経営戦略としてのワークライフバランス

第5回 働き方改革をどう進めるか WLBの本丸は働き方改革

2015年7月14日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2014年9月20日号

ワーク ライフ バランスを推進しようとすると、働き方やマネジメントなど既存の仕組みを大きく変えなくてはならない状況にぶつかる。経営戦略から落とし込んだ人材戦略について紹介します。(全6回)

 組織が行うワーク・ライフ・バランス(WLB)支援では、制度対応の「2階部分」、職場の働き方などの職場状況としての「1階部分」、職場の状況を生む組織風土・文化の「土台部分」の3層構造でとらえる必要性を第2回で指摘しました。重要なことは、すべての従業員が仕事とそれ以外の生活に満足感をもって働き、育児・介護など何か事情が生じたときでも働き方を大きく変更せずにその責任を果たせるようにすることです。
 働き方改革とは、組織が望ましいと考える従業員モデルを修正し、新しいモデルに合った働き方を検討することです。つまり、確実に減少している時間制約のないこれまでの従業員モデルから、時間制約がある従業員をベースにした仕事管理、時間管理への転換が求められているのです。

恒常的な長時間労働を是正
 働き方改革は、恒常的な長時間労働があればそれを是正することが第一です。先進国の中でも日本の労働時間の長さは周知のことですが、時間当たりの労働生産性が低い点が特に問題です。
 効率的に働くには、個々人の「時間意識」を高める必要があります。仕事量ではなく、時間制約を前提にその中で仕事の優先順位をつけながら仕事を組み立てるという意識付けが重要です。
 ある企業で、定時退社をモデル的に進めた際、それまでは終業時間を意識せずに働いていた人が、定時で帰ると決めたら、時間内にどうやれば仕事が終わるかを強く意識するようになったのです。「時間は創るものだ」という意見が印象的でした。こうした取り組みをすると、定時で帰れない部署や個人が顕在化します。なぜ、そうなるのか、業務量が多いのか、仕事管理に問題があるのか、など具体的な課題が発見しやすくなります。特定の部署や人に業務負荷が偏るのは、組織運営上も問題といえるでしょう。

働き方の柔軟性を高める
 働き方改革のもう一つのポイントは、働き方の柔軟性を高めることです。海外のWLBの取り組みは、フレキシブルワークと言い換えて取り組む企業もあり、働く時間・場所の柔軟性をいかに高めるかが重要になっています。上表に日英独の正社員の働き方の現状を示しましたが、日本は英独と比べて働き方の選択肢が少ないことがわかります。
 職場で一緒に仕事をすることは、スキル・知識の伝達や、仕事ぶりのチェックなど従業員管理面で効率的なのは確かです。しかし、営業で外出する、企画書を集中してまとめる、時差のある海外への対応など、業務の時間や場所を画一的にしているとむしろ業務効率が落ちてしまう場合もあります。一方で、育児や自己啓発など、裁量的に働けると、仕事以外の生活も充実するという場面も少なくありません。また、今後高齢者が増えれば、一律的な働き方では対応しきれないでしょう。
 働き方の選択肢を増やすことは重要ですが、そのためのマネジメントコストも発生するなどデメリットもあります。働き方改革を進めるときの一番の障害が、これまでのメリットを一部失ってしまうことへの懸念です。しかし、労働力構成が大きく変化し、ライフスタイルも変化している今、働き方を見直さなければ、人材の有効活用はできません。「○○だからできない」ではなく、「どうすればできるか」という発想で取り組むべき課題といえます。

正社員ホワイトカラーの勤務形態’(複数回答)

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執筆者
武石 恵美子(たけいし えみこ)

法政大学キャリアデザイン学部教授博士(社会科学)
筑波大学卒業後、労働省(現厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所等を経て、2007年4月より現職。

掲載:東商新聞 2014年9月20日号

以上