働き方改革

第5回 日本型同一労働同一賃金導入に向けた具体策

2018年5月29日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2017年10月10日号

政府の「働き方改革実現会議」は、2016年3月に実行計画を決定しました。特に目玉政策とされた「同一労働同一賃金の実現」と「長時間労働の是正」の2項目については、かねてからの懸案にも関わらず実現してこなかったテーマです。その必要性や政府の方針、課題、事業主に求められる心構えなどについて解説します。

 前回は同一労働同一賃金の導入にあたっての政府の方針を解説し、それに伴い事業主に求められる心構えを指摘した。もっとも、現時点で示されているガイドラインは案に過ぎず、今後、詳細なものが策定される予定である。具体的な対応は、その後ということになるであろうが、同一労働同一賃金導入の本来の趣旨は、不合理な格差を是正することで、非正規社員のやる気や定着率を引き上げ、企業の成長につなげることにある点を改めて確認したい。
 第1回で指摘した通り、過去20年間で非正規として働く人の割合は大きく上昇した(図表)。非正規社員でも重要な仕事を任せられ、彼らのモチベーションが企業のパフォーマンスに大きく作用するようになっている。そうであれば、これを好機として、改めて正規・非正規を問わず、仕事の割り振りと雇用区分、それに応じた処遇が適切かを見直すことは、企業の発展に必要不可欠といえよう。その観点から、すでに同一労働同一賃金の実現に取り組んだ先進事例を2つ紹介したい。
【りそな銀行】1つ目は、大阪府に本社を置く都市銀行で、従業員9,500人強(15年度末)の都市銀行「りそな銀行」のケースである。2008年に正社員・契約社員(パートナー社員)に共通の職務等級制度を導入し、グレードが同じであれば時間当たりの職務給を同一とした。ただし、イレギュラーな仕事の負担は正社員が担うことを勘案し、ボーナス・退職金は正社員のみとしている。16年4月からは中間形態の「スマート社員」(限定正社員)制度も導入した。
【広島電鉄】2つ目は、広島市に本社を置き、電車・バス・不動産事業を営む、従業員1,655人(15年度末)の地元密着企業の「広島電鉄」の事例である。規制緩和による競争激化への対抗策として2000年代前半、企業は低コストの契約社員を増やした。そうした状況に対し、労働組合と会社が交渉し、まずは契約社員の無期化を実現(04年)。続いて、正社員との賃金制度の統一(09年)により、正規・非正規格差の是正を実現した。その際、一部の正社員の賃金の引き下げを実施したが、経過措置を設けるとともに定年年齢の引き上げを実施するなど補償措置を講じた。


負担・責任と処遇全体とのバランス


 これらの先進事例を踏まえれば、人材マネジメントの観点から、わが国企業が同一労働同一賃金に向けて取り組む際のポイントとして、以下の2点を指摘できる。
 第1に、非正規社員についての人事・評価の仕組みを、正社員との整合性を考えて整備することが望まれる。わが国の場合、正規・非正規間で賃金体系が異なることが一般的だが、公平処遇のためには、正規・非正規を同じ土俵に乗せることが有効な対応策になる。それが難しい場合でも、処遇の決め方について、非正規社員も含めた従業員と十分なコミュニケーションをとり理解を得ることが求められる。
 第2に、仕事の実態をみて、負担・責任とバランスをとった形で、賃金以外も含めた総合的な処遇を考えることが重要である。異なる表現をすれば、処遇上同一にする部分と違いを認める部分の基準やロジックを明確にすることが求められる。しゃくし定規な平等化では、かえって不公平感が出てくる。仕事の実態をみて、責任や負担が異なれば、合理的な説明ができる形で、賃金そのもの、あるいは、賞与や退職金に差をつけることも必要である。
 なお、仮に正社員の処遇を引き下げる必要が出てきたときは、趣旨をしっかり説明するとともに、社員の生活に配慮して経過措置や補償措置を講じることで、納得を得ることが重要になる。

 

 




執筆者:山田 久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所 調査部長。研究・専門分野は、マクロ経済分析・経済政策・労働経済。

掲載:東商新聞 2017年10月10日号

以上