シェアリング・エコノミー

最終回 国からも自由になりうる未来

2017年9月5日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2017年5月20日号

 シェアリング・エコノミーとは、個人が所有する資産のうち、使っていない部分や時間を、インターネットを介して貸し借りするサービスです。スマートフォンの普及により、シリコンバレーを起点に世界中に爆発的に広がりました。その仕組みや、社会に与える影響、可能性について解説します。

言語も人種も関係ない


 前回では、シェアリング・エコノミーにおけるユーザー同士の信用を担保する評価システムをお話ししました。最終回ではこれらの“信用”が変えるビジネスの未来について、「Uber」を例にとり、まとめたいと思います。
 アメリカのUberドライバーには、2タイプの人がいます。アメリカに来たばかりの移民か、アーティストやミュージシャンです。まず前者の場合、多くの移民は英語が話せません。しかし、Uberは目的地をスマートフォンを介して指定し、決済も行えるため、言葉が通じなくても仕事ができるのです。乗客にとっては、従来の移民ドライバーであると“多く課金されるのではないか”“やりとりでトラブルにならないか”など不安になりがちでしたが、Uberはドライバーの評価がレビューで可視化されているため、高評価と分かれば安心して乗車することができます。
 つまり、Uberによって言語に関係なく仕事ができ、なおかつレビューの評価があれば人種の壁を超えて信頼されるようになる。あくまで例え話ですが、仮にトランプ政権によってアメリカを出ることになっても、Uberでコツコツ評価をためたドライバーなら、他の国でも仕事ができる日が来るかもしれない。つまり、国に依存しなくてもどこでも生きていけるとも言えるのです。


ライフワークとライスワークの両立


 なぜ、アーティストやミュージシャンがUberのドライバーをやるのか。彼らは、自分たちのライブやギャラリーの開催期間中は仕事ができないため、そのたびに職を変えるか、よほど融通の効く職場に巡り合わなければなりませんでした。しかし、Uberは自分が働きたい時だけ働けるので、創作活動中はそれに専念し、生活費はUberで稼ぐなど、自在に切り替えられるようになったのです。このように、食べていくためのライスワークと、自分を表現していくためのライフワークをより両立することができる利点があるのです。
 さらに、Uberは世界70カ国以上で仕事ができるので、例えば画家なら、各国で仕事をしつつ世界中の景色からインスピレーションを受けられるし、自分のアートを理解してくれる人を求めてインドでUberをしながら絵を描くこともできます。このように、これまで居場所に縛られず仕事をする人たち(リモートワーカー)といえばプログラマーやデザイナーなど、オンラインによるビジネスをする職種に限られていましたが、Uberのように、免許と車さえあれば誰でも仕事ができることで、国に関係なくライスワークで渡り歩け、よって自分のライフワークが生きる場所に出会えるようになるのです。


信頼のうえでの摩擦


 あまり運転が上手でないドライバーでも、なぜか評価が悪くないドライバーは、温かい人柄で会話が弾んだりする。Airbnbで貸主が全く英語を話せなくても、一生懸命Google翻訳を使って自国のことを教えてくれると、心が温まる。このように一定の信頼さえあれば、多少の摩擦はむしろ思い出に変わります。つまり、シェアリング・エコノミーで信頼が可視化されることで、言語を超えた心のネットワークが生まれ、それが国をまたぎ、拡がる。僕はこれこそが、シェアリング・エコノミーの最大の可能性であり、魅力でもあると思います。
 僕は現在、バリ島でオンラインを駆使したリモートワークを行っています。よく「それは、IT業界で働く尾原だからできるんだ」と言われますが、そんなことは全くありません。むしろ料理人やドライバーなど、何か一つの職人技術を持ち信頼を可視化できる人のほうが、今後は世界中を自由に渡り歩ける時代がくるのです。これらは僕の希望的予測ですが、シェアリング・エコノミーが秘める可能性は、あらゆる人を自由にしてくれることだということをお伝えできれば幸いです。



執筆者:尾原 和啓
著作家・IT評論家。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーも務める。

掲載:東商新聞 2017年5月20日号

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