働き方改革

最終回 労使コミュニケーションの重要性

2018年6月5日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2017年11月10日号

政府の「働き方改革実現会議」は、2016年3月に実行計画を決定しました。特に目玉政策とされた「同一労働同一賃金の実現」と「長時間労働の是正」の2項目については、かねてからの懸案にも関わらず実現してこなかったテーマです。その必要性や政府の方針、課題、事業主に求められる心構えなどについて解説します。

 これまで5回にわたって、「働き方改革」は労働者保護にとって重要であるのみならず、企業の成長にこそ必要であることを指摘した上で、「残業削減」「同一労働同一賃金」という2つの重点課題に、どのように取り組んでいくべきかを解説してきた。最終回となる今回は、今般の「働き方改革」は、労使間の対話を通じた企業と働き手の共存共栄の道を探るための「好機」であるとの視点を提起したい。
 そもそも、わが国では労働時間や賃金といった様々な労働条件は、基本的には労使の自主的な話し合いで決める「労使自治」が原則であった。そのもとで、1980年代までは企業の発展と同時に労働者の生活改善が達成されてきた。しかし、平成バブルの崩壊以降、不況長期化や国内外の競争激化により、労働需給は大きく緩和し、企業が生き残るためには労働環境の悪化は致し方ないという雰囲気が日本中でまん延した。その過程で、処遇が低く雇用も不安定な非正規労働者の割合が大きく上昇し、正社員の長時間労働が続き、さらに厳しい競争を勝ち抜くために働く人々のストレスは大きく高まった。
 こうした状況は、90年代後半から2000年代前半の厳しい不況期には致し方ない面があったにしても、問題は、00年代半ばの時期や、ここ数年、企業収益が大きく改善した時期においても、明確な形での労働条件の好転がみられなかったことだ。労使自治のもとでは労働条件が悪化を続け、働く人々に不満がうっ積していったのである。
 そうした状況で、政府主導で労働条件の改善を行うのが、今回の「働き方改革」なのだ。もっとも、産業分野や企業規模により状況は多様であり、政府主導で細かい部分まで規制するのは限界があり、硬直的な仕組みで行えば副作用が大きい。とりわけ、同一労働同一賃金の実現にあたって、不合理な処遇格差を司法判断により是正する法的根拠が整備される方針であることに注意が必要だ。労使紛争の増加につながれば、労使双方にとって無用のコストを増やすことになりかねない。その意味では、改めて民間が主体的に労働条件の改善に取り組み、政府介入が不要な状況を回復することが重要である。


企業成長にも有益な労使対話


 ここで興味深いデータがあるので紹介したい。それは、労使コミュニケーションに対する経営者の考え方(労使対話型かワンマン型か)と企業業績の関係を調べた調査である。それによれば、①労使対話型であれワンマン型であれ、労使コミュニケーションへのスタンスが明確なほど企業業績は良い、②労使コミュニケーションに肯定的な企業ほど経営危機を経験した割合が低い、ことが示されている(=図)。すなわち、ワンマン型でも対話重視型でも方針が明確である企業が業績は良いが、ワンマン型は歯車が狂えば経営危機に陥るリスクが高く、持続的な企業成長には労使対話が重要ということがうかがわれる。つまり、労使対話をきちんと行い、適切な労働条件の改善に取り組むことは、結局は企業が安定的に成長していく上でプラスになるのである。
 現在、わが国の企業は未曾有の人口動態の変化に直面しており、多様な人材の活躍推進が生き残りのために不可欠である。そうした意味で今回の「働き方改革」は、環境変化に適合するようビジネスモデルや人材活用の仕組みを見直すための絶好の機会を与えてくれている。そして、その際に重要なのは労使対話を重視するという視点であり、希少になる人材確保のためにも、労働条件の改善を企業の持続的成長へ向け、働き手のモチベーション向上につなげるよう主体的に取り組んでいくことが必要である。

 

 




執筆者:山田 久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所 調査部長。研究・専門分野は、マクロ経済分析・経済政策・労働経済。

掲載:東商新聞 2017年11月10日号

以上