働き方改革

第1回 なぜいま働き方改革か

2018年4月24日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2017年6月10日号

政府の「働き方改革実現会議」は、2016年3月に実行計画を決定しました。特に目玉政策とされた「同一労働同一賃金の実現」と「長時間労働の是正」の2項目については、かねてからの懸案にも関わらず実現してこなかったテーマです。その必要性や政府の方針、課題、事業主に求められる心構えなどについて解説します。

 政府の「働き方改革実現会議」は去る3月28日、実行計画を決定した。冒頭では、①多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会を追求する、②働く人の視点に立って企業文化や風土を変える、③働き方改革こそが労働生産性を改善するための最良の手段である、などその意義が述べられている。これに続き11の個別施策項目が設けられ、それぞれについて趣旨と具体的な施策が記載されている。とりわけ目玉政策とされた「同一労働同一賃金の実現」および「長時間労働の是正」の2項目は、かねてからの懸案にもかかわらず、実現されなかったテーマである。これらに正面から取り組み、これまで踏み込めなかったところまで踏み込んでおり、実行計画報告書が表現する通り、「歴史的な大改革」といえるだろう。
 しかし、それゆえ大きな摩擦を生む可能性がある。特に「同一労働同一賃金の実現」および「長時間労働の是正」は、これまでのわが国の労使関係や商慣行を否定する面があり、混乱をもたらしかねない。考えてみれば、長時間労働の是正はこれまでも繰り返し主張され、結局実現してこなかった。今回の改革も、政府が支持率を狙った政治的ポーズとのうがった見方もある。


男性現役世代の急減が迫る多様な人材の活躍


 客観的なデータを見る限り、働き方改革には必要性があり、やり過ごしてしっぺ返しを受けるのは企業自身であると思われる。その根拠は「他国が経験したことのないスピードでの人口減少・高齢化」という、日本の経済社会が直面している環境変化にある。
 わが国の15歳以上人口はすでに2011年にピークアウトしており、15年から20年までに年平均18万人、その後25年までの5年間では年平均35万人ペースで減少する見通しである。そうした状況下、深刻な人手不足状況が続くことが見込まれる。重要なのは人口減少と同時に高齢化も進んでいることで、従来コアの働き手とみられてきた25・55歳男性の労働力人口は、過去15年で270万人減ったが、今後15年で440万人も減少する(=図表)。女性やシニアをコア労働力と位置付けなければ、企業活動が成り立たなくなる。これらの労働力は、家事や育児との両立といった生活上の制約や肉体的な制約があるケースが多く、その活躍には定時退社を基本とした職場の在り方が必要になる。
 また、人口減少・高齢化は低成長化やニーズの多様化を通じて、企業に人材活用の柔軟性を求めるため、非正規雇用比率の上昇が見られた。90年代初めには5人に1人であった非正規労働者は、現在では5人に2人になった。この結果、非正規労働者といっても重要な仕事を任せられる人々のモチベーションが企業のパフォーマンスを大きく左右するようになっている。非正規というだけで正社員に比べて処遇が悪ければ、かえって企業経営にマイナスに作用することになりかねない。
 以上のように、企業の人材活用において、働き手の属性でいえば女性やシニアの、雇用形態では非正規労働者の重要性が共に大きく高まっており、今後その傾向は一層強くなっていく。加えて、そうした働き手の事情を配慮することが、労働力不足が深刻化する中で、人材獲得の競争力につながる。そうした点こそ、同一労働同一賃金や長時間労働の是正をはじめとした働き方改革が求められる理由がある。つまり、それは労働者保護という観点にとどまらず、大きく変わる環境変化に適応し、企業が持続的成長を成し遂げるために必要であり、そこに真の意義がある。

 

 




執筆者:山田 久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所 調査部長。研究・専門分野は、マクロ経済分析・経済政策・労働経済。

掲載:東商新聞 2017年6月10日号

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