小さな会社を強くするマーケティング

第4回 「いかに安く売らずにすむか」を考えよう

2017年2月7日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年8月20日号

 「消費者は低価格を求めている」。このように語る小規模企業の経営者は意外に多いが、これは「売り手」と「買い手」の認識ギャップかもしれない。誰もが望んでいるのは「高い価値」であって、「低い価格」ではない。 消費者が価値を感じなければ、いくら安くしても買ってはくれない。消費者行動を決めるのは、「価値」の大きさだ。小さな会社が志向すべきは、低価格ではなく、「高品質・適正価格」による価値の向上である。

値下げのリスク


 なぜ、小さな企業は、値下げを避けなければならないのだろうか。 第1に、価格競争は体力勝負の消耗戦になるため、豊富な経営資源を有する大企業が有利である。第2が、値下げは簡単に真似されやすく、持続的競争優位につながらない。優位性を一時的にはつくれたとしても、大企業がその気になればすぐに反撃されてしまう。 第3が、低価格ばかりを消費者にアピールしていたのでは、専門性を自ら否定することになってしまう。第4に、安売りを続けることは消費者の価格感応度を高める。顧客が来るのは、特売の時だけということにもなりかねない。


価格で「きずな」はつくれない


 価格の安さで引き付けた顧客は、リピーターになりにくい。別の企業が安売りをすれば、そちらに行ってしまう。価格で引きつけた顧客は、価格で逃げていく。 消費者には、わずか数%の値引きのために競合店のところへ行く人もいれば、数%程度では動かない人もいる。価格で引き付けた顧客は前者である。このタイプの顧客が増えれば経営は不安定になる。


価格競争は多数の「敗者」を生み出す


 「2000円と1000円のどちらが安い?」こう聞かれれば、全員が1000円と答える。これは、価格が「一本のモノサシ」だからだ。価格は勝ち負けがはっきりする。 一方、質の競争では、何が好ましいのかの尺度は様々だ。私が美味しいと思う料理を、他人が美味しいと感じるとは限らない。質の競争は順位がつきにくく、単純な勝ち負けの「競争」にはならない。 図で説明してみよう。図にA、B、Cの3つの企業が示されている。この図(左)の「価格」の評価においては、順位はA→B→Cとなる。 一方、図(右)の「質」の評価では、モノサシ1を利用した場合には順位がA→B→Cとなるが、モノサシ2を利用すると順位はC→B→Aと逆転してしまう。 質的な競争が繰り広げられるということは、消費者に多様な選択肢を提供することを意味するとともに、企業のすみ分けにもつながるはずである。

「価格が忘れられた後も、品質は残り続ける」

 この言葉はイタリアのブランドのグッチのモットーである。たしかに、私が今着ている洋服も、いくらで買ったのかは思い出せないが、着心地の良し悪しはリアルタイムで実感している。残り続けるのは品質だ。  人口減少時代において、小さな企業が追求すべきは、顧客の「数」ではない。一人一人の顧客との「きずな」だ。繰り返すが、価格の安さで「きずな」はつくれない。小さな企業は「いかに安く売るか」ではなく、「いかに、安く売らずに顧客を引きつけるのか」に知恵を絞るべきだろう。


  

  


執筆者:岩崎邦彦
静岡県立大学教授・学長補佐・地域経営研究センター長。専攻はマーケティング。著書に「小が大を超えるマーケティングの法則」「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」「小さな会社を強くするブランドづくりの教科書」(いずれも日本経済新聞出版社)などがある。

掲載:東商新聞 2016年8月20日号

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