東京商工会議所

ニッチな領域を深く深く追求し、誰も真似できないところまで技術を磨き抜く

建設業
有限会社丸重屋

代表取締役社長 
平手克治(ひらて かつはる)氏

丸重屋のイノベーションの特徴

○3Dやドローンといった先端技術を駆使して、インフラメンテナンス分野の社会課題に挑戦
○正確かつ0.5歩先の価値ある情報をキャッチし、新たな事業に活かす

構造物を破壊せずに検査する「非破壊検査」、ドローンを活用した3Dのインフラ点検・測量手法――土木業界で新しい技術を取り込み、注目を集める丸重屋。
大手ゼネコンなど競合の多い市場で、唯一無二の地位を確立するために、挑戦したイノベーションとは。


土木工事のレッドオーシャンで敗北、「非破壊検査」に活路を見出す

――「丸重屋」という社名がユニークですね?

平手社長 「お菓子屋さんですか?」とよく聞かれますね(笑)。実家が江戸時代から続いていた京都の着物屋で、そのときの屋号を起業した際に社名として受け継ぎました。着物屋は、私が小学生の頃に閉めることになってしまったのですが……。
 社名からは連想しづらいですが、橋梁、道路、トンネルなどの「インフラ点検」を主業としています。
全国には橋梁が約72万橋、トンネルが約1万本と、多くのインフラが国土を支えています。これらの多くが、竣工から30年を超え寿命が近づいているのです。2012年には山梨県の笹子トンネルの天井板が崩落する大事故が起こるなど、インフラの老朽化は社会課題となっています。これを受け、2014年に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(品確法)が改正されて、橋梁やトンネルの5年に1回の定期点検が義務化されました。当社もその一端を担っており、橋梁だけでも年間700を超える点検実績があります。
 もう一つの事業の柱が「非破壊検査」です。非破壊検査とは、文字通り構造物を壊すことなく、目に見えない損傷や劣化状況を検査する手法です。内科医が患者を検査するときも、レントゲンや聴診器を使って検査をしますよね。それと同じで、「構造物の内科医」だと思っています。

――非破壊検査とは耳慣れない言葉ですが、どのような経緯で取り組もうと思ったのでしょうか?

平手社長 当社は2000年に土木工事の設計・施工管理の会社として創業しました。ところが、この業界は大手ゼネコンをはじめ競合ひしめくレッドオーシャン。もともと建設業界に従事したのちに当社を設立しましたが、創業当初3年間はまったく受注がなくて、社員に「ごめん。給料が払えない」と頭を下げることもあって……。
 当社にしかできない技術を確立しなければ、との危機感を抱いていたなかで出合ったのが非破壊検査でした。当社の業務を監理・監修する財団の調査員の方と、現場で一定期間ご一緒する機会があり、「今後どのような技術を学べば事業で困らないか」相談したところ、“非破壊検査”というキーワードを教えてもらいました。普段の業務だけでは接することのない情報を知り、「これだ!」と思い、独学で必死に勉強しながら事業を立ち上げました。もちろん最初は手探り状態でしたが、本屋で参考文献を探し、穴が開くまで読み込んで実践することで、ノウハウを習得していきました。そこから少しずつ受注がもらえるようになり、いまでは主力事業の一つに成長させることができました。


中途採用の社員が確立した、ドローンを使った3D測量・点検手法

――近年は、ドローンを活用した測量やインフラ点検にも取り組んでいるそうですね?

平手社長 測量用ドローンで上空から構造物を計測し、得られた情報をもとに誤差1~3cm以内の高精度で三次元データ化します。3Dにすることで、橋梁や法面など構造物の全体像を広範囲に、かつリアルタイムで把握することができます。 また、インフラ点検にもドローンを活用することで、作業の大幅な効率化・工数削減が可能になり、コスト削減も実現できます。

――測量・点検の分野における画期的なイノベーションですね?

平手社長 私ではなく、いまドローンコンサルタント×先端技術グループ(DX推進事業部)を任せている加來裕紀君がここまでドローンの測量・点検技術を確立し、事業を拡大してくれました。
 2015年当時、小さなドローンでも1台数百万円もしたので、投資をするのが本当に怖かった。でも、「絶対にこの技術が主流になる」と信じて購入し、ドローン事業の部署を立ち上げました。
 ただ、自治体などに説明しても、「いい技術ですね」とは言ってくれるものの、採択されるまではなかなかいきませんでした。というのも、日本の二次元の検査技術は世界的に見てもトップクラス。もう二次元でことが足りる状態なのです。ゆえに「二次元の図面に起こす」ことが正義になっており、これまでにない三次元の検査手法は敬遠されて……。まったく受注が取れず、一度はドローン事業を解散しました。
 でも、「絶対にドローンはくる」と信じていたので、機を見て、捲土重来したいと思った時に加來君が丸重屋の門を叩いてくれて。彼が会社の奥に眠っていたドローンに興味を持ってくれて、事業部をそのまま任せました。すると、ドローンの操縦を勉強し、技術の深化……深く深く掘り下げていくことが始まりました。最初は非破壊検査事業の立ち上げ時と同様、参考文献を読み漁りました。また、構造物の情報収集と言っても構造物自体はもちろん、老朽化や部材の疲労、変状など目的によって必要となる情報も異なります。1種類のドローンだけでは対応できず、様々なドローンの特性を理解し、目的にあった組み合わせを検討・実践するといった挑戦を約3年間繰り返し、サービス化に至りました。その技術が認められた結果、「丸重屋にしかできない」と契約してもらえるケースも増えたのです。

加來 もともと他の業界で営業を担当していました。建設業界に初めて入ってきて、他の業界では当たり前となっているデジタル化などが非常に遅れていることを知り、チャンスがあると感じました。そうした中、2022年には、政府が人による目視や常駐などを義務付ける「アナログ規制」の撤廃を広げると決めて、国交省も3Dやデジタル技術を積極的に取り入れる動きが進んできています。具体的には、堤防などの点検は目視での確認だったり、工事現場は現場に出向いて人による巡視が必須でしたが、それがカメラによる遠隔からの確認などでよくなった。このような動きも追い風となり、ドローンは事業の新たな柱になりつつあります。



加來裕紀氏(DX推進事業部)と平手社長


社員一人ひとりの「おもしろい」を大切に、チャレンジを奨励する

――リソースが少ない中小企業が、イノベーションに取り組む上で重要なことは何だと思いますか?

平手社長 我々のケースになりますが、三つあると思います。
 第一に、ニッチな領域をより深く追求すること。非破壊検査もドローン事業も、いずれもニッチな領域ですが、誰も真似ができないところまで技術を磨き上げれば必然的にオンリーワンの存在になり、受注を獲得できます。
 第二に、大手のゼネコンやコンサルと戦う中で新規事業が淘汰されないように、いわゆる「ランチェスター戦略」で範囲を限定した局地戦を重視しています。それぞれの地域で42%の安定目標値(首位独走の条件)を確保し、「勝ち」を積み重ねることで、ドローン事業を拡大させていきました。
 最後に「情報」です。創業時には土木業界のレッドオーシャンに呑み込まれ、市場から淘汰されました。ドローン事業も一度解散しています。それらの「失敗」を振り返ると、原因は正確な情報をキャッチできていなかったことに尽きます。一歩先よりも「0.5歩先」を見て、正しい情報をキャッチすることが重要です。国交省のホームページは毎日チェックしていますし、他社が取り組んでいるイノベーション事例も一から勉強しています。
 情報といっても、誰もが見るようなインターネット上の記事など内容の薄い情報でなく、自分たちの事業にあった情報、中小企業に向けて書かれた情報、一次情報など、情報を選択する力も大切だと思います。

――非破壊検査、ドローンと、新たな領域に挑戦し続けるパワーの源は何でしょうか?

平手社長 取り組んでいて「おもしろい!」と思えるから、挑戦できるのでしょうね。
 ちょうど先日、若手社員から「建築土木を、ロールプレイングゲームのように説明するツールを試作してみたい」と提案があったので、会社の経費で進めるよう承認しました。また、別の社員は当社のマスコットであるパンダの動画をツイッターに毎日アップしています。もちろん業務の一環なので、勤務時間中に取り組んでもらっています。
 事業として花開くかどうかは、やってみないとわかりません。だから、まずは社員一人ひとりの「おもしろい!」を大切に、前向きなアイデアを推奨することで、「自ら考え価値を生み出す人材」の育成につなげています。また、若い世代はデジタルに対する感度が非常に高いため、方向性を示しながら、イノベーションに不可欠なデジタル人材の育成にも取り組んでいます。
 結果として、こうした取り組みの積み重ねによって、社会を変革するような新たなアイデアが生まれればいいと思っています。



有限会社丸重屋(東京技術センター)

■本社: 〒136-0072 東京都江東区大島5-5-1

■設立: 2003年10月

■資本金: 1,000万円

■従業員数: 30名

■事業内容: インフラ点検、非破壊検査、ロープ高所作業、ドローン測量、ドローン点検、デジタルトランスフォーメーション

■企業HP: https://www.marushigeya.jp/

提言内容の解説

Ⅰ-2 イノベーション創出に向けた経営者の強い意志の重要性
 革新的なイノベーションは、実現に向けた多くのハードルや、長い期間を要するケースが存在する。これらを乗り越え成果につなげるためには、経営者の「強い意志」が必要不可欠である。
 丸重屋では、土木工事の設計・施工管理の会社として創業した後、業界内の競争に呑み込まれ市場から淘汰され、また新規事業であるドローン事業も一度は解散した。それでもドローン技術を積み重ねる中で、政府の「アナログ規制」撤廃の動きなどもあいまって、収益の柱として事業を確立させた。イノベーションを成果に結びつけるため、将来の可能性を信じ、投資と技術の深化を続ける、まさに「強い意志」が成果創出には不可欠である。

Ⅰ- 6 「ビジネス知」と「デジタル知」の融合に向けた若手人材の活躍促進
 革新的なイノベーションの創出に向けては、ITを経営戦略に活用する「攻めのIT」の取り組みが重要となる。
 丸重屋では、インフラメンテナンスにおいて3Dやドローンといった先端技術を活用したサービス開発に取り組み、新たな事業の柱を確立した。また、今後もITを活用したサービスの発展に向けて、若手社員の育成にも取り組んでいる。「ドローンの資格を取りたい」、「DXについて学びたい」など、社員の積極的な取り組みを後押しすることはもちろん、3次元事業のレベルアップに向け勤務時間中でも遊び感覚で3次元ソフトに触れることを奨励するなど、デジタル人材の育成に「資金」と「時間」を積極的に投資している。