日本レーザー
近藤 宣之 氏
レーザーと光に関する製品の専門商社。計測機器から加工装置まで広く取り扱っている。
所在地 | 東京都新宿区西早稲田2-14-1 |
---|---|
URL | http://www.japanlaser.co.jp/ |
代表取締役 | 近藤 宣之 氏 |
創業 | 1968年 |
資本金 | 3,000万円 |
従業員数 | 61名 |
日本レーザーは1968年の創業以来、海外最先端のレーザーや、光の技術とその製品を取り扱う、業界で最も歴史のある企業である。
同社は、高い技術提案力で抜群の知名度を有しているが、近年はそれだけではなく、「従業員を大切にする会社」「男性も女性も、外国人も働きやすい職場」としても大変注目を浴びている。
近藤社長は「会社は、まず社員のためにあり、その上でお客様のために存在しています」と語る。なぜ、このような考えに至ったのか。
同社は元々、電子機器を製造する上場企業の子会社として設立された会社である。近藤社長は、同社が債務超過状態となっていたところへ、再建役として親会社から派遣されてきた。その時、近藤社長が目にしたものは、信頼の失われた人間関係、社内を覆う閉塞感、経営不振の理由を外部環境に求める「他責」の姿勢、だった。
これでは業績の改善は望みようもなく、先にあるのは“倒産”の二文字のみ・・・。
「君たちを決してクビにはしない。その代わり私の言うとおりに働いてくれないか」
近藤社長は社員にこう呼びかけた。社員の処遇制度を変革し、財務面・営業面など、多くの改革も実施した。その結果、黒字に転換し、2億円近くあった債務超過は3年で解消する。そして、黒字基調が定着したのである。
その過程には、近藤社長の覚悟の行動があった。「自分ではそんなつもりはありませんでしたが、社員にとって私は親会社から来た人間です。社長は何年かしたら親会社に戻るよね、との声も社員の間にありました」。これでは、社員のモチベーションを高めていくことはできない。このような思いから、近藤社長は親会社の役員を辞任して同社に完全に移籍。退路を断ち切って、社員と運命を共にすることにした。
さらに、2007年には社員と資金を出し合って、同社の株式の大半を親会社から買い取り、同社は社員と役員とで8割を超える株主を構成する企業になった。
社員がモチベーション高く働いてこそ、企業は存在できる。
こうして、社員を大切にする経営が確立されてきたのである。
経営はヒトを頂点とした三角錐
「会社に大切にされている」という実感を社員が持てないようでは、社員がお客様を満足させることはできない。だから、社会貢献や利益成長といった目的の前に、まず、会社の内部の目的を考えることが大切である、という。
会社は何のためにあるか。
近藤社長は次のように説明する。
「雇用すること」、「働くことで得られる喜びを提供すること」、「成長する機会があり、企業が自己実現の舞台となること」。ここに近藤社長の信念がある。「全ての働く人たちが楽しんで仕事を行い、自分を成長させ、満足と成功を得られるようにしたい」。
社員が生き生きと働いて充実した人生を送ることを願う社長は多いだろう。しかし、同社ほどそれを徹底させている会社は珍しい。
ヒト、モノ、カネ、情報。これらは一般的に経営の重要な要素とされる。ただし、近藤社長によれば四つは並列ではなく、「ヒトを頂点とした三角錐と捉えるべき」だ。モノ、カネ、情報を使うのはヒトであり、その使い方次第で生み出される結果も異なってくることから考えても、ヒトは最上位だ。「ヒトを切ってカネにするのはありえない」し、「ヒトへの投資は企業が行うべき最大の投資」というわけだ。
具体的に同社の経営の様子の一端を見てみよう。
社員とはいつも笑顔で
同社は経営方針、経営についての考え方、行動規範などを「クレド(credo)」として、明確にしている。内容は理念的なものだけではなく、「いつも笑顔」「時間を守る」「誰にもわかる言葉を話す」など、非常に具体的だ。これを会議のたびに読み合わせるなど、日常的に確認を行っている。クレドは社員の採用から、日々の行動、経営判断まで、同社の行動の最上位の基準である。
同社再建に向けて近藤社長が最初に手を付けたのは人事制度の改革だった。働いた人が報われ、モチベーションが高まるよう、制度を抜本的に見直した。
同社には現在、「住宅手当」「家族手当」は無い。仕事をしてもしなくても得られる手当は不公平と考えて廃止したからだ。一方で、業績を上げること、クレドに沿った行動をすることを社員に徹底して求め、その結果を評価の対象としている。何をすれば評価されるのかが明確だ。
ただし、評価というものはどうしても評価者によってバラつきがでる。そこで、社員一人ひとりの評価について役員全員で議論するように変えた。それが社員の納得感やモチベーション、成長意欲に直結するからだ。
さらに同社の特徴的な仕組みとしてあげられるのが、営業担当者が営業に協力してくれたメンバーに営業成績(粗利益)の一定割合を自らの裁量で配分する制度だ。仕事は自分の力だけで行うものではない。協力して成果が出た分は協力者に還元する。この制度は、自分の仕事のことだけを考えるのではなく、他の人を助けたり、互いに協力しあったりする風土にも繋がっている。
同社では年齢、性別、学歴、国籍etc.によって、社員が差別されることは全くない。むしろ、多様性は活力につながるものとして肯定的にとらえられており、評価・処遇は、誰に対してもフェアに行われる。
社員それぞれのライフスタイルは尊重され、各人の働き方について、本人と会社はしっかりと話し合う。そのため、働き方も「午前だけ」「週4日だけ」「1日6時間」など様ざまで、雇用契約は16種類にもなっているという。
女性・高齢者・療養者など、一人ひとりの社員が十分に力を発揮して、働く喜びを得られるように追求してきた結果である。パート社員や派遣社員であることも、各人のライフスタイルの反映。実力があれば、ライフスタイルが変わった時にフルタイム社員になるチャンスは等しく開かれている。
同社には、社員の成長を促すための多くの機会が設けられている。社外研修への参加はもちろんのこと、海外出張、取引先訪問、展示会への参加など、様ざまな場が成長への機会として活用される。例えば、社内の全体会議で、プレゼンをしたり、英語のスピーチをしたりするのも、トレーニングの良い機会となる。
社長自身も汗を流す。社員の成長意欲を引き出すには経営トップの熱意が大切と、近藤社長は毎週一回、「社長塾」を主宰し、社員とディスカッションをする。
ラウンジでの懇談
同社は社内コミュニケーションにこだわり、様ざまな仕掛けをしている。主な特徴ある仕掛けをあげてみよう。
<取材を通じて>
同社の受付には壁面いっぱいに同社のクレドの冒頭部分が英語で書いてありました。
『私たちは、世界の光技術を通じて、お客様やパートナーと共存共栄を実現し、科学技術と産業の発展に貢献します。私たちはお客様に“総合的な光によるソリューション”を提供します。 私たちは、年齢、性別、学歴や国籍等に係わらず、日本レーザーに働くすべての人たちに、自己実現と自己成長の機会と環境を提供します。 私たちは、海外サプライヤーとの交流を通じて、世界の人々と草の根の交流を推進し、相互理解と世界平和に寄与します。』(掲示は英文)
同社では社員の成長を促す目的で、TOEIC点数を手当に反映させているそうですが、現在では約2割の社員が900点以上(990点満点)を達成しているとのこと。社長の覚悟が実際に同社社員の成長に繋がっていることが、感じられました。(取材日:2015年9月24日)
同社受付にあるクレド