東京商工会議所

株式会社利根川産業

健康セミナーや産業医の
個人面談を実施
健康経営の継続で、業界イチ「健康になれる会社」を目指す

  • 健康診断
  • 組織・体制づくり
  • PDCA

株式会社利根川産業

本社: 東京都足立区入谷8-3-8

代表者名: 代表取締役 利根川 満彦 氏

設立: 1986年

従業員数: 95名

事業内容: 一般廃棄物収集運搬業、産業廃棄物収集運搬業、産業廃棄物中間処分業、リサイクル業

  廃棄物の収集運搬及び中間処分・資源リサイクル事業を行う会社。廃プラスチックの「資源化」事業を中軸に捉えて、埋め立て処分量のゼロ・エミッション化、廃棄物の削減、天然資源の枯渴防止とCO₂発生抑制など、SDGsにも積極的に取り組む。

専門家派遣制度を利用した期間

2021年3月~2021年8月

支援専門家

保健師

廃棄物収集車。700箇所を超える排出事業者に対して、定期的に産業廃棄物の収集運搬を行っている
廃棄物収集車。700箇所を超える排出事業者に対して、定期的に産業廃棄物の収集運搬を行っている
マテリアルリサイクル(廃棄物を製品原料として再利用)などを通じて、CO₂削減に取り組む
マテリアルリサイクル(廃棄物を製品原料として再利用)などを通じて、CO₂削減に取り組む
専門家派遣制度を利用したきっかけ

従業員の「健康で長く働き続けたい」という思いに応えるため、健康経営を進めるにあたり、自社に合った具体的な取組を専門家に相談したい。

廃棄物の収集運搬及び中間処分・資源リサイクル事業を行う利根川産業。95名の従業員は、廃棄物収集トラックドライバー、工場内での廃棄物選別作業員、事務職で構成されている。
同社が健康経営への取組を決めたのは2019年。年に一度行っている従業員と経営層との1on1ミーティングの中で、従業員から「健康で長く働き続けたい」という声が出たことがきっかけだったと、健康づくり担当者の利根川勧氏は振り返る。
その背景には、95名の従業員のうち約7割が50代以上という“従業員の高齢化”がある。同社においても、体力の低下や健康診断の結果から生活習慣病のリスクを感じる機会が増え、自身の健康を気にかけ始める従業員が多くなっていた。
「当社の従業員は勤続年数が長く、20〜30年勤めている者が多くいる分、従業員の高齢化も進んでいて、50代以上の従業員が全体の7割近くを占めています。ただ、経営層との面談では、ありがたいことに当社でもっと長く働きたい、そのためにも健康でありたいという声が多く聞かれました。そんな従業員の思いに対して、会社として何ができるか。そう考えた結果、取締役部長の利根川靖の指示もあって、健康経営を実施することになりました」(利根川氏)
健康経営を通じて従業員の健康問題のリスクを下げ、年齢を重ねても健康で長く働ける環境づくりを推進することにした同社は、経済産業省の「健康経営優良法人」認定の取得を目標に設定。まずは、その前段階として健康優良企業「銀の認定」を目指すこととしたが、「『銀の認定』の詳細を確認していくうちに、専門知識のない私一人で取り組むのは、正直難しいなと感じました」と利根川氏。そんな時、協会けんぽのホームページで専門家派遣制度を知り、自社に合った具体的な取組を専門家に相談するため、この制度を利用することにした。

業務部運搬課リーダー 利根川 勧 氏
業務部運搬課リーダー 利根川 勧 氏
専門家派遣による支援と取組
  • ● 健康診断結果の把握、再検査の受診勧奨の徹底
  • ● 産業医による個別面談の実施
  • ● 「健康診断の見方セミナー」の実施
  • ● 月1回、安全健康新聞の発行

専門家の高清水幸美氏(保健師)は、同社の状況をヒアリング。従業員の約半数がトラックドライバーである同社にとって、従業員の健康確保は企業のリスクマネジメントにも直結しており、健康経営推進は大変意味のあるものだ、と健康経営の取組の意義を説明した。深夜帯・早朝も含めて長時間の運転業務を行い、疲れが溜まりやすい業務の性質上、従業員の健康状態に気を遣うことが、業務中の交通事故などを防ぐことにも繋がるからだ。
また、同社ですでに行っている産業医の選任やストレスチェックの実施、残業時間管理による長時間残業の低減措置などの取組を評価した上で、「従業員に自身の健康状態を確実に把握してもらい、自身で必要なケアに気付けるよう、意識づけることが大切である」、と方向性を示した。
それを受けて、同社はまず、健康診断受診の徹底と、健康診断やストレスチェック後の対応の見直しに取り組むことにした。
それまで、健診結果の通知や、再検査が必要な従業員に対する声かけはしていたものの、その後は再検査を受診したかどうか、またその結果がどうであったかを確実に把握することができていなかった。そこで、社内掲示や、スマートフォン用のチャットツールを使って、健康診断の受診を促すとともに、健康診断未受診者や再検査対象者の確実な把握、再検査の受診勧奨、再検査結果の確認を徹底し、従業員にも健康管理の必要性を理解してもらうよう働きかけた。
また、健康診断で再検査となった従業員や、ストレスチェックで高ストレス者と判定された従業員に対しては、産業医の協力のもと、個別面談を開始した。
「産業医の先生は選任していましたが、安全衛生委員会でお話いただくことしかお願いできていませんでした。高清水先生からアドバイスをいただいて、より多くの場面でお力添えをいただくようになりました」(利根川氏)
さらに、高清水氏による従業員に向けた「健康診断の見方セミナー」も実施。セミナーは同社の談話室を利用して実施し、参加した約20名の従業員は、皆真剣な眼差しでセミナーを受講していた。当日業務で参加できなかった従業員に対しては、録画によるオンライン配信を行った。
「健康診断の結果は、受け取ってもサッと目を通すだけで、再検査でなければ、細かな数値まで見ていない人が多いものです。ですが、それでは自分の健康状態が把握できませんし、改善に向けた行動にも繋がりようがない。せっかく受けた健康診断をちゃんと健康に繋げていくための、その基礎を教えていただきました」(利根川氏)
また、この時高清水氏が行ったデータ分析が、その後の同社の取組にも非常に参考になったと利根川氏は言う。
「高清水先生は当社従業員の健診結果を、年齢や性別、業種といったさまざまな視点から比較分析してくださって、なるほど、と大きな学びになりました。今まで、従業員の健診結果は、紙で保管するだけでしたが、今はデータで納品してもらい、それを基に一人ひとりの数値の推移や、全社的な傾向などを分析して、従業員への啓発に活用しています」(利根川氏)
その上で、従業員の生活習慣改善を促す情報提供・啓発として、オリジナルの「安全健康新聞」を毎月発行し、社内掲示やチャットツールでの配信を行った。協会けんぽのHPなどを参考に収集した健康情報や、安全衛生委員会で話し合われた内容のほか、従業員から産業医への健康相談コーナー(あらかじめ従業員から募集した健康に関する質問に産業医が答える)を設け、従業員の興味を惹く内容となるよう工夫を施した。

健康診断の見方セミナーの様子。参加者はみな真剣に受講していた
健康診断の見方セミナーの様子。参加者はみな真剣に受講していた
毎月発行している「安全健康新聞」
毎月発行している「安全健康新聞」
談話室にも掲示されている
談話室にも掲示されている
取組による効果、今後の展望
  • ● 従業員の健康に対する意識が向上した。
  • ● リスクマネジメントとしての健康経営の意義を再確認し、自社に合った取組を充実できた。
  • ● 健康優良企業「銀の認定」を取得することができた。

「この度の専門家派遣を通じて、課題であった『従業員の健康問題のリスクを下げていく』という点については、さまざまな取組ができたかなと思っています。今後も継続して、従業員が健康で長く働ける環境をつくっていきたいです」と利根川氏。従業員の中には、体重を気にする者や、健康について話をする者も増えているようで、少しずつ健康に対する意識の向上が見られ、健康経営の取組が浸透してきているようだ。
また、高清水氏のアドバイスもあって、ドライバーの健康確保には特に注意すべきだ、と気づけたことが、その後の同社の取組にも影響を与えているようだ。
「高清水先生から『今後、特に優先すべきはドライバーの健康確保です』と言われた時、たしかにそうだなと。もちろん従業員全員の健康が大切なのですが、特にドライバーが健康で、安全に働くことができなければ、思わぬ事故の発生など企業リスクに直結してしまうということに、高清水先生との対話の中で改めて気づきました。実は、健康経営に取り組む以前は、健康問題は個人が解決するものだと思っていました。しかし、個人の健康問題が会社のリスクに直結するわけですから、会社が個人の健康に関与して、より良い健康状態でいることをサポートするのは、会社として当然の取組だと考えるようになりました」(利根川氏)
そうした気づきもあって、専門家派遣終了後、ドライバー専門に健康管理をサポートする企業と契約。専門家による面談や栄養士によるアドバイスなど、生活習慣改善を目的とした取組を実施している。
全従業員に対しても、3カ月に一度、テーマを変えながら健康セミナーを継続実施。健康経営の取組は加速している。
一連の取組を継続した結果、2021年12月に「銀の認定」を取得し、現在は「健康経営優良法人」にも申請中だ。今後の目標は健康経営を通じて、業界イチ「健康になれる会社」になることだと、利根川氏。
「我々産業廃棄物を取り扱う業界は、どうしても『体力的にキツそう』『ハードワークで体を壊すのでは』といったネガティブなイメージを抱かれがちです。そのイメージを払拭したい。業界イチ『健康になれる会社』をキャッチフレーズに、従業員が健康でいられるのはもちろん、さらに健康になれる企業を目指して、もっと取組を拡大していきたいと思います。今働いている従業員にも『いい会社だな』と本音で言ってもらえるような、そんな会社でありたいです」(利根川氏)
健康経営の継続が、同社で働く従業員の満足感に寄与し、さらには企業イメージの向上にも繋がっていくことを期待している。

2021年12月、健康優良企業「銀の認定」を取得
2021年12月、健康優良企業「銀の認定」を取得
安全衛生委員会のメンバー。左から利根川 氏、大川 純一 氏、塩屋 勲 氏、濱野 意忠 氏
安全衛生委員会のメンバー。左から利根川 氏、大川 純一 氏、塩屋 勲 氏、濱野 意忠 氏

健康経営エキスパートアドバイザーより

  • 50歳代以上が従業員の約7割を占め、高齢化が進んでいました。健康診断結果では、収集車の運転業務従事者に血圧所見者が多い傾向があり、深夜勤務も発生することから、健康問題や事故災害の発症リスクが高いと思われました。高齢化が進んでいる従業員の健康確保、とりわけ、運転業務従事者のリスク管理が課題と判断しました。
    まず、会社が健康管理に取り組むことの意義を考えていただきました。その上で、事業所の担当者が健康診断結果を活用していけるように支援しました。そのため健康診断結果の事業所控えを見せていただき、どのようなレベルの方に受診勧奨、受診確認するのか、受診結果確認の必要性の判断は、産業医を活用して意見していただくことなどポイントをお伝えしました。
    健康経営の認定要件には、活動目標が示されておりますが、自社で取り組む目的、方針を明確にしていないと実践計画となり実施することが目的となってしまいます。担当者が交代しても活動が続けられていくように、3カ年の事業計画として、方針や目的に沿った計画を策定していけるよう雛形を提供していきました。その中で、初年度計画に掲げた従業員向けの健康教育をトライアルとして実施していくことになり、テーマを“健康診断結果の活用”としました。従業員にも健康への関心を高めていただきたいとの想いからでした。
    目的、意味付けを理解されると、主体的に進められていました。私の予想を超えて、活動が促進していきました。支援終了後も発展的に継続できています。
    担当者の利根川様は、モチベーションがもともと高く、支援内容をすぐに理解して“見える化”しておりました。また、日頃から協力し合う風土があり、メンバー間で知恵を出しあい進められていました。受け入れる素地ができていたこと、ニーズの焦点合わせが共にできたことが成功のポイントだと思います。
    今後については、特にアドバイスの必要がないと感じるほどに積極的に進められています。活動の評価や課題への取組を続けて、元気な会社を目指していただきたいと思います。
  • 高清水 幸美 氏(保健師)
(取材:2022年11月)