経営戦略としてのワークライフバランス

第2回 ワーク・ライフ・バランス支援の構造

2015年6月23日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2014年8月20日号

ワーク ライフ バランスを推進しようとすると、働き方やマネジメントなど既存の仕組みを大きく変えなくてはならない状況にぶつかる。経営戦略から落とし込んだ人材戦略について紹介します。(全6回)

ワーク・ライフ・バランス支援の3層構造 
 ワーク・ライフ・バランス(WLB)支援というと、まずは子育てや介護など仕事をする上で制約条件のある従業員に対して、仕事との両立を可能にするための制度整備を思い浮かべます。典型例が、育児・介護休業制度や短時間勤務制度など、事情に応じて働き方を変えることができる制度対応です。
 ともすると、こうした制度を導入すればWLB支援は万全と考えられがちです。子育てや介護は、WLBが必要な状況として非常にわかりやすい例です。しかし、子育てや介護などの状況に直面していなければ、WLB支援を検討する必要がないということではありません。子育てや介護以外にも、個々人はそれぞれに仕事以外の生活があり、健康な生活を送るための休養やリフレッシュの時間の確保は、共通するテーマです。すべての従業員には生活の場面があり、WLBは全体に対する支援の問題としてとらえることが不可欠です。
 図に示したのは、組織が行うWLB支援の構造です。つまり、家の構造にたとえるなら、子育てや介護のための休業制度などWLBを支援するための制度対応は「2階部分」といえます。それを支える、「1階部分」には職場の働き方や業務分担・コミュニケーションのあり方など職場の状況があり、そうした職場の状況を生み出す組織の風土・文化ともいえるのが「土台部分」です。WLB支援は、この3層構造で考えることが重要です。すべての従業員に共通する1階部分と土台部分への働きかけをした上で制度対応を行わないと、構造的な問題が生じるということです。

制度以上に重要な働き方改革
 制度が整備されている企業は、一見するとWLB支援に熱心な企業のように思われます。しかし、1階部分、土台部分が脆弱だと、制度の利用適用から外れたとたんに仕事と生活の調和が図れないという問題に直面し、それはモチベーションの低下や離職等を招き、職場全体の問題となっていきます。
 また、働き方改革を進めずに制度実施のみを充実させると、制度の効果的な活用ができなくなるという問題が起きます。たとえば、子育てや介護などで制約条件が生じた場合、制度を利用して働き方を変更しないと仕事が続けられず、制度への依存が高まります。そもそもWLB支援制度
は、必要な範囲で効果的に使われることを前提に設計されており、必要以上に制度を使い続けることは問題です。
 しかし、職場の働き方がハードな状況にあると、制度をフルに利用せざるを得なくなり、想定以上に制度利用が増える、制度利用限度まで利用期間が長期化する、ということにもつながってしまいます。また、そのような状況下で制度を利用した従業員は、他の従業員と働き方の違いが大きくなるために、任される業務や責任の範囲が制限され、制度利用がキャリアに悪影響を及ぼすという悪循環になっていきます。
 言い換えれば、働き方を見直して普通に働きながら子育てや介護の責任も果たすことが可能なら、その方が組織や従業員にとってメリットが大きいはずです。制度の充実化は、従業員のWLBにとって重要であることは間違いありませんが、制度が本来の目的に沿って効果的に利用されるためにも、働き方改革、それを支える職場風土の改革こそがWLB支援にとって重要といえます。

「職場のワーク・ライフ・バランス」(日本経済新聞社より)

「職場のワーク・ライフ・バランス」(日本経済新聞社より)


執筆者
武石 恵美子(たけいし えみこ)

法政大学キャリアデザイン学部教授博士(社会科学)
筑波大学卒業後、労働省(現厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所等を経て、2007年4月より現職。

掲載:東商新聞 2014年8月20日号

以上