老舗経営に学ぶ

第5回 関係性のマネジメント

2013年5月17日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2012年10月20日号

明治学院大学 教授 神田良氏が、多数の老舗の事例を踏まえた分析を解説します。(全5回)

 老舗経営のエッセンスは対外関係にも見られる。その一つは、仕入先や顧客との関わりのマネジメントである。
仕入先との学習の輪づくり
 仕入先との関わりでは、非老舗に比べると、生産や販売、商品やサービス、さらには顧客や市場についての情報交換により積極的である。強みづくりのマネジメントでみたように、素材・原材料の強みを自覚している老舗は、仕入先との関係づくりを重視している。事実、仕入先との関係づくりは学習の輪づくりであると特徴づけられる。情報交換を積極的に実行するだけでなく、仕入先が必要とするビジネス関連情報を提供したり、仕入先の経営理念や事業戦略を理解するように努めている。
対話の重視と消費の演出
 顧客との関係では、自社の商品やサービスが最高の状態で消費・使用されるように工夫していて、知識が豊富な顧客や要求が高い顧客から学ぶ機会が多いと感じている。また顧客に対して自社の歴史や商品の謂われを伝えることも、非老舗との違いとして現れている。
 顧客との関係づくりの特徴は2つにまとめうる。より重要な特徴は対話の重視と消費の演出である。固定客を認識しつつ、接客を通じ顧客との対話に努める。また対話から自社商品が使われたり消費されたりする消費の場を認識し、商品が最高の状態で消費されるようさまざまな工夫を凝らしている。
 もう一つの特徴は相互学習と市場開拓である。老舗は顧客から学ぶだけでなく、顧客への情報提供を通じ、顧客に学ぶ機会を提供するよう心掛けている。また、これらを若年層など新たな客層の開拓に結びつけている。
縁を活かす
 対外関係のもう一つは、地域社会や業界・経済団体とのものである。非老舗と比べて老舗は、地域との関わりや、業界活動への参加や社外人脈の形成にも積極的である。この活縁のマネジメントは2つの特徴にまとまる。より重要であると認識しているのは地域価値向上である。地域行事などへの参加のほか、地域価値を高めるプロジェクトにも積極的に関わる。それが、周り巡って自社の商売につながってくるだろうと考えるからである。
 もう一つの特徴は、社外人脈による学習である。業界や世代の壁を越えて広く人脈を形成するだけでなく、それらを学習機会であると捉えている。
 老舗のマネジメントは志、強みづくり、人づくり、関わり、そして活縁の5つの要素から成り立つ。しかもこれらの要素は高い正の相関を示している。つまり連動して、永続経営を生み出しているのである。


著者略歴
神田 良(かんだ まこと) 明治学院大学経済学部教授
一橋大学商学研究科博士後期課程修了。1982年4月明治学院大学経済学部専任講師、1986年4月 同助教授を経て 1993年10月より同教授(現職)。長期存続企業などを専門分野とし、中央区老舗企業塾運営委員会委員長を務めるなど、活動は多岐に渡る。

掲載:東商新聞 2012年10月20日号

以上