老舗経営に学ぶ

第2回 志のマネジメント

2013年4月30日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2012年9月10日号

明治学院大学 教授 神田良氏が、多数の老舗の事例を踏まえた分析を解説します。(全5回)

 老舗と言えば、家訓などの経営理念を大切にしているといったイメージをもつ。理念を通して創業以来の志を継承していると考えられるからである。しかし、実際は経営理念の存在だけでは老舗と非老舗の間に違いはなく、ともに8割以上の企業が理念を掲げている。では、どこに相違があるのだろうか。
理念の活用にこそ
 経営理念の中身を検討すると、事業範囲の定義や行動指針、さらには自社の商品・サービスの定義では、大きな差はない。ところが、仕入先や顧客との関係についての考え方や、強みの源泉となる生産や販売に関わる技術を定義することには違いを見せている。広い意味での「技術」と、取引先や顧客との関係性の継承に拘ることが老舗経営の基盤にあるわけである。
 もちろん理念は掲げるだけでは意味がない。経営に活用してこそ生きてくる。事実、老舗は非老舗よりも、理念の継承と活用を重視している。まずは経営理念に立脚する経営を心掛け、経営者が自らの言葉で社内に向けてそれを説明して共有化を図っている。こうして過去からの継承を途絶えさせないとともに、将来へと継承しようしている。さらには、社内だけでなく社外に向けても、自社が拠って立つ精神的な支柱を公表し、社内外で連動してアイデンティティを維持・強化する努力を怠っていない。
暖簾を意識
 志の継承は、理念と密接に結びつく経営方針にも反映される。老舗の経営方針は大きく3つにまとめることができる。中でも最も老舗らしさを表すのは、自社が培ってきた暖簾つまりブランド価値を重視し、それに基づいて企業個性を実現しようとする意志である。つまり創業以来のブランド資産を確認し、それに齟齬しない商品開発や店舗づくりに努める、ブランド一貫性を追求することである。とりわけ商品やサービスを通しての企業個性の維持・強化に力を注いでいる。
 次に重視するのは事業継続性である。具体的には、原材料などの調達先との長期的な関係性を重んじること、また無謀な資金調達や過大な投資によるリスクを回避するという財務的な保守性の堅持である。
 最後は利益重視である。老舗は企業規模からすると、決して大きくはない。それは売上を拡大することを第一義的に求めるのではなく、ブランド一貫性や事業継続性に重きを置く経営に徹してきたことと軌を一にしている。つまり、それらによって企業個性を維持・強化するとともに、規模拡大に走らないことで企業個性を薄めないという経営方針を守っているのである。


著者略歴
神田 良(かんだ まこと) 明治学院大学経済学部教授
一橋大学商学研究科博士後期課程修了。1982年4月明治学院大学経済学部専任講師、1986年4月 同助教授を経て 1993年10月より同教授(現職)。長期存続企業などを専門分野とし、中央区老舗企業塾運営委員会委員長を務めるなど、活動は多岐に渡る。

掲載:東商新聞 2012年9月10日号

以上