東京商工会議所

自然体でイノベーション!! 流れにのり、ウォータースポーツ事業に進出

卸売業
株式会社スター商事

代表取締役社長 
佐々木幸成(ささき ゆきなり)氏



スター商事のイノベーションの特徴

○2019年、取引先から「ウォータースポーツ事業」を譲り受け、3年で年商の1割を占める規模に成長させる
○川に特化したウォータースポーツの自社ブランドMARSYASを立ち上げ、オリジナル製品の開発と販売を開始

アウトドア用品の輸入販売で46年の歴史を持つスター商事。他社から譲り受けたウォータースポーツ事業でニッチトップの地位を確立。年商は、10年前の5倍にまで成長した。一時はリーマンショックの煽りで倒産の危機にあった同社は、いかにして再生を果たしたのか。


会社をキレイに、社員の給与を固定給に。当たり前を整える

――アウトドア用品があらゆるところに置いてあり、アウトドア好きにとってはたまらない会社ですね?

佐々木社長 ありがとうございます。見ての通り、弊社はアウトドア用品の輸入販売を手がける専門商社です。創業者は家内の父で、私が3代目ですね。
 アウトドア用品のなかでもギア、アクセサリーなど小物に特化して、約30の海外ブランドを販売してきました。
 スイスの飲料ボトルの専門ブランド「SIGG」、スウェーデンの調理器具ブランド「OPTIMUS」など、長い歴史を持ち、品質に定評のあるブランドを1977年の創業当初から取り扱っていますが、これらのブランドは、スター商事が独占販売権を持って各小売店に卸しています。

――独占販売権を保有しているのは、大きな強みですね?

佐々木社長 ところが、私が社長を引き継いだ2012年当時は、リーマンショックの影響を受けて年商が最盛期の10分の1まで落ち込んでいました。いま振り返ると、SIGGなど看板ブランドに依存していた収益構造にも、原因があったのだと思います。
 倒産してもおかしくない厳しい状態でしたが、社長を継いだ以上は潰すわけにはいかない。そのとき頭に浮かんだのは、「業績の悪い会社は、会社が汚いし、社員が不満ばかり口にしている」ということでした。そこで、まず会社をとにかくキレイにしようと、社内に山積みになっていた在庫を片づけるところから着手しました。
 他にも、給与を歩合制から固定給に変え社員の待遇改善を図るなど、当たり前のことを一つひとつ整えたのです。
 そうしているうちに、不思議なもので売れるブランドが一つ、また一つと出始めてきたんです。本当に運が良かったとしか言えないのですが、じわじわと到来していたアウトドアブームにも助けられました。

――会社を整理整頓したり、社員の待遇を改善することが、業績の改善につながったのですね?

佐々木社長 もう一つ大きかったのが、企業理念を掲げたことです。ハッキリ言って、企業理念なんかいらないと思っていましたが、弊社が代理店をしているKATADYNというスイスの浄水器専門ブランドから「アウトドアのマーケットだけじゃなくて、官公庁や自衛隊にも浄水器を売り込んで欲しい」と頼まれたのをきっかけに経営理念をつくることになりました。
 自衛隊と取引をするには、品質マネジメントシステム(QMS)を運用している必要があって、防衛省が指定する最低限のマニュアルをつくったのですが、そのなかに経営理念が必要で「佐々木さん、何でもいいから書け」と言われて(笑)。
 そのとき、「お客様を第一に考えて、丁寧にサービスと商品を提供して、改善をしながら皆さんの信頼を得られる会社になる」と、書きました。
 経営理念といっても、私としては自衛隊と取引するための後付けで書いたわけですが、2年3年と事務所に飾っていると、自然と社内に浸透するのですね。経営理念を社員が実践してくるようになってきたのです。
 例えば、経営理念を作成する前は、お恥ずかしい話、「灯油燃料のストーブを使っていて、問題があった」とクレームが入っても「灯油燃料は使いこなすのが難しいから、使わない方がいいですよ」という対応でした。
 でも、それが経営理念の通り、お客さまの立場に立って、商品の利用シーンや使用方法を説明するなど、丁寧にお客さんに接するようになって、そしたら業績が伸びてきたというのはあると思います。

思わぬ形で譲り受けたウォータースポーツ事業を会社の新たな柱に

――ウォータースポーツ事業に進出したきっかけは?

佐々木社長 きっかけは知人の会社から、事業を譲り受けたことです。
 その会社はパドルやカヤック、カヌーなどウォータースポーツ関連製品の販売業を行っており、当社は2004年ごろからその会社の輸入代行の仕事を手伝っていたのです。
 しかし、2019年に、知人の会社はウォータースポーツ事業から撤退して、担当者二人で独立すると聞きました。私が「どうせやるなら、スター商事に入ってやったらどう?」と軽く声をかけた流れで、社員二人を含む事業ごと譲り受ける形になったのです。
 彼らはすでに国内の顧客がいましたし、これまでのビジネスモデルをスター商事に持ち込めばいいと軽い気持ちで始めました。イノベーションをしたという意識は、全くありませんでしたね。
 でも、いざはじめると、アウトドア業界とウォータースポーツ業界は似ているようで、市場も商習慣も全くの別物でした。私自身、カヤックやパドルスポーツの知識も経験もない。そんな不安を感じながらも、同じ自然がフィールドのアクティビティなだけに、クロスセルなど相乗効果を生み出せるのではないか、という期待は持っていました。
 また、パドルやカヌーなど川に特化したウォータースポーツは、マリンスポーツに比べて非常に小さいマーケットです。だからこそ、このニッチなマーケットでナンバーワンになれたら面白いのでは、と常にワクワクしていましたね。

――自社ブランドも展開していますね?

佐々木社長 ウォータースポーツ事業を譲渡してくれた会社が、事業の撤退に伴って「MARSYAS」というブランドも放棄する話がありました。私はもったいないなと思い、事業を引き継ぐときにブランドも譲り受け、2022年1月に商標登録しました。これが自社ブランドですね。
 自社ブランドを持つことができたのをきっかけに、「ウォータースポーツにおけるオリジナルブランドの確立と、自社オリジナル製品の製造販売」という内容で、東京都の経営革新計画を取得することもできました。
 長年営んできたアウトドア用品の輸入販売業の世界は、ビジネスが大きくなったら大手総合商社にそのビジネスを奪われてしまうのが常。でも、オリジナル製品があれば事業は安定するとずっと考えていました。そんななか、たまたま「MARSYAS」という自社ブランドができて、これを日本で唯一の川に特化したウォータースポーツブランドとして育て、新しい事業の柱にしていきたい。その想いを、経営革新計画に込めました。

――川のウォータースポーツというと、私もSUP(スタンドアップパドルボード)しか頭に浮かばず、競技人口が少ない印象があります。どのようにお客さまを増やしていったのでしょうか?

佐々木社長 まず、初心者向けで、アウトドアとも親和性の高いゴムボートで川を下る「パックラフト」というアクティビティに着目しました。
 日本全国のウォーターアクティビティの盛んな地域のツアー会社などと提携し、弊社の取り扱うボートの試乗会を川で行うなどの草の根活動で徐々に認知度を向上させていきました。
 社員に対しても、ウォータースポーツの魅力を楽しみながら知ってもらおうと、会社が経費を負担して川下りを体験できる制度を整えました。なかには、毎週のように川下りに行く社員もいましたね(笑)。

――ウォータースポーツ事業の業績はいかがでしょうか?

佐々木社長 おかげさまで好調です。初年度(2020年度)の売上は約600万円でしたが、本格的に展開した2021年度は7,000万円まで伸びました。さらに2022年度は1億1,000万円を見込んでおり、年商の約1割にまで成長しています。



「自分たちが好きかどうか」が判断基準

――輸入販売業ではアウトドア用品だけでなく、防災用品も取り扱っているのですね?

佐々木社長 スイスの浄水器ブランド「KATADYN」の、海水を飲めるようにする脱塩浄水器は、陸上自衛隊に正式採用されています。また、遭難時などのサバイバルギアを展開するブランド「SOL」のサバイバルシートは軽くて保温性にすぐれ、全国の自治体から引き合いが増えています。

――扱う製品は、どのように決めているのですか? 失敗のリスクもあると思うのですが…。

佐々木社長 リスクを負って、という意識は、正直まったくないんです。扱う製品を決める際の基準は「自分たちが好きかどうか」と「自分たちが使えるかどうか」の2点。売れる、売れないは二の次です。製品に限らず、新しい事業も、自分が好きかどうか、社員のみんなと一緒に楽しむことができるかで判断してきました。
 対外的にキレイごとを言っているわけでなく、本気でそう思っているんです。アウトドア用品という、本来遊び道具を売る会社ですから。

――そんな遊び道具を売る佐々木社長が、経営において最も大切にしていることは何ですか?

佐々木社長 あまり格好よいことは言えないのですが、「自然体」でしょうか。社長を引き継ぐときも、ウォータースポーツ事業を譲り受けるときも、あまり深く考えず、「自然体」で判断しました。
 すると、コロナ禍もあってアウトドア市場が拡大し、商品が売れるようになった。余力ができたのでウォータースポーツ事業にも注力することができた。自然に、成り行きに任せたらここに来た、という感じです。
 当社のスローガンは「Close to you, close to nature. (みなさまと共に、自然と共に)」。そこにも、「自然体」を大切にしたいという想いを込めています。


社屋1階の商品展示場の前で


株式会社スター商事

■本社: 〒116-0014 東京都荒川区東日暮里4-5-16

■設立: 1977年8月

■資本金: 1,000万円

■従業員数: 14名

■事業内容: スポーツ用品の製造および輸入販売

■企業HP: https://www.star-corp.co.jp / 
ウォータースポーツブランドサイト: https://star-watersports.jp

提言内容の解説

Ⅰ- 3 異業種の取り組みなどの情報収集、人脈形成などの社外活動の重要性
Ⅰ- 4 業界ポジションの分析を踏まえた新規事業開発におけるマーケティング

 イノベーション活動に取り組むうえで、そのきっかけとなる顧客ニーズ、イノベーションのヒントを経営者が積極的に社内外で収集することが重要である。まずは自社が属する業界全体の知見や、 その業界の中でのポジションなど、自社の現状を分析し、理解することが起点となる。
 スター商事では、取引先との緊密な関係を構築していたことで、「事業譲受」によりすでに基盤のある事業を取得し、既存事業と相乗効果のある事業展開を実現することが可能となった。

Ⅰ- 5 経営理念・ビジョン・中長期の明確な目標の浸透による社員の前向きな意識醸成、 組織づくりの重要性
 これまでの事業や発想とは全く異なる革新的なイノベーションに取り組むためには、組織の理念やビジョン、中長期の目標を明確にし、 社員の前向きな取り組み、自発的な行動を促していくことが重要である。