小さな会社を強くするマーケティング

第5回 「何を売らないか」を考えよう

2017年2月14日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年9月10日号

 「よい商品がいろいろあるのに、成果が出ない」「長所がたくさんあるのに、選ばれない」。地域経済の現場で、こうした言葉を聞くことが多い。もしかすると…。「いろいろあるから、成果が出ない」「たくさんあるから、選ばれない」のかもしれない。

シンプルだと小さくても強くなれる


 突然だが、「日本の国旗」を頭に思い浮かべてみよう。さて、赤い丸の面積は、全体の何パーセント程度だろうか。想像してほしい。
 実際には、全国の消費者に回答してもらったところ、最も多くの人は、30%と回答した。1000人の消費者が入れた数字の平均値は31.6%だ。
 実際には日の丸の赤色の面積は意外に小さく、わずか18.8%だ。つまり、80%以上が空白なのである。
 この結果から示唆されるのは、“シンプルだと、小さくても、力強くなる”ということだ。日の丸は、我々に「引き算が力になる」と教えてくれる。


いま、なぜ引き算なのか


 「品ぞろえを減らすと、売り上げが減るのではないか?」「ターゲットを減らすと、売り上げが減るのではないか?」。このように語る経営者は多い。「引き算」に恐れを抱いているように感じる。
 現実はその逆だ。引き算により、本質的価値が引き出され、人を引きつけることができる。あなたはどちらの店の「ケーキ」に魅力を感じるだろう?

 A店 こだわりのオリジナルケーキを販売する店
 B店 こだわりのオリジナルケーキ、菓子、パン、清涼飲料水、食料品を販売する店

 消費者1000人調査の結果は以下のとおりだ。

 ①A店 58.4% ②どちらともいえない 25.2% ③ B店 16.4%

 圧倒的に多くの回答者がA店のケーキに魅力を感じると答えている。ここから分かるのは、足し算をすると「個性」や「こだわり」が薄まるということだ。
 地域経済で、元気がない企業に目をやると、ほとんどが「足し算型」の企業だ。「これが売れない。だから、あれも売ろう」「他社が売っている商品を、うちでも売ろう」「売り上げが伸びないから、対象顧客を広げよう」といった具合だ。売り上げが減少すると、「何か売れるものはないか」と場当たり的、対処療法的に商品を足し算してしまう。結果、個性が希釈化し、今まで以上に売り上げが減少してしまうという悪循環だ(図)。


  

  

大切なのは「押す力」よりも「引く力」


 企業の経営資源は有限だ。限りある資源を有効に活用するためには、「何を売らないか」を決めることが重要である。品ぞろえをむやみに足し算すると、企業や商品の「引力」は低下していく。「詰め合わせセット」や「幕の内弁当」はブランドにはならない。
 事実、強いブランドを持つ企業の多くは、品ぞろえを絞り込んでいる。品ぞろえを引き算することによって、「引力」が増加するのである。
 21世紀の企業にとって大切なのは、「押す力」ではなく、「引く力」である。すなわち、「売り込む力」ではなく、「人を引き付ける力」だ。引き算によって、本質的な価値が引き出され、顧客を引きつけることができる。小さな企業が強くなるためには、「積極的な引き算」があることを知る必要があるだろう。



執筆者:岩崎邦彦
静岡県立大学教授・学長補佐・地域経営研究センター長。専攻はマーケティング。著書に「小が大を超えるマーケティングの法則」「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」「小さな会社を強くするブランドづくりの教科書」(いずれも日本経済新聞出版社)などがある。

掲載:東商新聞 2016年9月10日号

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