企業の社会的責任実践事例協和

ランドセルをすべての子どもに
~ ステークホルダーに誠実に向き合う ~

  • 若松専務

    若松専務

    事業内容

    ランドセル、スーツケース、ビジネスバッグの企画、製造、販売を行っている。

    会社情報

    所在地 東京都千代田区東神田2-10-16
    URL http://www.kyowa-bag.co.jp/
    代表取締役 若松 種夫 氏(創業者)
    CEO 若松 秀夫 氏(専務取締役)
    創業 1948年
    資本金 9,600万円
    従業員数 220名

     同社が2011年に制定した「経営理念」。
    そこには、「従業員の幸福度を高める」、「消費者の立場に立つ」、「仕入先に感謝し公正に取引する」、「社会事業・福祉事業に積極的に取り組む」といったステークホルダー(関係者)との関わりと、「適正な利益のみを利益と考え、これ以外の利益を追い求めない」などの考えが書かれている。

     「経営理念」を制定した理由について若松秀夫専務は、「創業者は社員をマグネットのようにつなぎ寄せることができるが、会社というのは代替わりしていくもの。創業者の想いを経営理念として明らかにし、これをマグネットとして受け継いでいくことが必要」と語る。
    同社の考え方が凝縮された32行の経営理念。この理念を社員でしっかりと共有し、徹底した実践を行っていることが、同社の強さの源泉である。

  • 経営理念[1]

    経営理念[1]

    【従業員との関わり】

     同社では経営理念が書かれたカードを従業員に持たせ、理念に基づく行動を促している。
    ただし、会社が従業員に求めるだけの関係ではない。会社も従業員の頑張りに積極的に応えている。例えば、経営環境が厳しくてコスト削減を図らざるをえない時にも、削るのは販売管理費。人件費はまず削らない。人件費を削ることを考えているようでは、経営理念で掲げる「従業員の幸福度」は高まらないからだという。
    また、日々の業務の中で従業員が見つけ出してくれた様ざまの無駄についても、削減できたコストを従業員に還元する。「去年は一人当たり10,000円の還元ができました」と語る若松専務。従業員の努力には報いる。そしてそれは更なる改善・改革にもつながっていく。

     同社では毎年、全従業員を本社に一堂に集め、経営報告会を開催している。
    集めるのは本社の社員だけではない。千葉工場の従業員も含めて全国から、そしてパートやアルバイトも集める。そこでは、経営理念について話すほか、事業報告や事業計画についての説明をする。一人ひとりの頑張りが経営の結果につながっていることを知ると、従業員のモチベーションも自ずと高まる。


     同社の離職率は極めて低い。また、産休した従業員も退職せずに全員復職する。これらは、従業員に対する同社の姿勢の正しさを裏付けていると言えるだろう。

    「お客さまや社会はもちろん大事です。しかし、従業員を犠牲にしての顧客第一の経営や社会貢献は、ありえません。」



    経営理念[3]

    経営理念[3]

    【取引先との関わり】

     同社の経営理念には、仕入先について、「事業を支えて頂く協力者として、常に感謝の気持ちを忘れず、公正、かつ対等な条件でお取引する」と記されている。

     「商品やサービスを使わせてもらって、私たちの商品が良くなっていくのです。仕入先にも稼いでいただいて、共存共栄を図っていくことが大切です。」

    従って、仕入先から接待を受けるのは厳禁、昼食を共にする場合にも「割り勘」を徹底している。仕入先と得意先は対等な立場。どちらかが卑屈になったり、横柄になったりするようなことの無い公正な取引関係を追い求める。
     コストダウンを進めるときも、仕入先への一方的な値引き要求や、相見積での買いたたきは絶対にしない。問題を仕入先と共有し、相談しながら解決策を見つけていく。この結果が、数十年にわたる信頼関係だ。
    なお、同社が言う「仕入先」は広い。「仕入先」とは通常、原材料の納入業者や外注先などを指すことが多いだろう。しかし、同社ではより広く捉え、支払いをする相手先すべてを「仕入先」としている。

    仕入先に対する同社の誠実さは、これまで「56回」も重ねている仕入先との毎年の会合にも表れている。原材料の納入業者の他、本社ビルのメンテナンス会社、宅配便の業者など、様ざまな取引先にも声をかけ、会社の状況や考え方の説明を行う。更にそこでは、持ち寄ってもらった不要品のオークションも行い、販売収益を障がい児支援団体に寄付しているとのことだ。

  • ランドセル

    ランドセル

    【社会貢献~ランドセルを全ての子どもに】

    同社の主力製品である「ふわりぃランドセル」。

     若松専務は、「子供にとって初めてランドセルを背負うのは人生の中での一大イベントです。子供みんながそのイベントを経験できるようにしたい」と語る。
    この思いから、同社は障がい児のためのオーダーメードランドセルに取り組んでいる。ただし「障がい」と言っても、その程度、体型など、一人ひとりの状況は全て異なる。子どもの体に合わせて手作りでランドセルを製作し、何度も試着をしてもらって作り直しをしながら、満足いくものに仕上げていく。仕上がったものは通常のランドセルの値段で販売するので、膨大な手間とコストを考えると採算性は全くない。しかし、「ランドセルは無理だよね」とあきらめていた子供が、笑顔でランドセルを背負ってくれる瞬間が何よりもうれしいという。

     同社は東日本大震災後に支援活動を始めた。「被災者の責任で被災したのではなく、たまたまそうなっただけ。そうであれば、たまたま被災しなかった者が困っている人を支援するのは当然のこと」と同社では考える。同社は被災地にランドセルやスーツケースを贈る活動を行っており、例えばスーツケースは避難所から仮設住宅へと移動をしなくてはならない被災者に大変重宝されたとのことだ。
     まとめて支援物資を送っただけでは、必要なものが本当に必要なところには届かない。そこで、何回も被災地に足を運んだり、問い合わせをしたりして、どこに何が必要なのかをしっかりと把握した。その結果、贈り先は122か所にもなった。何に困っているのかは、現場に行ってみて初めてわかることが多いという。そこまでやらないと本当の支援にならないと同社は考える。

     千葉県野田市には同社の千葉工場がある。ここでは33回目を数える恒例の大創業祭が毎年行われる。日ごろお世話になっている地元の皆様に感謝の気持ちで工場を開放し、同社の商品を安く販売する。社員が焼きそばなどの模擬店を出すほか、取引先からの参加もあって、大変にぎやかなものになる。震災の年からは、被災地支援として仙台、福島などの物産を販売し、売上金はそのまま出展元に渡しているとのことだ。



    <取材を通じて>

    「利益は目的ではないのです。手段です。」と若松専務は断言しています。「では何のための手段か。目的とする経営理念の実現のための手段」と説明は明快でした。同社は「経営理念」で企業を取り巻くステークホルダー(関係者)に誠実に向き合っています。それをいわゆるお題目にせず、当たり前のこととして実践している様子が大変印象的でした。社員持株会を昨年より開始したとのこと。専務のこだわる「日本らしさ」あふれる魅力ある製品を世の中に広めながら、同社が更に一体感を持って経営理念の実現に歩みを進めていくことに、期待が高まりました。(取材日:2015年8月31日)

    経営理念[2]

    経営理念[2]