東京商工会議所

網戸トップシェアメーカーの原動力は100件を超えるアイデアが集まる社内コンペ

製造業
セイキ販売株式会社

代表取締役会長 
守谷 守(もりや まもる)氏

セイキ販売のイノベーションの特徴

○優れたアイデアが、社内で継続的に提案され、新製品の開発に繋がっている
○パート、アルバイトを含む全社員を対象の、「商品開発コンクール」を毎年実施

網戸をはじめ住宅資材メーカーとして、世界的なトップシェアを誇るセイキ販売。国内初のプリーツ式の網戸を開発した、業界のパイオニアでもある。絶え間なくイノベーションを生み出せる源泉は、社員からたくさんのアイデアが集まる「商品開発コンクール」にあった。


網戸の国内トップメーカーとして60年間走り続ける

――守谷会長が経営するセイキグループには、セイキ販売をはじめ5社もあるのですね?

守谷会長 1962年にプラスチック押出商品の専門メーカー「セイキ工業」を創業し、その商品を販売する会社として「セイキ販売」、そして住宅資材を取り扱う「セイキ住工」と、必要に応じてグループを拡大していきました。
 一番の強みを持つのが、網戸を始めとする住宅資材の製造・販売です。創業当時の1960年代初頭は蚊帳が主流で、網戸はあるにはありましたが、建具屋に依頼して窓枠に建て付けるもので、あまり普及していませんでした。
 そこで「誰でも自分で取り付けられる網戸があれば便利だな」と私が考案したのが、アルミサッシ式の網戸です。プラスチック製の型材の組み合わせで縦横の伸び縮みが簡単にできて、誰でも取り付けが容易になりました。これが想像以上に大ヒット。嬉しかったですね。1965年頃のことです。

――それ以降、網戸のトップメーカーとして60年近く走り続けていますね?

守谷会長 その網戸も、社員のアイデアによって、日々進化を続けています。
 例えば、1993年に発売した「プリーツ式網戸」。折りたたんで収納できる蛇腹式の網戸ですが、このアイデアを実現するには、畳まれた網戸を平行に動かす技術が必要でした。当社の社員が、最初はタコ糸を使って実験を繰り返して「ミニサンプル」をつくり、技術部とアイデアを練りながら、商品化にこぎ着けました。


プリーツ式網戸「アルマーデフリー」


 網戸だけでなく、「樹脂パレット」も当グループの運送会社の社員が生んだヒット商品です。通常、運送用のパレットは木製のものが多いのですが、水に濡れると腐食して欠けてしまいます。そこで、「樹脂製のパレットなら腐らずに使えるのでは」と思いつき、商品化したところ飛ぶように売れました。  その樹脂パレットに、さらに改良を加えたのが「ビスなしパレット」。ビスを使わずにパレットを組み上げることで、金属製のビスの錆びを気にすることなく、より使いやすくなりました。食品工場や化粧品・医療用品工場を中心に導入いただき、工場の衛生基準強化に役立てていただいています。 その他にも高断熱・省エネブラインド「ハニカム・サーモスクリーン」、外付け窓用の遮熱スクリーン「サングッド」……社員のアイデアから生まれた商品は、挙げたらきりがありません。


樹脂パレット



いい商品でも、売れなかったら「負け」

――なぜ、そのように社員から続々と新商品のアイデアが生まれるのですか?

守谷会長 当グループでは、社員が商品化したいアイデアを提案する「商品開発コンクール」を毎年開催しています。パート、アルバイトスタッフも含めた約700名の社員が対象です。
まずグループ各社で予選を開いて、社員全員の投票で本選に出場するアイデアを決定します。そして、本戦は経営陣で最終選考をして、優秀なアイデアは表彰し、商品化を検討することになります。
 1993年に1回目のコンクールを開催し、そこで生まれたのが先ほどの「プリーツ式網戸」でした。これがヒットしたことでチャレンジする社員が増え、コンクールの規模も年々拡大しています。いまでは 予選に毎年各社から100を超えるアイデアがエントリーし、予選を通過した20数個のアイデアが本選で競っていて、これまで商品開発コンクールで生まれた商品のトータルでの販売額は、約1,500億円にも上ります。
年齢・役職問わず、自分のアイデアが商品化するチャンスがありますから、社員のコンクールへの参加意識はとても高いと思います。
また、社員が日頃の生活のなかで、「こういう商品があったら面白いな」「この機能があれば助かるな」と考えるようになったのは商品開発コンクールの開催で得られた大きなプラスの効果ですね。

――ものすごい数のアイデアが社員から出てくるのですね?

守谷会長 ただ、どんなにいいアイデアで、いい商品を開発しても、売れなかったら「負け」。売れて、利益が出ることで初めて社員に分配でき、取引先も喜ぶ。「三方よし」になるのです。商売である以上は勝たなければいけません。
 「売れるアイデア」のいちばんの近道は、すでにヒットしている商品の改善・改良です。網戸にしても樹脂パレットにしても、年々進化させ続けることによってさらに商品価値が高まり、売れるようになっていきます。
 一方、まったく新しい商品になると、売れるかどうかは販売してみなければわかりません。外部のマーケティング会社の力も借りながら、商品化の是非を判断していきます。
 あとは、業種ごとに販売に強いルートを持つことが大事ですね。当社の場合、BtoBに比べて一般消費者向けのBtoC領域はあまり強くありません。そこで、大手の小売店との取引によって販売チャネルを強化しています。

イノベーションのカギは「まず上司が範を示す」

――社員のアイデアから多くのヒット商品を生み出していますが、知的財産の保護はどうしているのですか?

守谷会長 まずは、取引先と友好な関係を構築しておくことですね。そうすれば、仮に他社が模倣した商品を出したとしても「うちはセイキの商品を取り扱っているので結構です」となる。
 取引関係で優位性を確立することが、知的財産の保護につながります。
 その上で、特許、実用新案、意匠権などの知的財産権を取得します。ただ、それらの権利には当然期限があるので、その期限内で製造技術や販売までの流れを構築し、どこが真似してきても負けない商売の形をつくっておくことが大事ですね。
 また、取引先との関係を築いておくと、彼らが「こういう技術ができました」などと貴重な情報を提供してくれます。そのことが、次の商品アイデアにつながります。

――中小企業がイノベーションに取り組む上での、注意点はありますか?

守谷会長 「よその会社がこうやっているから、お前たちもやれよ」と命令するだけでは社員は動きません。まずは上司が模範を示して真剣に取り組み、成功例を見せることです。そうすれば、社員も納得してアイデアを出そうとします。
 加えて、部下がいいアイデアを考えたら、上司は「いいものを考えたね、これは売れるよ」と評価して、伝えてあげることです。やはり、褒められると人はやる気になる。
 そして、そのアイデアを、アドバイスをしながら一緒に形にしていく。
 その結果生まれた商品が、店頭で売られているのを見るのは、社員にとって何にも代えがたい喜びです。それが仕事の面白さにつながり、次のアイデアを生む原動力になっているのです。



所沢ショールームで、国際部部長の守谷崇氏(右)、商品部部長の茅野充彦氏(左)と

セイキ販売株式会社

■本社: 〒176-0014 東京都練馬区豊玉南3-21-16

■設立: 1965年11月

■資本金: 9,900万円

■従業員数: 290名

■事業内容: 各種網戸、断熱・省エネ製品、デッキ材、目隠し、省エネルギー製品、日用品等、住設及び生活関連用品の企画・製造・販売

提言内容の解説

Ⅰ- 5 経営理念・ビジョン・中長期の明確な目標の浸透による社員の前向きな意識醸成、組織づくりの重要性
 環境変化が加速化する中で、継続してイノベーションを創出できる「再現性・持続可能性」のある組織づくりが事業の継続、成長のためのポイントとなる。
 セイキ販売では、全社員を対象とした「商品開発コンクール」を毎年開催し、優秀なアイデアは実際に商品化するなど、会社全体で評価する環境を整えている。年齢・役職問わず商品開発のチャンスを与えることが、社員の自由な発想を引き出すことにつながっている。

Ⅱ- 5 知財保護に向けた中小企業がとるべき知的財産戦略の構築
 中小企業・小規模事業者はイノベーションにより創出した新技術や新商品を持続的な成果につなげることが重要である。
 セイキ販売では、知的財産権の取得だけでなく、取引先との友好な関係が知的財産の保護につながると考えている。模倣する企業が現れたとしても優位性を失わないよう、取引先との関係構築に取り組んでいる。また、知的財産権の有効期限内に、製造技術や販売までの流れを構築し、どこが真似してきても負けないような体制を構築することも重要である。