専門家派遣制度を利用した期間
2021年9月~2022年6月
支援専門家
・中小企業診断士
・保健師
本社: 東京都足立区西伊興3-15-25
代表者名: 代表取締役 齊田 守 氏
設立: 1969年
従業員数: 69名
事業内容: ディスプレイ、紙製ノベルティ商品、ジグソーパズル、パッケージ、商業印刷物、サイン事業等
創業55年を迎える紙の加工会社。什器(店頭用ディスプレイなど)やパッケージ、ショッピングバッグやギフト箱など、紙の加工品を企画・製造する。
専門家派遣制度を利用した期間
2021年9月~2022年6月
支援専門家
・中小企業診断士
・保健師
SDGs経営「全ての人に健康と福祉を」を実施するにあたり、健康経営の実践のために必要な具体的な取組について知りたい。
SDGsの理念を経営指針に取り入れ、持続的な企業価値向上を目指すSDGs経営は、昨今企業からも大変注目されている。同社でもSDGs経営を実施すべく、SDGs推進委員会を発足。17あるSDGs項目(目標)の中から、自社に適した目標の一つとして、「全ての人に健康と福祉を」を選び、従業員の健康維持・増進のため、会社全体で取り組む「健康経営」を始めることを決めた。
そこで、経済産業省の「健康経営優良法人」認定を最終目標に据え、まずは健康優良企業「銀の認定」の取得を目指すことに。2021年8月に「健康企業宣言」をし、健康経営をスタートしたが、健康経営を推進する上で具体的にはどのような取組をすべきか、アドバイスを求めて専門家派遣を申し込んだ。
このような背景には、運動・スポーツへの関心が高いという、会社の風土があったからだ、と経営企画室室長の村山竹宏氏は語る。
「創業者の齊田好幸は高校時代ボクシングで九州チャンピオンになった実力者で、息子で現社長の齊田守もフェンシングの元選手。日本フェンシング協会副理事も務め、東京2020オリンピック・パラリンピックのフェンシングチームのスポンサーにもなりました。このように、経営者がスポーツに縁があるからか、当社には不思議とスポーツが好きな人、競技者だった人たちが集まっているようです。社内に『自転車部』や『釣り部』があるなど、すでに、趣味や健康目的で運動・スポーツに励む社員が多いという土壌がありました。そこで、その土壌を健康経営の取組に活かしたいと考えました」(村山氏)
専門家の屋代勝幸氏(中小企業診断士)は、ヒアリングを行った上で、同社の課題の整理や、その解決に向けた取組実施の際の相談役となった。
同社は健康企業宣言をしたものの、具体的な取組をどのように進めていくべきか決めかねていた。そこで、まずは健康経営を推進するための社内体制づくりから着手することとなった。本社から1名、工場長、村山氏、江見麻友子氏の4名からなる健康経営の推進チームを発足し、月に1回程度、社員の健康増進のためのミーティングを実施した。
「これまで社員個人任せ、部署任せになってしまっていた健康状態の把握に対して、組織立って取り組むようになりました。例えば、最近社内で調子が悪い者がいないか。工場では、働く社員で咳が出る、むせるなどの症状がある者がいないか。それらの原因は会社のハード面(建物等)にあるのか、ソフト面(仕事の繁忙や人間関係等)にあるのか、など、社員一人ひとりの健康に関して積極的に情報交換し、改善策について話し合うようになりました」(村山氏)
健康経営の具体的な取組を考えるにあたっては、同社の企業風土を踏まえ、まず社員全体で始めやすい取組として、週に1度の朝のラジオ体操や、歩数計測アプリを使ったウォーキングイベントなどを企画・実施した。
「ウォーキングイベントでは、1カ月間で何歩歩けるか、全社員を4つのチームに分けてチーム対抗戦で歩数を競いました。個人の歩数で最も多かった人はなんと154万1,132歩、1日平均5万歩近く歩いていました。お昼休みに、会社の隣にある公園を歩いている社員がいたり、皆が楽しんで参加していました。スポーツが好きな当社の風土に合った、とても盛り上がるイベントとなりました」(江見氏)
さらに、同社は69名中25名が女性社員であり、特に近年その割合が高まっていることを背景に、女性特有の健康課題に対する社内理解の浸透が課題であった。その点に対しては、専門家の久保さやか氏(保健師)が、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する同社の方針を考慮し、女性の健康とダイバーシティを組み合わせたセミナーを提案。「女性の健康×ダイバーシティ」と題して、女性だけでなく男性も含めた全社員参加のセミナーを開催した。
セミナーでは、女性の健康(月経、更年期、女性特有のがん等)に関する講演に加えて、育児や病気と仕事の両立など、男女に関わらず誰もが直面しうるテーマに対して互いの意見を出し合うグループワークも行った。性別、年齢、人種等、目に見える違いだけでなく、仕事や家庭に対する考え方といった目に見えない部分にも違いがある社員が、一緒に気持ちよく仕事をするために、自分には何ができるか、という深い議論にまで発展した。
「改めて女性の健康課題について真正面から講義を受けて、また社内のメンバーからいろんな話が聞けて、私自身も非常に勉強になりました」(村山氏)
「性別もそうですし、LGBTQ+や国籍や人種、信仰する宗教などにとらわれることなく、お互いの多様性を認め合いながら、働いていきたいという当社の意向を汲んで、久保先生がこのようなセミナーをご提案くださいました。健康経営に繋がりつつ、経営方針にも沿った、当社らしい研修ができました」(江見氏)
同社はその他にも、朝会を活用して定期的に健康のためになる情報の提供を行うなど、取組を重ねているが、取組の着実な実行のために用いたのが、「ロードマップ」である。これは、屋代氏が、各課題とその解決策としての取組の整理のために活用を勧めたもので、「銀の認定」の必須項目ごとに、毎月、目標・計画を立て、実施状況を振り返ることを繰り返すことで、健康経営のPDCAサイクルを回す仕組みをつくることができた。
専門家派遣をきっかけに開始した様々な取組を通じて、社員が自身の健康課題に対して前向きに取り組むようになったことを肌で感じている。情報提供として、東京都が発行しているがん検診やメンタルヘルス等に関する資料を社員全員に配布した際には、「実際にがん検診を受けた、という者もいました」(江見氏)というように、社員の具体的な行動にも繋がった。
また、ウォーキングイベントやセミナーの開催は、社員同士のコミュニケーションの活性化にも寄与した。1カ月の歩数を競ったウォーキングイベントでは、個人ではなくチーム(誕生月を四季で分けて、春・夏・秋・冬の4チーム)対抗戦にした。また、セミナーのグループワークでも、あえて違う部署の社員を同じグループにした。これらの工夫により、これまで関わりのなかった社員同士でコミュニケーションをとるきっかけとなるとともに、部署によって異なる互いの立場への理解も進んだ。
専門家派遣期間終了後も取組を継続した結果、2022年9月に晴れて健康優良企業「銀の認定」を取得。社内外に公表することで、社員の士気の向上や、企業価値の向上に繋がっていくはずだ。
今後の目標の一つには、メンタルヘルス対策の強化が挙げられる。屋代氏による当初のヒアリングの時点で、メンタルヘルスケアが十分でない点も課題としていたものの、「他の課題に比べると、この1年で十分には取り組めなかったと感じています」と江見氏は振り返る。今後は、メンタル不調者を出さないことを目標に、自分自身のこころの健康の保持や、周囲の人のこころの不調に気づくために必要な知識の底上げを図るとともに、社内外の相談窓口を確保し社員に周知するなど、職場の同僚や上司によるケアから、専門家によるケアまで、相談しやすい体制をつくっていくことを目指す。
今回の専門家派遣は、同社独自の健康経営のベース確立に貢献したといえるだろう。今後の展望について村山氏は、「健康経営を通じて、高齢者も若い人も、年齢や立場に関係なく、メンバーみんなで補完しあえる企業に発展していきたい」という。
今回確立した健康経営のベースをもとに、新たに見えた課題をクリアして取組を拡充していくことが、同社の社員の健康や働きやすさはもちろん、ビジネスの発展にも寄与するはずだ。
健康経営エキスパートアドバイザーより