東京商工会議所

電気工事会社が70年かけ、お客さまの価値ある建物をトータルサポートする会社へ

建設業・不動産業
株式会社アキテム

代表取締役社長 
鯉渕健太郎(こいぶち けんたろう)氏
取締役会長 
鯉渕要三(こいぶち ようぞう)氏

アキテムのイノベーションの特徴
電気設備の工事を行う専門の会社として創業してから、総合ビル管理、リニューアル工事、そしてプロパティマネジメントと着実に事業を拡大。

1952年の創業以来、70年にわたって黒字経営を続けている建物マネジメント企業のアキテム。黒字経営の秘訣は、自社の強みを客観的に把握し、その延長線上にある事業領域を拡大していったこと。新規事業の必要性を、社内に浸透させるコミュニケーションも参考になるだろう。


全社員の反対にあいながらも、総合ビル管理市場に参入

――鯉渕社長は、御社を〝建物を通して社会に貢献する企業〟とおっしゃっていますが、具体的はどのような事業なのでしょうか?

鯉渕社長 電気設備工事、総合ビル管理、リニューアル工事、そしてプロパティマネジメントの四つの事業を行っています。
 総合ビル管理は清掃から警備、設備管理。リニューアル工事は、外観の全面リニューアルから大規模複合工事まで行います。2019年に立ち上げたプロパティマネジメント事業では、オーナーさまのご相談に乗りながら建物を運用する上でベストな提案をしています。
 アキテムでは、この4事業が連携することで、建物をつくるところから、守って、活かすところまでワンストップで提供しています。



鯉渕会長 1952年の創業以来、電気工事を中心に成長し、バブルの頃は断らざるを得ないほど仕事の依頼がありました。しかし、この状況は長くは続かないと見ており「電気工事事業の他にも事業の柱をつくっておかなければ」との思いがありました。そこで、1988年に思い切って飛び込んだのが総合ビル管理の世界です。

――バブルの好況のなか、あえて新規の市場に挑戦したのですね?

鯉渕会長 当時は、社員全員に反対されました。「何でそんなことをやるんですか?」と。電気設備工事が好調でしたからね。
ただ、実際に参入してわかったのですが、ビル管理事業者の多くは清掃業からスタートしており、私たちのように電気設備の技術をベースにビル管理ができる事業者はいなかったのです。「アキテムは電気を基盤として技術で建物を管理していく」。そういう訴えかけがお客さまに響いて、だんだんと仕事が増えていった感じですね。また、技術を持つ優位性を活かして、空調や給排水など対応できる領域を増やしながら事業を拡大していくことができました。



オーナーの力になれない悔しさがプロパティマネジメント事業の原点

――社長が、プロパティマネジメント事業を始めたきっかけは?

鯉渕社長 失敗というのか……挫折というか……お客さまのビル管理の解約がきっかけでした。
 当社が約30年間管理を受託していたビルがあり、オーナーとも長く信頼関係を築いてきました。当社の担当者が行くと、お茶を飲んで2時間しゃべるくらいの関係。
 ところが、あるとき不動産会社から「このビルが売却されることになった。オーナーが変わるので、アキテムさんが管理していたデータをすべて出してください」と突然連絡があったのです。 そのビルは親子の名義で所有していたので、いずれ相続や事業承継の問題が出ることはわかっていたし、オーナーとも時折そのような会話をしていましたが、当社は何も知らなかった。不動産会社と内々で話を進め売却を決めたと、事後に聞きました。

――長い付き合いのあるオーナーだけに、相談がなかったのはショックですね?

鯉渕社長 ビル管理の仕事は、建物の現場を一生懸命守り、お客さまから「ありがとうの言葉」をたくさんいただける非常に大切な仕事ですが、オーナーさまからするとそれ以上でもそれ以下でもない、あくまでビルを管理する会社。
「建物をどう扱っていこう」、「相続対策はどうしよう」という悩みを相談する先は我々ではないと再認識させられた出来事でした。
 この話に限らず、当然ビルのオーナーチェンジがあれば解約のリスクは伴います。新しいオーナーが当社に継続して頼む例もありますが、「知っているビル管理会社に頼むよ、いままでありがとう、さようなら」ということも結構あります。
 だったら、プロパティマネジメントを始めて、お客さまの声を早めにキャッチし、ビル管理が解約にならないような先行した動きが取れるほうがいいじゃないかと……。 また、ビルという資産の長期的な維持や活用を考えているオーナーのために、当社が適切な運用プランを提案できれば、それが新たな収益の柱になるし、ビル管理の解約防止にもつながる。そう考え、2019年にプロパティマネジメント事業を立ち上げました。
 そのプランは、大手不動産会社との差別化を図るため、中堅、中小のビルオーナーさまをターゲットに、必要な部分だけ外部に委託できる柔軟なメニューを組めるようにしました。こうすることで、リーズナブルな料金設定でオーナーさまの不動産経営をサポートしています。

――プロパティマネジメント事業に進出して、どのような効果やメリットがありましたか?

鯉渕社長 オーナーは、「何か問題が生じたら、アキテムに聞けば解決してくれる」との期待感を、以前より持っていただけていると実感しています。
 そのためか、工事の受注も増え確実に数字はついてきています。
 また、社員の意識も大きくかわったと思います。たとえば、これまでビル管理の担当者は「メンテナンス以外のことはわかりません」というように、担当外の仕事は他に任せるといったスタンスの社員が少なからずいました。しかし、プロパティマネジメントを担うことで「次はどういうテナントが入居するのか」「与信は大丈夫だろうか」など、資産運用の目線を持って仕事に取り組むことができるように、社員がみんな成長してきたと思います。

鯉渕会長 東京23区内で築30年以上経過したビルは、延べ床面積にして毎年の新築ビルの延べ床面積の合計の70倍もあるそうです。そういった築年数の古いビルの運営や資産運用に対するニーズは高いと思います。  そこに、当社のように中小企業でありながら施工から管理、プロパティマネジメントまでトータルでサポートできる会社は意外と少なく、当社がこれからもお役に立てるのではないかと実感しています。



新規事業は丁寧なコミュニケーションで少しずつ浸透させる

――新規事業を社内に浸透させるポイントはありますか?

鯉渕社長 かつて、総合ビル管理事業を始めるのに社員から反対された話を私も会長から聞いていたので、新しい事業が会社にとってなぜ大切なのか、他の事業部に対してどのように貢献できるのかを丁寧に伝えていくことが必要だと考えました。
 そこで、ホームページやCI(コーポレートアイデンティティ)の刷新を機に「ブランディングプロジェクト」を発足し、そこでアキテムという会社の存在意義や経営理念を言語化し、社内で共有していくところから始めました。それらを実現するためにはプロパティマネジメント事業は欠かせないと事あるごとに社員に話し、その必要性を浸透させる計画です。
 ただ、計画は大切ですが、理屈と正論だけで進めても絶対に人は動かないし共感しない。ですから、決して押し付けず、場面を変え、言葉を変え、伝え方を変え、少しずつ浸透させようとしています。

鯉渕会長 社員が理解し、動いてくれて、初めて自分たちが考えていることが実現できます。したがって、堅い、難しい話をなるべく柔らかく伝えるコミュニケーションが重要ですね。
 その結果、私や社長だけではなく「新規事業は大切だ」と自分の言葉で話せる社員が一人、また一人と増えていくことを期待しています。

――イノベーションに取り組む中小企業の経営者へのメッセージはありますか。

鯉渕社長 私たちがやってきたことは、これまでの経営の延長であり、一般的な意味での「イノベーション」に当たるのかどうかはわかりません。それでも、常にお客さまの悩みやニーズを察知しながら、事業を拡大してきました。事業を多角化し相互に補い合うことで、創業から70年以上ずっと黒字経営を続けることができています。
 イノベーションの種は、お客さまの要望に応えていこうと日々堅実に進んでいく先にもあるのではないでしょうか。



株式会社アキテム

■本社: 〒153-0043 東京都目黒区東山1-1-2 東山ビル

■設立: 1952年11月

■資本金: 8,100万円

■従業員数: 231名

■事業内容: 電気設備工事、リニューアル工事、総合ビル管理、プロパティマネジメント

■企業HP: https://www.akitem.co.jp/

提言内容の解説

Ⅰ- 1 未来の社会構造、自社のありたい姿を見据えた「未来志向」の重要性
  中小企業・小規模事業者が経営戦略を検討する際、成果をあげている既存事業における業務効率化や利益最大化を目指す「深化」の取り組みとあわせて、未来の社会構造やニーズを意識し、自社の強みや経営資源が適合可能なマーケットを探索する「未来志向」の考え方が重要となる。
 アキテムでは、電気工事事業が好調であるなか、総合ビル管理という新たな事業の柱をつくった結果、ビル管理を行う上で電気設備の技術をベースにしていることに優位性があることに気づいた。また、「建物を通して社会に貢献する」という理念のもと事業を拡大し、相互に補完することで競争力強化につなげている。

Ⅰ- 5 経営理念・ビジョン・中長期の明確な目標の浸透による社員の前向きな意識醸成、組織づくりの重要性
  これまでの事業や発想とは全く異なる革新的なイノベーションに取り組むためには、組織の理念やビジョン、中長期の目標を明確にし、 社員の前向きな取り組み、自発的な行動を促していくことが重要である。
 アキテムでは、社員が新事業の必要性を理解して自発的に行動するようになることを期待し、「ブランディングプロジェクト」を発足させた。会社の存在意義や経営理念を言語化することで、社員への浸透を図っている。