専門家派遣制度を利用した期間
2022年6月~2023年2月
支援専門家
中小企業診断士
本社: 東京都葛飾区水元3-9-14
代表者名: 代表取締役 町田 裕司 氏
設立: 1989年
従業員数: 20名
事業内容: 上下水道工事事業、配管工事業、道路舗装、土木工事業
専門家派遣制度を利用した期間
2022年6月~2023年2月
支援専門家
中小企業診断士
経営者自身が肥満で体調不良になった経験から、健康の重要性を改めて実感。従業員の健康を会社が支援できるよう、健康経営に取り組みたい。
創業33年、葛飾区を拠点に水道工事事業を行う丸和建設工業。地中に埋められている排水管の交換や、宅地への排水管の引き込み工事など、水道管の交換工事や新設を行っている。
同社が健康経営に取り組もうと考えたのは2021年頃。代表取締役の町田裕司氏は、当時、多忙とストレスが原因で体重が増加し、体調があまり芳しくない状態だったという。
「2018年に会社を引き継いだのですが、仕事の忙しさやストレスからか、体重が徐々に増え、100kg近くになっていました。そうすると、体が重くて動くのが辛かったり、睡眠時無呼吸症候群のような寝苦しさを感じたりすることもあって…。まずは痩せなければと思うようになりました。また、私以外にも数名、肥満傾向の従業員がいました。加えて、当時は今よりも高齢の従業員が多く、彼らの健康状態も心配でした。当社は工事を行いますから、身体が資本。それでも、健康そっちのけで働こう、という人が多かったのです。自分も従業員も、このまま健康に無頓着なままではまずいのではないか、という危機感を抱いていました」(町田氏)
そのような折、付き合いのある保険会社の担当者から健康経営について教わり、自身や従業員が健康になれるならと取り組むことを決意。2022年3月に健康企業宣言を行い、総務の鈴木智子氏を健康づくり担当者に任命。その後、階段昇降のメリットや飲料によるカロリー摂取過多のリスクといった、生活習慣の改善を促すポスター等を掲示するなど、取組をスタートした。健康優良企業「銀の認定」を取得することを目標に据えたものの、認定取得に向けてどのような取組を行えばよいかわからず、助言をもらうために専門家派遣制度に申し込んだ。
専門家の屋代勝幸氏(中小企業診断士)は、町田氏・鈴木氏へのヒアリングと、従業員を対象に実施した健康経営の事前アンケートの結果を踏まえて、次のような課題を指摘した。
まずは、従業員の健康への意識が低いことだ。アンケートの結果では、栄養・食生活に関する項目、運動に関する項目のどちらも、良い生活習慣の従業員が多いとは言い難い状態だった。また、従業員20名中10名が喫煙者という、喫煙率の高さも指摘した。
これらの課題に対しては、社内の掲示物の枚数をこれまで以上に増やすことで対策を行った。協会けんぽや厚生労働省などのホームページから情報を収集し、運動、食事、タバコなどのさまざまな情報を、社内の壁やトイレの壁面などに掲示。従業員が仕事の合間に目にすることで、健康への意識が高まることを狙った。また、町田氏が現場に飲み物を差し入れる際は、水、お茶、ブラックコーヒーなど、カロリーを抑えた飲み物を選ぶようにするなど、従業員が口にするものに配慮した。
さらに、屋代氏は、アンケートの結果で運動不足の人の割合が高かったことを鑑みて、従業員に運動の機会を提供すべきとアドバイス。特に従業員が建設現場に従事する場合、運動不足により体が動かなかったり、朝起きて間もない時間の作業で体が動かなかったりすれば、労働災害のリスクが高まるからだ。このアドバイスを受けて、毎朝出社後9時からラジオ体操を実施するようにした。
加えて、毎月1回行う安全会議の場で、食事や運動といった健康に関連する情報を提供した。安全会議は、工事現場で働く社員が参加するもので、労働災害の防止など、安全に関わる内容を話し合う場だ。そこで健康に関する情報の発信も行うようにした。
一連の取組を通じて、「とにかく従業員の健康への意識が高まりました」と、健康づくり担当者の鈴木氏は笑顔を見せる。それは、事後アンケートで、栄養成分表示を確認する人の割合が増えたことからも読み取れる。
「食べ物や飲み物に対する意識も変わって、今では会社でコンビニのお弁当を食べたり、炭酸ジュースや甘い缶コーヒーを飲んでいる人を見ることはありません。手作りのお弁当を持ってくるようになった従業員もいます。社内では自然と、どんな食べ物が体にいいとか、どうやったら痩せられるかといった、健康に関する話題が増えました。ジムに通うようになった従業員もいます。10名ほどいた喫煙者は3名に減りました。また、体調を崩した際はすぐに病院を受診する従業員も多くなりましたね。それだけ、健康への意識が高まったのだと思います」(鈴木氏)
これは、社内に健康に関するさまざまな情報を掲示したことも大きいが、なにより、町田氏を含め肥満傾向だった従業員たちが次々に痩せていったことも大きかったと、鈴木氏は続ける。
「社のリーダーである町田が、率先して食べ物や飲み物を健康的なものに変え、1年も経たないうちに20kg以上の減量に成功しましたから、それを見て『自分も運動しよう』とか『これを機にタバコをやめよう』と思う従業員が多かったと思います」(鈴木氏)
ラジオ体操は日々の取組として定着し、専門家派遣制度終了後も継続して行っている。ラジオ体操を行った後は体が心地良いようで、「やらないと落ち着かないんです」と言う従業員もいるという。また、過去に少ないながらも発生していた労働災害が、ラジオ体操を開始してからは一度も起こっておらず、一定の効果を発揮していると言えそうだ。
目標の1つに掲げていた健康優良企業「銀の認定」は、2022年12月に取得した。今後は、アプリを使ったウォーキングイベントなど、会社のレクリエーションのような形で運動に取り組みたいと、町田氏は意欲を見せる。最終的には、「業界のイメージをも変えていけたら」と町田氏。
「当社は基本的に残業なしで、休日は必ず休みです。ここに健康経営が加わったことで、より従業員が働きやすい環境が整ったと思っています。建設業界でもこうした取組を積極的に行っている企業があるんだということをアピールすることで、少しでも、業界全体にポジティブな印象を持ってもらいたいです」(町田氏)
建設業界はまだまだ、仕事がきつい、残業が多いといったイメージが強い。そのような中で、同社は健康経営の取組により、従業員が健康に働ける環境を整えた好例だと言えるだろう。
健康経営エキスパートアドバイザーより