企業の社会的責任実践事例ギンザのサヱグサ

子供たちに豊かで健全な社会と美しい地球を残したい

  • 三枝社長

    三枝社長

    事業内容

    オリジナル商品の企画・製造・販売、子ども服の輸入・販売

    会社情報

    所在地 東京都中央区銀座3-5-12
    URL http://www.sayegusa.com/
    代表取締役 三枝 亮 氏
    創業 1869年(明治2年)
    資本金 2,000万円
    従業員数 38名

    銀座とともに歩みを進める

    ギンザのサヱグサ

    ザ・メインストア銀座

     日本を代表するショッピングの街、銀座。その中央通りを散策していると、突然、おとぎの国から迷い出てきたような可愛らしい建物がビルの合間に現われる。子ども服を販売する「ギンザのサヱグサ」のメインストアだ。店に足を踏み入れると、シンプルでありながらファッショナブルな子ども服が並んでおり、見ているだけで、子供たちの楽しげな声がどこからか聞こえてくるようだ。

     「ギンザのサヱグサ」は、明治初期にヨーロッパから輸入した様ざまな生活用品全般を取り扱う唐物屋として創業。その後、銀座の大火、関東大震災、東京大空襲などの幾多の苦難を乗り越えながら事業を発展させてきた。大正後期からは、現在でも定番商品となっているジャージー素材の子供服の製造販売を本格化した。お客様には親子二代、三代にわたるファンもいるそうだ。

     しかし、「ギンザのサヱグサ」は優れた製品を企画し、製造・販売するだけの会社ではない。

    『日本を代表する文化の街「銀座」とともに歩んできたSAYEGUSAは、日本の子ども服カルチャーの発展、銀座の発展、そして持続可能性ある環境社会の発展を目指していきます。将来を担う子供たちへ、豊かで健全な社会・文化を築き残すことがSAYEGUSAの使命と考えます』。

    同社のブランドメッセージだ。このコンセプトにもとづき、同社は様ざまな取り組みを行ってきている。

    これまでに同社が取り組んできた主なものを見てみよう。

  • GREEN MAGIC

    GREEN MAGIC

    Ⅰ.野外活動 “GREEN MAGIC”

    「都心部の子供たちは自然体験が不足しています」
     
    そのように考える三枝社長は、店舗を離れた本格的な自然体験活動の企画に取り組んでいる。それが長野県のNPO法人“信州アウトドアプロジェクト”の力を借りて行っている子供たちのキャンプ“GREEN MAGIC”だ。

     夏と冬の年2回、五感を思いっきり開いて大自然の迫力に触れ、キャンプの仲間と一緒にチャレンジする。地元(長野県栄村)の方との交流を通じて昔ながらの暮らし方を学ぶ。

     “GREEN MAGIC”が目指すのは、都会の子供たちが普段は中々できないことを、最高の自然の中で存分に体験させることだ。野山の中を走りまわる、滝を登る、ソリで勢いよく滑る。虫捕りやホタル観察、時にはカモシカに出会うこともある。地元の父ちゃんと「かまくら」を作ったり、地元の母ちゃんと郷土料理を一緒に作ったりしながら、地域の暮らしを学ぶ。そのようにして大自然に親しみ、自然と調和した生活に触れることが、自然の素晴らしさを感じ、環境を大切にする心を育んでいく。

     すぐに効果が出るものではないだろう。しかし、子供たちの生きる力になり、子供たちを豊かで健全な社会の形成に役に立つ大人へと必ずや成長させていく。三枝社長は「単なる自然体験ではなく、森の中での遊びの創造や集団行動の経験を積む目的もあります。人として大切な部分を育てるお手伝いをしたいのです」と語る。

    Ⅱ.環境を考える “THINKING GREEN”


    【その1.グリーン電力】

     同社では、地球温暖化防止の観点から、店舗において一定期間グリーン電力の活用を図る取組みを行った(2012年~2015年 通算6回)。それも、グリーン電力にはいろいろな種類があることを子供たちに伝えるため、風力・水力・太陽光と、電力源を毎回変えたそうだ。そしてこの期間、店舗に自然を溢れさせるキャンペーンを同時開催。夏は豊かな植栽によって店内を緑に彩り、ショッピングをするお客様を楽しませた。
     お客様はまるで森の中に居るような空間でGREEN(緑)を感じながら、GREEN(環境)に思いをはせることができる(THINKING)、という企画だ。春夏物の新作の到着の時期でもある2月から3月にかけての早春には、更に花の彩りを植栽に加える。お客様は花の香りに包まれて待望の春を感じ、自然の移り変わり、生命力の素晴らしさに改めて気がつく。
     同社は、この取り組みを踏まえ、今後の店舗電力の完全グリーン化について検討を続けている。



    【その2. Web絵本 THINK GREEN】

    GREEN MAGIC

    フクロウ王子

     「緑の惑星と言われる地球を、少しでも美しい状態に戻して子どもたちに手渡したい」

    そのような思いから、多種多様な環境問題をわかりやすく紹介するために同社が作ったWeb上の絵本である。

     子供たちに伝えていきたい「1. 気候変動」「2. ごみ問題」「3. 生物の話」「4. 食と水」「5. 大気汚染」について、数編の物語が綴られている。森に住む、小さなフクロウの王子が主人公。おじいちゃんの王様フクロウと仲間たちが、自然界や人間の営みを見せながら、フクロウ王子の疑問に答えていってくれる。

     そこに書かれている言葉は、子供向けの言葉ばかりではない。これは、お父さん・お母さんが、“読み聞かせ”のような形で、自分の言葉に置き換えて語りかけ、子どもたちと環境問題について話し合う時間につながれば、と考えているからだ。

     http://www.sayegusa-green.com/thinkgreen/

  • Ⅲ.ワークショップとイベント

     最近の都会の子供たちは中々自然に触れる機会が無い。そこで、“Thinking Green”を切り口に、店内スペースでも、子供たち向けの様ざまなワークショップやイベントを開いている。


    ワークショップ

    森の写真にメッセージやイラストを書く


    【これまで開いたワークショップ/イベントの一部】
    ・枝からからペンダントを作ろう
    ・ヒノキの親子箸を作ろう
    ・ヒノキの升に絵を描いて、完成したらブナの苗木を植えよう
    ・紙で熊の形をしたフォトフレームを作ろう
    ・壁に貼ってある森の大きな写真に、メッセージやイラストを描こう(写真)
    ・山から拾ってきた自然の木を使って空飛ぶホウキを作ろう(ハロウィンイベント)

     同社では以上の取り組みの他にも、洋服生地の端切れを活用してポーチなどの商品にしたり(Upcycle:アップサイクル)、環境や自然についての三枝社長と専門家の対談をWebページで紹介するなど、様ざまな取り組みを行っている。また、銀座の街に支えられてきたとの思いから、三枝社長が地元で様々な役を担って、銀座の発展に尽力する等、地域貢献にも大きな力を注いでいる。




    <取材を通じて>

     企業の社会的責任には様ざまな取り組みがありますが、環境問題は比較的息の長い取り組みが必要となるテーマです。とりわけ同社の場合、子供たちに豊かで健全な社会や美しい地球を残していきたい、ということに重点を置いており、結果が出るまでに大変長い時間のかかる取り組みになっています。三枝社長からも、「これは長期戦の覚悟で、試行錯誤をしながら進めている」とのことでした。ただし、同社の取り組みは思わず参加してみたくなるような明るく楽しい活動が中心で、節約したり我慢したりすることが中心になりがちな環境問題への取り組みとは、一味違うものでした。

      なお、子供たちのキャンプから始まった長野県栄村小滝地区との関係は、地元のコシヒカリ“小滝米”を同社がブランディングしてプロデュースする取り組みへと広がっています。長野県北部地震(2011年3月)で壊滅的な被害を受けた小滝地区の復興の力になっていきたいという三枝社長の熱い気持ちが伝わってきました。


    小滝米

    小滝米 : ワインボトルにお米を
    (参考)http://kotakirice.jp/



     最後に、三枝社長からいただいた印象的な言葉です。


     「たった1個の電球の節電でも、10万個が取り組めば、10万個の玉になる。それぞれの会社の社会貢献への取り組みは小さくても、集まった時には大きな力になっているはずだ」

    (取材日:2015年11月25日)