働き方改革

第2回 生産性向上につながる残業削減①

2018年5月8日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2017年7月10日号

政府の「働き方改革実現会議」は、2016年3月に実行計画を決定しました。特に目玉政策とされた「同一労働同一賃金の実現」と「長時間労働の是正」の2項目については、かねてからの懸案にも関わらず実現してこなかったテーマです。その必要性や政府の方針、課題、事業主に求められる心構えなどについて解説します。

 今回の働き方改革において、重点課題の一つとされたのは「長時間労働の是正」である。これは、直接的には深刻化している健康被害の防止の待ったなしの状況に対応するものである。だが、それのみならず、人口動態変化を踏まえれば企業の成長にこそ必要な取り組みといえる。前回指摘した通り、従来コア労働力とみられてきた25・55歳男性が今後激減し、労働時間に制約が生じやすい女性やシニアをコア労働力に取り込んでいかなければ、企業活動が成り立たなくなるからである。
 政府は、そうした長時間労働の是正を進める具体策として、「罰則付き時間外労働の上限規制の導入」に着手する方針である=図表。その概要は、①週40時間を超える時間外労働の限度の原則を月45時間、かつ、年360時間とした上、②労使が合意してこれを延長できるケースについても、年720時間を上限とし、かつ、単月の限度を100時間未満、③2カ月から6カ月のいずれの平均をとっても80時間以内、などとするというものである。
 こうした残業削減が必要な半面、日本のビジネスや職場はこれまで長時間労働を前提に成り立ってきているという現実もある。時短が自己目的化し、その結果として事業が縮小して企業業績が大幅に悪化しては元も子もない。労働時間短縮と企業業績を両立することが重要であり、それにはいかに時間あたり生産性を高めるかが問われる。そのためには、①経営トップが労働時間短縮の必要性を認識し、全社員にやり遂げる決意を伝えることがまずもって必要になる。その上で、②単に機械的に残業時間の削減を自己目的化して実施するのではなく、現場マネージャーが部下の仕事をしっかり把握し、業務プロセスを見直すことが重要である。同時にカギとなるのが、③従業員に主体的に取り組むようなインセンティブを考えることである。

 

 

経営トップの本気がカギ


 そうした要点を押さえた施策に包括的に取り組み、残業削減に成功した好事例にSCSKのケースがある(以下、厚生労働省ホームページ掲載資料に依拠)。同社では、多額のコストをかけて育成した女性社員が、充実した両立支援制度を整備しても、出産一歩手前で離転職していることが問題視されていた。職員へのヒアリング等を通じ、女性だけの問題でなく、男性も疲弊感が強く、より健康的な労働環境に改善しないと企業のパフォーマンスが向上しないとして、根本的な課題は長時間労働体質にあるとの結論を得た。そうして2012年、当時の会長のリーダーシップの下、徹底的な長時間労働是正をはじめとする「働き方改革」に着手した。
 働き方改革のためには、部署横断的な人員配置の不断の見直しが不可欠との認識から、部門長・本部長が、課・部を超えて業績向上と長時間労働是正をセットで管理・責任を持つ体制を構築した。その上で、毎週の役員会議において、本部ごとの平均残業時間および平均年休取得日数が報告され、これを元に会長が残業実績やマネジメントのあり方にコメントすることとした。まさに経営トップおよび上層部の本気の取り組みがあったといえる。
 業務推進体制の見直しにも取り組んだ。朝と夜に、課単位で一日の業務を確認し、上司による業務の優先順位付け、業務分担の見直し等のマネジメントを徹底した。加えて、残業削減が時間外給与の減少という従業員のデメリットにならない工夫が行われた。残業削減は短期的なコスト削減を目的としたものではないメッセージを社員に伝えるため、削減した残業代を全て社員に還元する制度を取り入れたのである。




執筆者:山田 久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所 調査部長。研究・専門分野は、マクロ経済分析・経済政策・労働経済。

掲載:東商新聞 2017年7月10日号

以上