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会頭所信

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会頭所信

我々の進むべき道・果たすべき役割~日本再生に向け、挑みつづける、変わらぬ意志で~

1.はじめに

 「失われた20年」と言われた長期にわたるデフレ経済から脱却すべく「アベノミクス」がスタートし、世の中に明るい兆しが見え始めた2013年、私は東京商工会議所第21代会頭に就任いたしました。

 この6年間は「中小企業の再生による日本経済の成長力底上げを」をスローガンに掲げ、中小企業の日本経済における重要性と、中小企業の抱える課題を明確にし、その解決に向け、会員の皆様と様々な活動を進めてまいりました。私は、日本の様々な構造的課題が、立場の弱い中小企業の経営課題として最も早く現れるが故に、中小企業の課題を解決することは、予め日本の構造課題を解決することにつながると考えます。

 事業承継税制の抜本拡充、外国人在留資格の創設、働き方改革関連法の中小企業の施行時期の延期等を提言し、さらに最低賃金のあるべき姿、および大企業と中小企業の新しい共存関係の提案などがその活動の一例です。

 現在、頻発する大規模自然災害、深刻さを増す環境問題等、地球規模の課題も山積しており、長期化が懸念される米中対立等、世界は不確実性を増しています。国内ではアベノミクスにより足元の安心はようやく確保されましたが、一人当たり生産性・所得などの指標では先進国に大きく劣後し、さらに人口減少・高齢化などの構造的課題により、将来への不安が根強く残っています。また東京への人口流入は止まらず、地方の疲弊も日本の大きな課題です。一方、AI、IoT等のデジタル技術の進展は、中小企業や日本経済の抱える構造的な課題を解決する強力な手段を新たに提供しています。

 そのような中、新たに臨むこの三期目に、我々の進むべき道・果たすべき役割は、 第一に、引き続き「中小企業の強化を通じて日本の成長する力を育てる」こと、第二に、「東京と地方が共に栄える真の地方創生」を実現することです。そのために、次の4本の柱を据え、会員の皆様とともに挑戦してまいりたいと思います。

2.成長力の源泉である中小企業の活力強化

<第1の柱>生産性向上と多様な人材の活躍推進

 中小企業が業績を伸ばす上で一番の障壁として挙げられている人手不足は、生産年齢人口の減少に加え、中小企業から大企業への人材流出も影響し、いまや極めて深刻な問題となっています。その最重要対策の一つが「生産性向上」です。

 東京商工会議所では、最新のIT・デジタル技術の活用は中小企業の生産性向上に極めて有効であると考え、これまで、国によるIT導入補助金の活用推進など各種支援を進めてまいりましたが、中小企業のIT活用は未だ「発火点」には達しておりません。

 そこで今期は、新たな取り組みとして、IT活用が進んでいない中小・小規模事業者の60~70代経営者をターゲットとした「はじめてIT活用1万社プロジェクト」を展開いたします。関連機関やITベンダー企業とも連携し、簡単で便利な「身の丈ITアプリ」を紹介し、直接相談に応じる体制も整え、中小企業のIT導入の「発火」を促す取り組みを強力に推進してまいります。

 プロジェクトの推進役として、新たに「中小企業のデジタルシフト推進委員会」を設置し、中小企業のIT活用に関する課題解決を進めるとともに、AIなどを扱う専門人材の育成やITリテラシーの向上に資する事業を展開してまいります。

 最低賃金を上げれば生産性が上がるとの意見は、順序が逆です。まずは生産性向上により企業体力をつけることを優先すべきであります。

 また、「多様な人材の活躍」に向けた、女性や高齢者の労働参加や外国人材の活用促進の取り組みを引き続き強力に推進するとともに、「教育・人材育成委員会」を設置し、将来を担う産業人材の育成を推進するため、大学や専門学校との連携強化を図り、例えば、会員企業の経営者を講師とする特別講座など、商工会議所ならではの事業を進めてまいります。併せて、本年4月より順次施行されている、働き方改革関連法への中小企業の対応についても、引き続き支援してまいります。

<第2の柱>円滑な事業承継と起業・創業の促進

 中小企業経営者の高齢化が進展し、2025年には70歳以上となる経営者は約245万人にのぼり、その半数が後継者未定の状況となることが想定されています。現状を放置すれば、約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われるとも言われています。

 これまで営々と受け継がれてきた価値ある事業や技術を、次代へ承継していくことは極めて重要な課題です。また、経営者の代替わりを機に環境変化への新たな挑戦を図る例も多く、「大事業承継時代」は、変革と創造の好機でもあります。

 事業承継については、皆様の多大なご協力を得て、法人版事業承継税制の抜本拡充、個人版事業承継税制の創設が実現いたしました。いずれも時限措置となっており、例えば法人版事業承継税制は、2023年3月までに特例承継計画を申請する必要があるなど、まさにこれからが本格活用に向けた正念場ということができます。今後の本制度の恒久化を求める声も多く寄せられており、活用を加速する必要があります。例えば「第三者承継」を後押しする税制措置の創設や、「経営者保証」の廃止について、引き続き働きかけを行うなど、事業承継環境の改善に努めてまいります。
 また、地域経済の持続的成長のためには、起業・創業の活性化による、時代の変化にあわせたビジネスの新陳代謝が不可欠であると考えます。東京商工会議所は、新たに「新事業・イノベーション創出委員会」を設置し、起業・創業の支援とともに、ベンチャー・スタートアップ企業と大企業、中堅企業、特色ある中小オーナー経営者との交流・連携促進など、起業・創業や企業内のイノベーション創出に資する取り組みを推進してまいります。

<第3の柱>大企業と中小企業の共存共栄関係の構築

 わが国は堅固に積み重なる石垣のように、大企業、中小企業が相互に補完しあい、経済発展を遂げてきました。しかしながら中小企業は、サプライチェーンを支える重要な役割を担っているにも関わらず、弱い発言力、立場に置かれており、企業数は大幅に減少し、大企業との利益格差は拡大しているという状況にあります。

 大企業と中小企業が必要なコストを公正に負担し合い、また大企業が、サプライチェーンの重要な位置を占める中小企業のデジタル技術活用による生産性向上の支援や、オープンイノベーション等での連携を自社の課題として推進することで、サプライチェーン全体が強固になり、ひいては日本経済全体の成長基盤が確かなものになります。このような大企業と中小企業の新しい共存共栄関係の構築を訴え、同時に、多様な業種・規模の企業が会員である商工会議所の特性を活かし、自らも積極的に推進してまいりたいと思います。

 特に、中小小売・卸売・サービス業は、近年のIT化、キャッシュレス化の進展、流通構造の変化などへの対応が喫緊の課題となっており、サプライチェーンの中での大企業との補完関係の構築が重要となっています。東京商工会議所では、新たに「流通・サービス委員会」を設置し、小売業、卸売業、サービス業が直面している課題への対応を進めてまいります。

3.東京と地方が共に栄える真の地方創生

<第4の柱>東京の都市力向上の推進と地方創生

 わが国の持続的な成長を実現するためには、経済の成長エンジンである東京がその都市力を向上させ、国際競争力を強化させていくことが必要です。

 来年、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを機に、東京の都市としての魅力を世界にアピールし、インバウンドの観光振興などを通じて、経済はもとより地域全体ひいては日本の活性化につなげていくことが重要であると考えます。一方で、これまで増加を続けていた東京の人口が2025年をピークに減少に転じると予想されます。

 これまで東京商工会議所は「首都・東京」の商工会議所として、インフラ整備、観光振興、地場産業の振興等、東京の抱える様々な課題への対応を深化させてまいりました。今期は、新たに「東京の将来を考える懇談会」を設置し、東京都とも密に連携の上、2020年以降の東京を取り巻く環境を踏まえた課題解決や東京全体の将来像の検討を進めてまいります。23区の各支部においても、より積極的に各区のまちづくりや地域振興に取り組むとともに、本支部また支部間のネットワークを活かし、各地域での取り組みを「面」として広げ、東京全体の課題解決につなげていきたいと考えております。

 さらに、こうした取り組みによる東京の都市力向上、国際競争力の強化の効果を全国に波及させ、東京の持続的な成長と地方創生を車の両輪として、わが国の経済・地域の発展につなげてまいります。

 また、近年頻発する自然災害、首都直下地震への備えについても、必要なインフラ整備の強化や、会員の意識向上、事業継続のためのBCP策定支援など、ソフト面も含めた東京の都市防災力の強化に引き続き取り組んでまいります。
 東日本大震災から8年7カ月が経過いたしましたが、被災地では、未だ払しょくされない風評被害が大きな課題として残っています。東京商工会議所では、8万件の会員ネットワークと全国515商工会議所との連携を通じて、より実効性の高い、継続的な支援策を実施してまいります。


4.東京商工会議所の活動指針

 以上の「4本の柱」の取り組みにあたっては、商工会議所の実践力の強化、組織基盤の強化、及び23支部と本部の連携強化が必須であると考えます。

 私は、会頭就任から6年で、担当の副会頭とともに23支部全てを訪問し、この度、再度の訪問を開始しました。会員企業の皆様が自社の直面する課題に必死になって取り組まれ、さらには商工会議所の活動や地域の活性化にも熱心に携わっていただいている姿を目の当たりにし、やはり商工会議所の持つパワーの源泉は現場にある、との思いを強くいたしました。

 今期も引き続き、より多くの会員と直接対話する「現場主義」と、東商の活動を丁寧に説明し、現場の意見を政策にまとめて現場に返す「双方向主義」を実践してまいります。また、その最前線となる23支部と本部の連携強化を徹底していきたいと思います。

 東京商工会議所は、昨年、11年ぶりに会員数が8万件を突破いたしました。会員の満足度向上を図るとともに、創業間もない企業や、近年成長・発展をしている産業等、より多くの“新しい力”に商工会議所の活動・運営に加わっていただけるよう、その活動をわかりやすく発信する「商工会議所活動の見える化」をさらに推し進めてまいります。

 また、初代会頭である渋沢栄一が、2024年に発行される新一万円札肖像画や、2021年のNHK大河ドラマの主人公に採用されるなど注目を集めております。東京商工会議所としても、渋沢の思想を広げることには現代的価値があると考え、その普及に努めるとともに、ゆかりのある自治体や団体との連携を図りながら、関連事業を積極展開してまいりたいと考えております。

5.むすびに

 渋沢は、「民の繁栄が国家の繁栄につながる」との信念の下、民間が自律的に力を発揮すべきと繰り返し述べました。また「もうこれで満足だ、というときは、すなわち衰えるときである」とも述べています。
 現在の日本経済の繁栄は、先人企業人が不断の努力によって困難を克服し、その繁栄を次代につないできたからこそ、もたらされたものだと考えます。われわれ企業経営者も、渋沢をはじめとする先人達の信念・努力を将来の “新たな力”につなぎ、わが国が将来に向かって飛躍できる環境づくりを積極的に進めてまいりたいと考えております。

 昨年の創立140周年を機に、東商は150周年までの10年間の活動理念、行動指針を掲げた「140(意志を)つなぐ 東商ビジョン」を策定し、東京商工会議所のミッション、即ち「会員企業の繁栄」「首都・東京の発展」「わが国経済社会の発展」に基づく、「東商10の挑戦」を掲げ、“挑みつづける、変わらぬ意志で”をスローガンといたしました。

 東京商工会議所が、会員とともに何事にも挑み続け、将来に希望の持てる日本を創る。それが我々の進むべき道・果たすべき役割であり、私は先頭に立って、全力を尽くしてこの使命を果たす覚悟であります。

以 上
2019年11月1日
東京商工会議所
会頭 三村 明夫