暮らしのデザインを考える

第2回 デザインは“マナー”を促す ~円滑な暮らしのしつらいは感性価値から~

2014年4月30日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2013年1月20日号

デザインは、“美しく魅力的なモノづくりやコトづくりを通じて快適な暮らし”を考えること…。デザインが一般的な認識よりもずっと統合的な領域だということについて紹介していきます。(全6回)

 扉を開けようとした時、その取っ手のカタチから引く、押す、スライド等の動きが解らず迷ったことはないだろうか。回転扉はそのカタチで回転すると解るが、一般的な扉では操作を暗示させる取っ手のカタチが求められる。人間工学的アプローチはこれら取っ手機能の最適解を求めるが、人間の慣れなど順応力を理解した設計が必要だ。デザインは人間の生理系や動作系の研究から、最近ではユーザーインターフェースなど人間中心設計として認知心理学や脳科学などの知見を生かし、サービスデザインの範囲は人―機械系を超えた心の領域にまで及んでいる。
 また、デザインは暮らし方を示す方法論でもある。”マナー“とはその円滑な暮らしに必要な礼儀作法であり、その振る舞いや身のこなし等の所作を指す。現代人の円滑な暮らしに必要な”マナー“を促すデザインは可能か、観察してみたい。
 公共用トイレの手洗器について、自動水栓は衛生的な非接触型でも、使い手側の不注意から周辺に水滴が飛散し汚れが気になる経験をお持ちであろう。この問題に対しては、両手が器の奥へ導かれる蛇口配置等、周辺への水滴飛散を無くす工夫がされている製品がある。カタチの操作により自然なマナーを促すデザインとして秀逸である。
 左の写真は、東京の観光路線バス(東京↓夢の下町バス)である。この開発の眼目は、「お詰めください!」という乗務員アナウンスがなくとも、乗客自ら後部座席へ自然な着座を促すことにある。このことは、乗車前に外観の丸窓形状からの眺望を期待し、乗車後にはその席に座り易くいつでも降り易いという、安心感のある座席配置と手摺りのカタチにより行動を促されるデザインにある。
 これら二つのデザイン事例は、道路の白線や標識等に従わせるのとは根本的に違い、ルールは無くても自然な行動を促すことが可能であることを証明している。
 ”マナー“を促すデザインは、設計倫理に基づく取り組み姿勢が重要であり、快適性など工学的機能領域の物理的評価尺度を超え、感性領域における魅力など日常感じる心理的・感情的な評価尺度に加え、美学的・文化的な評価尺度とともに統合された”感性価値“が必要となる。
 ものづくりには、これら機能領域と感性領域を統合する領域横断的な合意形成能力のある人材が求められる。したがってプロジェクトを共有するエンジニアとデザイナー双方には、継続的な意欲、そして統合的なコミュニケーション力やチームワーク力が要求され、多領域の”知識“を統合し感性価値として高め、円滑な暮らしのための”智慧“として引き出す擦り合わせ技術が必要なことは言うまでもない。
 ところで、前回の「タマゴを描く」という課題には挑戦いただけたであろうか。これまで様々な所でこの課題を出してみたが、ほとんどの方が白いニワトリの卵を、それも縦に描いておられる。確かに購入時のパック入りや冷蔵庫での保存状況は縦に収納されているが…横に寝ている産みたての卵ではない。また卵の種類は、鳥、魚、虫等があるのに、何故ニワトリなのか?
 スケッチによる日常の暮らしへの多面的な観察は、問題解決のための発想と展開に無限の可能性を秘めている。

(産業技術大学院大学教授 福田哲夫)


執筆者
福田哲夫(ふくだてつお)1949年生。日産自動車を経てフリーランスデザイナーとして活動。トランスポーテーションを中心に産業用機器から生活用品まで幅広く開発をサポート。2005年より公立大学法人首都大学東京教授、2008年より同法人産業技術大学院大学教授・創造技術専攻長。新幹線車両等を中心に受賞多数。

掲載:東商新聞 2013年1月20日号

以上