暮らしのデザインを考える

第3回 “動く”ことからのデザイン…動態が磨く 高級ブランド

2014年5月8日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2013年2月10日号

デザインは、“美しく魅力的なモノづくりやコトづくりを通じて快適な暮らし”を考えること…。デザインが一般的な認識よりもずっと統合的な領域だということについて紹介していきます。(全6回)

 伝統的老舗ブランドの多くは英国やフランスをはじめ欧州諸国にある。中でも今日のファッション界をリードする服飾品から靴・鞄まで、馬具や旅行鞄の製造などがルーツで、創業時期はいずれも産業革命以降の18世紀半ば、“移動”に関わる分野であることに注目したい。
 産業革命による蒸気機関の発明は鉄道の発達を促し、移動距離の拡大と飛躍的な時間短縮による地球規模での異文化交流と、新しい旅のビジネスモデルを生んでいる。トーマスクックによる世界一周ツアーの成功には、運行の”安定性“や訪問地の治安維持等の”安全性“と、食事の美味しいレストランや清潔なベッドのホテル確保等、統合的な”安心感“が欠かせない。
 工業化による労働力不足は女性の社会進出を促し、活動的な服のファッションを生むに至る。また化粧台の道具類は、外出先で使い易く工夫され化粧道具一式が入るドレッシング・ケースへと進化、中でも鏡とファンデーションを繋ぐヒンジ部分に口紅を挿入し一体構成とした”コンパクト“は、カタチを変えながら女性のハンドバックの中に今も生き続けている。
 屋内のクロゼットは靴・鞄等のワードローブとともに堅牢なスーツケースやトランクとして進化し、現在でもモノグラム柄の旅行鞄をはじめ旅に必要な道具類は、馬車から鉄道や船など移動のカタチに合わせた携帯用品として、小型軽量化による品質を向上させてきた。柱時計は懐中時計や腕時計など携帯性と精密さを増し、衣料では下着から防寒着まで体温調整に必要な機能性素材を発明し、身軽で快適な旅が可能となった。
 迷わぬ旅の往復には、地図・コンパスから時刻表・ガイドブックなどが欠かせないが、インク壷とペンを一体化した万年筆やボールペンなどの筆記用具等から携帯用の薬まで、移動具として進化している。
 缶詰などの保存食品は、登山やキャンプ用から防災備蓄品まで領域を拡大している。コンビニエンスストアは日本流に進化し、おでんは汁までパッキングされ、本来携帯用のおにぎりや弁当まで定番商品として販売されている。善し悪しは別にして、調理せず、いつでも何処でも誰とでも即席な食事会が可能になったのも事実である。
 情報通信技術はGPSサービスを生み、天気予報から交通情報までリアルタイムで日常生活をサポートしている。電話機に至っては、携帯型で手のひらサイズの本体に電話帳や住所録は勿論、時計・カメラ・ビデオ・新聞雑誌・ゲーム・世界地図・レストランガイド、財布など、まるでハードボイルド映画に出てくる秘密兵器のような多機能ぶりに驚く。これら”軽薄短小“への設計思想は、環境に配慮したエコデザインへ繋がる取り組みテーマとも同じであり”動く“ことからのヒントは多い。
 人類は、二足歩行で”動く“ことで生活圏を拡大し、その行動目的に合わせて必要な道具やシステムをデザインしてきた。歩行具は各種スポーツ用や通勤用など高機能な素材や機構の靴を生み、陸上交通は馬車から鉄道や自動車へと進化、船舶や航空機は七つの海の渡洋を促し、さらに宇宙船へと飛躍的に移動距離を拡大してきた。
 人、モノ、情報の流れなど動的デザインは、暮らしの大動脈を創る仕事でもある。城下町や門前町の賑わいは、今では駅前がその役目を担い、更に”キオスク“から”駅ナカ“の名店街へと動的進化を遂げている。インターネットを駆使したビジネスモデルは、店舗を構えて客を迎える静的モデルから宅急便を組み合わせた動的モデルへと進化、高齢化を背景に出前や御用聞きも復活している。
 イノベーションの種を発見するデザインアプローチとしては、試しに、動かないモノを動かしてみる”動的な観察“からはじめては如何であろうか。

(産業技術大学院大学教授 福田哲夫)


執筆者
福田哲夫(ふくだてつお)1949年生。日産自動車を経てフリーランスデザイナーとして活動。トランスポーテーションを中心に産業用機器から生活用品まで幅広く開発をサポート。2005年より公立大学法人首都大学東京教授、2008年より同法人産業技術大学院大学教授・創造技術専攻長。新幹線車両等を中心に受賞多数。

掲載:東商新聞 2013年2月10日号

以上