第1回 ミスの原因は脳のメカニズムにあった!
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2017年3月10日号
日々の仕事につきものの様々なミス。がんばってなくそうとしているのに、なかなかなくならないものです。というのも、我々の脳自体がミスを起こしやすいメカニズムになっているのです。なぜミスが起きるのか、脳のメカニズムとともに解説し、ミスを防ぐ対策を紹介します。
あなたの知らない2つの「記憶」
「しまった、うっかり忘れていた!」「気を付けたのに見落としていた!」「え?そんなこと言ってない!」「あれ?なんでそうしたのか?!」日々の仕事につきものの様々なミス。がんばってなくそうとしているのに、なかなかなくならないものです。
というのも、こういったミスが起きてしまうのは、そもそも我々の脳自体がミスを起こしやすいメカニズムになっているからなのです。
そのメカニズムというのは、あまり知られていない2つの「記憶」です。
ミスの原因①:ワーキングメモリ
一つは「作業記憶」や「ワーキングメモリ」と呼ばれるもので、「脳のメモ帳」に例えられます。
情報を長期間にわたって貯蔵する「長期記憶」とは違って、何かの目的のために「一時的に」貯蔵されることが特徴です。
コンピュータで例えると、長期記憶はハードディスク、ワーキングメモリはRAM(メモリ)に当たります。ソフトやアプリが稼働するために、データを一時的に蓄える「作業領域」です。
実は今この瞬間もあなたのワーキングメモリが働いています。といいますか、働いているからこそ、この文章が読めているのです。
どういうことかというと、文章を読んで理解するためには、直前の文章の内容を一時的にでも記憶していくことが必要です。もし、読んだそばから内容をすぐ忘れてしまったら、文章をつないで理解することができません。
「便利な記憶ではないですか?」と思われるかもしれませんが、このワーキングメモリが、「あれ?忘れていた!」といったメモリーミスや、「え?チェックしたはずなのに…」といった見落とし、アテンション(注意)ミスを引き起こす原因になっています。
ミスの原因②:潜在記憶
もう一つの原因となっているのが「潜在記憶」。
これはあなたが思い出そうとしなくても勝手に思い出されて、思い出されたことも気づいていない記憶です。
例えば、私があなたにこんなふうに話しかけたとしましょう。「昨日、飲み過ぎたんですよ…」さて、今あなたは何かを勝手に思い出していたことに気づきましたか?
どこか居酒屋やビールのジョッキを思い出していたかもしれません。
「そう言われれば…」。勝手に思い出していたことに気づいたでしょう。
このように我々は話を聞いたり、こうやって文章を読んだりしている間、知識や経験などの記憶を自然と思い出しながら理解しています。
先ほど紹介した「ワーキングメモリ」と同じように、「潜在記憶というのは、便利な記憶ではないですか?」と思われるかもしれません。
しかし、これが「え?そう言ったじゃないですか?!」といった勘違いなどのコミュニケーションミスや、「なぜ、あんな高いモノを買ってしまったのだろう?」と後悔するようなジャッジメント(判断)ミスの原因なのです。
次回から5回にわたって、2つの記憶がどのようにミスを引き起こしているのか、ミスを防ぐ対策は何か、を解説していきます。
小さなミスも大きな損失につながりかねません。ぜひ参考にしてください。
執筆者:宇都出 雅巳
トレスペクト教育研究所代表。速読・記憶法や心理技法の実践体験に、認知科学の知見を取り入れた学習法を確立し、伝えている。
掲載:東商新聞 2017年3月10日号