老舗経営に学ぶ

第3回 強みづくりのマネジメント

2013年5月8日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2012年9月20日号

明治学院大学 教授 神田良氏が、多数の老舗の事例を踏まえた分析を解説します。(全5回)

 老舗経営は経営戦略論からすると、持続的競争力を構築する能力に長けていることにある。つまり、強みづくりに秘訣があるわけである。
原材料を活かす物語
 競争力の源泉は何と言っても、その企業が提供する商品・サービスにある。顧客はそれを通してのみ企業を判断できるからである。とは言え、それらで大きな差別化を生み出すことは、簡単ではない。老舗の知恵は自社が使用する原材料への拘りと、それを活用した物語性にある。原材料に関する豊富な知識を蓄積するとともに、それを商品・サービスの開発につなげる。しかもそうした知識を社内で共有化して社外に対して物語として発信することで、付加価値を高めている。こうした努力が歴史の積み重ねと相まって、競合には模倣しにくい競争力を創り上げている。
 また、商品・サービスでは、細部に至るまで自社らしさを追求し、小さな差別化を積み上げることで価格以外の魅力づくりを実現している。その際には自社が培ってきた、また維持・強化しようとする生産や販売に関する技術を活用している。広い意味での技術を、こうした差別的な競争力へと結びつけることにも、老舗の知恵が見て取れる。
革新、そして伝統
 変化が常である競争環境の下では、一度築いた競争優位性も、変革することではじめて、維持・強化される。
 老舗というと伝統を重んじて、変革に躊躇しがちであるかようなイメージを抱く。ところが、われわれの分析からはそれとは違った事実が浮かび上がる。老舗経営ではむしろ変化することをもっとも重視している。ただし、その変革は漸進的なものである。老舗の忠誠顧客は大きな変化を望まないからである。そのため、日常的な改革に絶えず取り組むことで少しずつ変化を導入していく。大きな変革は世代交代のときにあり得るが、その場合でも、時間をかけて変わろうとする。小さな変革は一見すると変化がないように見えるが、長期間過ぎてみると変化していることになる。
 変革にあたって、次に重視するのは、変えてはならないものを明らかにしていることである。老舗は原材料で変えてはならないもの、生産や販売での技術で変えてはならないもの、そして商品・サービスの質で変えてはならないものをもっている。これによって、それ以外は変えてよい、むしろ変えるべきであることになる。
 こうしてみると、老舗経営の要諦は伝統と革新ではなく、革新と伝統なのである。


著者略歴
神田 良(かんだ まこと) 明治学院大学経済学部教授
一橋大学商学研究科博士後期課程修了。1982年4月明治学院大学経済学部専任講師、1986年4月 同助教授を経て 1993年10月より同教授(現職)。長期存続企業などを専門分野とし、中央区老舗企業塾運営委員会委員長を務めるなど、活動は多岐に渡る。

掲載:東商新聞 2012年9月20日号

以上