東京商工会議所

世界最先端の自動運転シミュレータの実現に、ゲーム生まれの技術で貢献

情報通信業
株式会社ORENDA WORLD

代表取締役 
澁谷 陽史(しぶや あきふみ)氏



ORENDA WORLDのイノベーションの特徴

○ゲーミフィケーション技術を活かし、仮想空間制作に注力することで自動運転シミュレータ事業に参入
○地方の人材育成、人口流出阻止に向け、自治体と連携しIT人材を育て、会社とマッチングをするプラットフォーム事業を開始

ゲーム制作で培った技術を活かし、トヨタやデンソーの自動運転シミュレータ開発に事業領域を広げたORENDA WORLD。IT人材の育成を通じた地方創生にも、積極的に取り組む。ゲーム制作の領域を超えて、社会課題を解決するソリューションをいかに生み出しているのか。


ヒットに左右されない事業を探して、「仮想空間」に着目

――コンセプトが、「クリエイティブ×テクノロジーで世界を面白く」と、わくわくする内容ですね?

澁谷社長 事業領域がゲームを始めとするコンテンツ開発を中心に、声優・クリエイターの育成、音声の研究など、世の中を面白くするものですから、このようなコンセプトを設定しました。
 創業当初は、ゲームコンテンツの受託制作がメインでしたが、ゲームを含むコンテンツ産業は作品の当たり外れに大きく左右されます。膨大な時間とコストをかけてゲームをつくっても、ヒットしなかったら何も残りません。
 ですから、一時のヒットに左右されずに5年、10年のスパンで安定した利益が得られ、かつ今後の世の中に必要とされるプロダクトも同時並行してつくっていこう、というビジョンを創業時から掲げていました。それが、幅広い事業展開につながっています。

――そもそも、仮想空間に注目するようになったきっかけは何だったのでしょうか?

澁谷社長 2010年代初頭からスマートフォンが普及し始めて、以前ならテレビやゲームにしかなかったインターフェースを、誰でも持つようになってきましたよね。これまでであれば、ゲームならテレビかパソコン、ほかでいうとパチンコ台の液晶くらいしかなかった。
 インターフェースを誰もが持っているということは、同時にその中にあるサービスも発展するだろうと、そこに可能性を見出しました。特に仮想空間が発展していくと考えて、3DCG技術を活用した仮想空間制作に注力したのです。

自動運転シミュレータで得た技術を、他分野にも活かしたい

――ゲーム製作で培った仮想空間の制作技術で、自動車業界に進出していますが、具体的には何をされているのでしょうか?

澁谷社長 自動車部品メーカーのデンソーから声をかけていただき、自動運転シミュレータの仮想空間に必要な「教師データ」の制作を行っています。
 「教師データ」というのは、シミュレータの画像認識AIにさまざまなシチュエーションを教え込ませるための画像データです。
 これまでは、実際に写真で撮影したデータを、AIに学習させていたのですが、例えば、目の前に白線があったら「止まれ」というプログラムを出すように教えていた場合、雪が降ったら白線が消えてしまって、車は止まれない。要は現実に雪が降った時はこう見えるよとAIに教える必要がある。
 写真だと実際に雪を降らせるのは大変ですから、雪が降っているシチュエーションの画像を仮想空間でつくり、それをAIに教え込ませているわけです。
 このような運転時のシチュエーションは天候や時間帯の組み合わせ以外に、人が飛び出すパターンも子どもとお年寄りでは異なるし、マンホールがずれている道路の場合など無数に存在し、自動運転の安全基準をクリアするためには約8兆通りもの画像が必要と言われています。
 しかも安全安心基準は時代に応じて変化するので、現実の写真では調達が不可能なのです。

――その膨大なシチュエーションを仮想空間でつくる必要があって、貴社に依頼があったのですね?

澁谷社長 デンソーの方がさまざまな業界や企業を調べるなかで、ゲーム業界が最も仮想空間の技術が進んでいたとのことで、当社を選んでくれました。デンソーの担当者とはゲームエンジンや3DCGに関する交流会で出会い、当社の高精細CGやゲームエンジンに関する技術を評価いただき、話が進みました。
 教師データの制作をしていると、今度はトヨタ自動車からも直接声をかけていただき、今ではシミュレータに搭載する画像認識AIそのものを分析するところまで、事業領域が広がっていっています。
 「世界のトヨタ」が開発する自動運転シミュレータ技術における安全基準は、いずれこの分野のデファクトスタンダードになるとみています。そこにORENDA WORLDが貢献することで、得られた技術や知見を建築、ドローン、原子力開発など他分野のシミュレータ開発にも横展開することができると考えています。
 しかし、技術を確立した後、ゲーム技術が他分野へ転用できうる技術であることを広く知っていただくことが現在の課題であり、そのためには多くのプレゼンテーションや実証が必要だと感じています。今回のデンソーとの取り組みは、その点では当社ができる技術を見える形で証明でき、広く認知につながったケースだと感じています。


自動運転シミュレータの仮想空間(左:住宅街、右:雨天時)



今の領域から少し「ズレた」ところにブルーオーシャンはある

――22年12月に、IT大手のPCIホールディングスと資本業務提携を締結しましたが、狙いと効果を教えてください。

澁谷社長 当社は、画像認識技術は持っていても、たくさんのエンジニアを抱えているわけではありません。デンソーやトヨタも含め、今後のAIシミュレータ開発のニーズに対応するために、エンジニア人材に強みを持つPCIと業務提携することを決断しました。
弱い部分は積極的に外部の力を活用する、いわゆるオープンイノベーションで事業を成長させていきたいと考えています。

――エンジニア人材の育成では、地方自治体とも連携していると伺いましたが?

澁谷社長 某巨大ゲームの制作中に、仮想空間制作のアルバイトスタッフを延べ150人ほど雇ったことがありました。コロナ禍だったので、フルリモート。当社のゲームづくりのノウハウを公開して3カ月から半年間、一緒に仕事をしたのですが、これによって彼らは職務経歴ができただけでなく、ゲーム制作の分野ではある程度のことができるようになりました。
 すると、大手のゲームメーカーから雇いたいと声がかかったのです。つまり、フリーターの人も3カ月かけてマニュアルを使って実地訓練をしっかりやれば、かなりの確率でゲームクリエイターに転身できることがわかった。これは衝撃でしたね。
 ゲームや映像、アニメ業界は競争が激しくて新卒で入社するのがとても難しい一方、中途採用になると経験値がものをいうようになって、大学のランクやコミュニケーション能力よりも経験で入社できるようになります。
 逆に言うと、経験さえ積むことができれば、ゲーム会社に就職して、リモートでどこでも仕事ができるようになる。東京ではIT技術者が不足していますから、地方の自治体と連携して技術者を育てれば、その地域に住みながらリモートで東京の仕事ができて、かつ地域の雇用が増やせると思いついたのです。
 そこで、まず2022年2月、富山県魚津市とゲームクリエイター育成支援の包括連携協定を締結し、当社が開発したゲームクリエイター人材育成プログラム「LEVEL BOOST」を同市内で展開しました。
 2023年2月には熊本県天草市とも立地協定を締結し、ORENDA WORLDのサテライトオフィスを兼ねた人材育成拠点「天草スタジオ」を開設しています。
 今後は、「雇用」という概念も古くなるかもしれませんね。ゲーム人材の育成を通じて、一人ひとりのライフスタイルに対応した多様な働き方を支援していきます。

――自動運転や教育に事業を拡大していますが、こうしたイノベーションを起こすためのポイントは?

澁谷社長 一つは「バズワード」に左右されないこと。私たちは一時の流行ではなく、創業時から「仮想空間と現実を行き来する時代が必ず来る」と信じ、そのための技術を蓄積してきました。
 VR、Web3.0、NFTなどのトレンドに目移りする前に、いつも一度冷静になって「本当に自分がやりたいことと、世の中が求めるものは何なのか」を見つめ直すことにしています。
 もう一つは、経営の教科書に書いてあるようなことですが「自分たちの領域から少しズレたところを探して、広げる」こと。その視点があったから、ゲーム業界から仮想空間シミュレータの技術開発という、ある種ブルーオーシャンの領域にシフトできたのだと思っています。そのズレた領域を見つけるには、とにかく「足を使って人と話す」ことです。
 イノベーションとはコーディネートだと思っています。突然、0からアイデアは出てこない。何かと何かの組み合わせなのです。そのためには、人と話して、足を使って、いろいろな場所に行く。アナログな活動が大事だと思っています。


株式会社ORENDA WORLD

■本社: 〒107-0061 東京都港区北青山一丁目3番6号 SIビル青山5階

■設立: 2015年7月

■資本金: 1億6,700万円

■従業員数: 76名

■事業内容: 受託開発事業、ビジネスソリューション事業、データ活用事業

■企業HP: https://orenda.co.jp/

提言内容の解説

Ⅰ- 1 未来の社会構造、自社のありたい姿を見据えた「未来志向」の重要性
 時代の変化に対応しイノベーションを創出していくためには、業界を取り巻く動向や、次の 10 年、20 年といった未来の社会構造・ニーズを意識し、自社の強みや経営資源が適合可能なマーケットを「探索」する「未来志向」の考え方(As-Is 、To-Be)が求められている。
 創業当初取り組んでいたゲームコンテンツの受託制作は、作品によって利益率が左右されるといった経営上のリスクが存在していた。中長期で安定した利益が得られ、かつ今後の世の中に必要とされるプロダクトも同時並行してつくるという「未来のありたい姿」を明確にしたことで、仮想空間の制作技術を磨き、結果として自動車業界への参入、新たな収益の柱の構築に成功した。

Ⅰ- 3 顧客ニーズや異業種の取り組みなどの情報収集、人脈形成などの社外活動の重要性
 イノベーションの源泉の一つは、アイデアの組み合わせであり、社外での情報収集を通じて異業種の取り組みやアイデアを、自社のビジネスモデルに組み合わせることがイノベーション創出につながる。
 澁谷社長は、「自社の領域から少しズレた、ブルーオーシャン」を見つけ、イノベーションにつなげるため、様々な業界・地域に自ら積極的に足を運び情報を収集している。実際に地方での情報取集を受け、地方自治体と連携した「IT人材育成事業」を発案し、地方創生につながる新規事業として、連携地域を広げている。