老舗経営に学ぶ

第4回 人づくりのマネジメント

2013年5月8日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2012年10月10日号

明治学院大学 教授 神田良氏が、多数の老舗の事例を踏まえた分析を解説します。(全5回)

 人材育成では従業員教育と後継者育成が焦点となる。従業員教育では、老舗は非老舗と比べるとそれほど大きな違いを見せてはいない。唯一、老舗らしさを出しているのは、従業員に対して自社の歴史や伝統を教育することに、より力を注いでいることである。
現場力をつなぐ
 従業員教育での優先順位づけでも特徴が出ている。一番重視しているのは、定着化である。老舗は規模からみると中堅・中小企業が多い。そのため人材を確保することと、確保した人材を定着させることが課題となっている。さらには、老舗では培ってきた伝統や技術を受け継ぎ伝えていくという長い時間軸での教育が求められることから、時間をかけた育成には定着化が必須なのである。
 事実、従業員に対しては、目標となる姿や技能を示して将来に向けての夢を持たせ続けるといった動機付けに配慮している。また継承すべき技術を伝えるとともに、守るべき技術やノウハウを意識したキャリアを形成させている。老舗が自社の歴史や伝統を教えることに拘るのは、企業個性や競争力の源泉である技術・ノウハウを意識しているからであり、そこに現場力を求めているからなのである。
経営をつなぐ
 中央支部の老舗企業塾の調査によると、後継者育成に関して、老舗はすべての項目で非老舗よりも高い得点を示し、有意な差をみせている。しかも6割を超える老舗はすでに後継者を決めていて、育成に入っている。
 後継者育成の特徴は2つにまとめることができる。優先順位が高いものは、計画的・体系的な育成である。守るべき経営方針や技術を伝えて志を継承する一方、現経営者が仕事の面白さや楽しさを意識的に見せることで継承の決意を促している。入社後は計画的に各部署を経験させて現場を知る、全社を知ることを通して仕事を覚えさせている。同時に、それを通して社内人脈も構築させている。人脈については、社内だけでなく、社外人脈の構築にも配慮している。事業の継承には社内だけでなく、社外で培ってきた関係性も含めていかねばならないのである。
 もう一つの特徴は、原則の明示と社外経験である。まずは後継者選びでの原則を明示することで、人の継承を円滑にしている。また、自社に入社する前に他社を経験させたり、留学させたりすることで、自社を違った視点から客観的に見る目を養っている。老舗の後継者育成は入社前から入社後に至るまでに及び、これによって経営をつないでいるわけである。


著者略歴
神田 良(かんだ まこと) 明治学院大学経済学部教授
一橋大学商学研究科博士後期課程修了。1982年4月明治学院大学経済学部専任講師、1986年4月 同助教授を経て 1993年10月より同教授(現職)。長期存続企業などを専門分野とし、中央区老舗企業塾運営委員会委員長を務めるなど、活動は多岐に渡る。

掲載:東商新聞 2012年10月10日号

以上