光と陰影の対比やバランスは重要な審美的要素であり、深みのある色温度K(ケルビン)での考察などによる雰囲気づくりの議論が欠かせない。
 「テクスチュア」とは肌理のこと。視覚情報であることに加えて、堅さや柔らかさ、重さや軽さ、あるいは冷たさや暖かさ等が評価され、素材に触れた際の皮膚感覚は、脳を刺激し品質感は更に増幅される。
 かつて金沢の地を訪れた際、漆黒に僅かな蒔絵が施された魅力的な座卓と出逢った。その卓面は水盤のように研磨され、艶の中に映り込む景色は美しく見事な仕上がりであった。手仕事による鏡面は限りなく平面に近いが、機械加工面とはまるで違う表情として訴えかけてくる。
 この座卓にて旧友と盃を重ねた魅力的な時間は、五感を刺激し、”肴“が要らなくなるほどの満足感であり、感性価値のあることに気付かされた瞬間でもあった。

(産業技術大学院大学教授 福田哲夫)


執筆者
福田哲夫(ふくだてつお)1949年生。日産自動車を経てフリーランスデザイナーとして活動。トランスポーテーションを中心に産業用機器から生活用品まで幅広く開発をサポート。2005年より公立大学法人首都大学東京教授、2008年より同法人産業技術大学院大学教授・創造技術専攻長。新幹線車両等を中心に受賞多数。

掲載:東商新聞 2013年2月10日号

以上