老舗経営に学ぶ

第1回 老舗から何を学ぶか

平成25年4月30日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2012年8月20日号

明治学院大学 教授 神田良氏が、多数の老舗の事例を踏まえた分析を解説します。(全5回)

 老舗と言っても、人により定義は異なる。筆者は少なくとも一世紀(百年)は存続し、確立された暖簾を持っている企業であると考える。栄枯盛衰が必定の、変化が激しい環境の荒波の中、これほどの長期にわたって存在し続けてきたのには、何かしらの知恵があるに違いない。とはいえ、個々の老舗を見るとき、そうした知恵はあまりにも特殊すぎて、応用可能ではないように思えてしまう。また、老舗ばかりをみて導き出した共通性を主張しても、存続年数の短い非老舗と同じ行動なのかもしれないという危惧もある。体系的に老舗が持つ経営に関する知恵を明らかにして、学べるようにできないだろうか。
 こうした問題意識をもって、東商中央支部の主催により、老舗企業塾を立ち上げた。中央区はいわゆる老舗の宝庫だからである。経営者へのインタビュー調査から仮説を導き出し、それを質問票に整理して、老舗と老舗以外の企業に質問票調査を実施した。このデータを分析して、老舗の永続経営に基づいた自己診断ツールを作成して老舗の知恵を体系化するに至った。
 筆者は老舗企業塾運営委員会委員長として参加し、調査分析にあたった。そこで、この調査から明らかになった老舗の知恵を簡潔にまとめてみよう。
「らしさ」のマネジメント
 企業が長期間にわたって存続してきたのは、変わることのない顧客からの支持があったからである。他の企業ではなく、その企業にしかない何かを提供し続けて来たからである。企業が提供する商品・サービスには必ず競合が存在する。にもかかわらず老舗が存続してきたのは、その企業らしさ、つまり企業個性にこだわり、それを維持、強化してきたからであり、それに共感した顧客が存在し続けたからである。この意味で、「らしさ」のマネジメントに秀でていたからである。
 「らしさ」のマネジメントは、5つの要素から成り立っている。中核的な要素は、「志のマネジメント」である。創業時からの理念やそれを反映する経営方針に関するものである。これに基づいて競争力を構築する「強みづくりのマネジメント」、また取引先や顧客との良好な関係を構築する「関わりのマネジメント」がある。これらのマネジメントは人を通して実現される。そこで、「人づくりのマネジメント」も不可欠となる。しかも、社会とのつながりにも配慮する「活縁のマネジメント」も忘れてはならない。次回より、5つのマネジメントに沿って老舗が培ってきた永続経営のエッセンスを説明していこう。


著者略歴
神田 良(かんだ まこと) 明治学院大学経済学部教授
一橋大学商学研究科博士後期課程修了。1982年4月明治学院大学経済学部専任講師、1986年4月 同助教授を経て 1993年10月より同教授(現職)。長期存続企業などを専門分野とし、中央区老舗企業塾運営委員会委員長を務めるなど、活動は多岐に渡る。

掲載:東商新聞 2012年8月20日号

以上