東京商工会議所

長田電機工業株式会社

多くの拠点を束ね、グループ全体で健康経営を推進
各拠点の主要メンバーでの目標共有を図り、全従業員のさらなる健康意識向上を目指す

  • 健康診断
  • 組織・体制づくり
  • 歯・口腔の健康

長田電機工業株式会社

本社: 東京都品川区西五反田5-17-5

代表者名: 代表取締役社長 長田 吉弘 氏

設立: 1935年

従業員数: 303名(グループ企業含む)

事業内容: 歯科及び医科医療用機械器具の研究開発・製造・販売・修理・輸出

 創業88年目を迎える老舗歯科医療機器メーカー。業界の草分け的存在として、歯科医療機器の企画・開発から製造、販売を自社で一貫して行う。歯科業界で培ってきた技術を介護業界、ペット業界にも展開している。

専門家派遣制度を利用した期間

2021年11月~2022年3月

支援専門家

保健師

同社の製品の一つ「歯科用チェアーユニット」
同社の製品の一つ「歯科用チェアーユニット」
通常の歯科診療に必要な器械や器具と、患者さんが治療を受ける治療用のイス(チェアー)を統合した装置
通常の歯科診療に必要な器械や器具と、患者さんが治療を受ける治療用のイス(チェアー)を統合した装置
専門家派遣制度を利用したきっかけ

お客様の健康を支える医療機器メーカーとして、まずは社員の健康を支える健康経営に進めるにあたり、適切な取組ができているか、専門家に確認したい。

1935年の創業以来、歯科医療機器業界のトップランナーとして走り続けている長田電機工業は、2016年、現在の代表取締役社長・長田吉弘氏が就任したことを契機に、働き方改革に着手。従業員が働きやすい環境を整える中で、会社が従業員の健康を支える重要性を意識するようになり、2021年、健康経営に取り組むことを決めた。経済産業省の「健康経営優良法人」認定の取得を目標に据え、まずは健康優良企業「銀の認定」を目指すこととした。
当時、同社は東京本社に加えて全国に23の営業所、さらに長田電機工業株式会社名古屋工場というグループ会社を擁していた。これら多くの拠点を束ね、グループ全体で健康経営を推進するべく健康づくり担当者に選任されたのが、業務センターでセンター長を務める皆川要氏、人財センター・チーフの北村一貴氏、名古屋工場・業務チームの伊藤友美氏の3名だ。(3名は現在、その後新設されたグループ会社・株式会社オサダに所属)
「健康経営に取り組むことになった背景として、我々が医療業界に所属しているということはとても大きいと思います。お客様の健康を支える医療機器メーカーとして、まずは社員の健康を支えることが重要だと考えたからです」(皆川氏)
社内体制を整え、健康企業宣言を実施し、本格的に健康経営の取組をスタートしたところ、協会けんぽより専門家派遣制度の紹介を受けた。自社の取組内容が果たして健康経営に適切なものになっているかどうか専門家に確認し、必要に応じて改善をしながら健康経営に取り組んでいきたいという思いで、本制度に申し込んだ。

業務センター・センター長 皆川 要 氏(左)人財センター・チーフ 北村 一貴 氏(右)
業務センター・センター長 皆川 要 氏(左)
人財センター・チーフ 北村 一貴 氏(右)
名古屋工場・業務チーム 伊藤 友美 氏
名古屋工場・業務チーム 伊藤 友美 氏
専門家派遣による支援と取組
  • ● 産業医と連携した従業員の健康診断結果の確認及び受診勧奨の徹底
  • ● 健康経営推進に関わるメンバーを対象とした講演会と意見交換会の実施
  • ● 自社の事業を活かした歯の健康セミナーの実施

専門家の大神あゆみ氏(保健師)は、同社の取組を確認し、法令遵守が過不足なくされていること、また健康経営に必要な要素について網羅的に把握されていることを評価した。
その上で、まず健康診断実施後の対応を見直すことを助言した。
「健康診断の受診率は高いのですが、その結果による従業員の健康課題の把握については、ふんわりしていたといいますか、従業員が具体的にどんな課題を抱えているのかまでは把握できていませんでした」(皆川氏)
そこで、健康診断結果を産業医にも見てもらい、再検査の要否の確認に加えて、各従業員の健康状態が、就業上問題がないかという視点での確認も徹底するようにした。再検査が必要な従業員はもちろん、緊急度は高くないが、放っておくと大きな病気につながる可能性がありそうな有所見者についても、健診結果に加えて、産業医の目からもジャッジすることで従業員の健康課題を見逃さないこと、また早い段階で会社として対応できるよう備えることを目指した。
その上で、再検査・精密検査の受診の案内をする際は、期限を設けて「いつまでに受診をするか」を回答してもらうようにし、回答した期限までに受診したという報告がない場合は、担当者からメールや直接の声かけを行うことで、従業員の健康課題とその対応状況を会社が積極的に把握する仕組みを作った。
もう一つ、大神氏のアドバイスで実施したのが、健康経営推進に関わる主要メンバーを対象とした講演会と意見交換会だ。拠点が分かれる同グループにおいて、グループ全体で健康経営の取組を進めていくためには、これに関与する主要メンバー内で、健康経営推進に必要な知識や、健康経営を行う意義を共有しておくことが重要だ。そこで、各事業場の健康づくり担当者に加え、同社が健康経営を推進する上で連携の欠かせない、安全衛生委員会、人事部、総務部、常務役員、名古屋工場の社員など計20名を対象に、大神氏による講演会と、参加メンバーによる意見交換会を開催した。
講演会では、健康とはなにか、健康診断の目的と活かし方、安全衛生委員会の目的と運営、健康経営推進に必要な知識等に関する大神氏の講義を受け、同社が健康経営を行う意義を再確認した。また、それを踏まえ、従業員の健康づくりのために、今後「会社として行うと良いこと」「自分達ができること」についてディスカッションを行い、健康経営推進に関わるメンバー内で、今後の目標、取組の方向性を共有した。
さらに、歯科医療機器メーカーであるという強みを生かし、健康づくり担当者の北村氏の主導で、普段から付き合いのある歯科衛生士による歯の健康セミナーを3回にわたって開催した。
「インターネットのライブ配信で行いましたが、各回150名ほどが参加してくれました。参加者からはご自身のことだけでなく、お子様の歯のケアについてなど、様々な視点からの質問が挙がり、非常に盛り上がりました」(北村氏)
ライブ視聴ができなかった従業員に考慮して、後日アーカイブ配信も行なった。同社が事業で培ってきた人脈を活かしたオリジナリティのあるイベントで、従業員の健康に対する意識の向上を図った。
その他にも、社内のグループウェアを活用して月に一度、従業員に向けて健康情報を発信するなど、健康に対する意識の向上を目指した。

従業員への健康情報発信の一例。協会けんぽの資料を参考にしながら作成したもの
従業員への健康情報発信の一例。協会けんぽの資料を参考にしながら作成したもの
取組による効果、今後の展望
  • ● 健康優良企業「銀の認定」を取得することができた。
  • ● グループ全体で健康経営を推進するための社内体制を構築できた。
  • ● 各取組に共通する、健康経営の本質的な目標を再認識できた。

同社は、専門家派遣終了の約半年後に、健康優良企業「銀の認定」を取得し、現在も取組を継続するとともに、健康づくり担当者だけではなく、健康経営推進メンバーの協力を得て、さらなる取組も検討しているところだ。
例えば、健康診断に関連する新たな取組としては、健康診断のオプション(がん検診等)の伝え方を改善し、年齢や性別によって補助が受けられる健診の種類を提示するなど、従業員に向けてより丁寧に詳細な情報を発信するように工夫している。
今回の専門家派遣について、一番の成果は「健康経営の本質的な目標が見えてきたことだ」と3人は振り返る。
「健康経営に取り組んだ当初は、健康診断後の対応やセミナーといった取組の一つひとつが、それぞれ単独で、どこかバラバラなものに思えていました。ですが大神先生とお話をする中で、バラバラだった点と点とが結ばれていったというか、どの取組も従業員が本当に健康になるためにあるのだと考えるようになりました。認定の取得ももちろん大事なのですが、何よりも、今後も健康経営を続けることで従業員が『オサダグループで働いていてよかった』『働きがいのある会社だ』と思ってくれるようにしていきたいです」(北村氏)
「認定取得を目標にスタートはしましたが、そこはあくまでも健康経営を行う上でのステップだと考えています。最終的には北村が言うように、従業員に『オサダグループで働いてよかった』と思ってもらえることが、健康経営の本質的な目標になってくると思います」(皆川氏)
「私は名古屋からオンライン参加で取り組んできましたが、離れた場所にいても、グループ全体で健康経営に取り組むことの大切さを実感しました。社員が元気で良いパフォーマンスができれば、会社も元気になります。そのために何ができるかを考えながら、これからもオサダグループの代表として、健康経営を推進していきたいです」(伊藤氏)
今回の取組を通じて、本当の意味で健康経営をグループ全体で推進していくための体制をつくることができた。今後の課題は、従業員一人ひとりの健康に対する意識の向上だ。健康経営の目的が分かった担当者たちが、いかに従業員に同じ目標や意識を浸透させていけるかが重要になる。
「これは一朝一夕でできることではないので、泥臭く、何年かけてでも地道に取組を継続していきたいです。例えば健康に関するセミナーや運動を増進する取組の実施、女性特有の健康課題に関する研修の開催や、ストレスチェックの結果をその後の対応にどう生かしていくかなど、やれることはたくさんあるはずです。健康診断受診後のフォローも、しつこいくらいに徹底して行っていきたいと3人で話しています」(北村氏)
健康経営の考え方が全社的に根付いた魅力的な会社を目指して、責任感と熱意のあるメンバーを中心に、今後も健康経営を推進していく。

2022年7月に「銀の認定」を取得。次のステップとして経済産業省の「健康経営優良法人」認定を目指している
2022年7月に「銀の認定」を取得。次のステップとして経済産業省の「健康経営優良法人」認定を目指している

健康経営エキスパートアドバイザーより

  • 同社は歴史ある歯科医療機器メーカーです。健康経営の指標となる法令は遵守されていました。健康経営のヒアリングシートのチェック項目を埋めるような確認なら、「問題なし」です。また、職場を見学させていただくと、5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣化)も行き届いていました。
    健康診断結果を拝見しながら、皆川さんに健康増進のため、会社として社員の健康に配慮すべき事項を率直に伺えたことにより、「活動はしっかりできているのに連携が上手く機能していない」健康診断の運用・産業医への業務依頼の課題を見出しました。この解決策になりそうな仕組みを例示しながら、当社の健康診断の運用フローについて改善策を考えていただきました。
    同社の取組みが成功したのは、①担当する方々の誠実さ、②そのメンバーがしっかり主導権を取り「健康経営をやっていこう」とする意欲にあります。そして、「時間をかけてでも『成果のある活動』に繋げたい」という思いが、取組を盤石なものにしていったと思います。
    支援の最終回には、今後の健康経営の中核メンバーとなる役職者、安全衛生委員会の方々にオンラインで集まってもらい、「職場の健康管理」の基本的な考え方を確認した上で、今後の当社にあった健康施策について率直な意見交換をしてもらいました。想像以上に活発な意見や情報が飛び交い、「自分たちでより良い活動にしよう」とする熱意を感じました。
    同社の健康経営を推進するメンバーが、「じっくり取り組んでいく」と言われている言葉がとても心強いです。実のある健康経営がより大きな実に育っていくことを願っています。
  • 大神 あゆみ 氏(保健師)
(取材:2022年11月)