東京商工会議所

橋本産業株式会社

従業員自らが定める「私の健康目標」の実施で、
禁煙・体重減量に成功するなど効果を発揮

  • 体制構築

橋本産業株式会社

本社: 東京都千代田区神田紺屋町34

代表者名: 代表取締役社長 橋本 浩一 氏

設立: 1947年

従業員数: 276名

事業内容: 給排水・衛生設備、空調設備等の関連機器の販売、開発、メンテナンスなどのエンジニアリングサービス。

専門家派遣制度を利用した期間

2024年8月~2024年12月

支援専門家(健康経営エキスパートアドバイザー)

労働衛生コンサルタント

専門家派遣制度を利用したきっかけ

健康経営を推進するために、具体的にどのような取組を行えばよいか、アドバイスがほしい。

オフィスビルやショッピングモール、病院、学校といった大型施設の空調や、給排水の関連機器を取り扱う専門商社・橋本産業。関連機器を販売する商社事業、オリジナル製品を開発する開発事業、取り付け工事やメンテナンスを行うエンジニア事業の3事業からなり、国内10カ所以上に営業拠点を構える。2025年で78年目を迎えた老舗企業だ。
同社が健康経営に取り組み始めたのは2024年。きっかけは、代表取締役社長・橋本浩一氏からの「ぜひ取り組みを実施したい」という声だったと、健康経営プロジェクトでサブリーダーを務めた、人事部課長兼総務部課長の藤原直子氏は振り返る。
「2023年末に、偶然ではあるのですが、複数の従業員の怪我や病気が重なりました。その時、社長の橋本は『業績も大事だけれど、それを支えているのは従業員の健康だ』と強く感じたと言い、健康経営に取り組むことを決めました」(藤原氏)
2024年の春に健康経営のプロジェクトが発足。すでにいくつかあった社内分科会の一つとして、「健康経営分科会」が新設された。営業本部南関東ブロック長兼横浜支店長の佐古篤氏がリーダーに指名され、取組がスタートした。
「私は社長からの指名でリーダーを担い、サブリーダーを藤原にお願いしましたが、残るプロジェクトメンバーは公募制にして、自ら手を挙げてくれた7人です。まずは、会社からミッションとして与えられた、健康優良企業『銀の認定』取得を目指すことになりました」(佐古氏)
健康経営とは何か、具体的にどのような取組を行うべきかもわからないまま、手探りでスケジュールや取組内容を考えていたところに、橋本社長から、健康経営エキスパートアドバイザーで労働衛生コンサルタントの大神あゆみ氏を紹介され、専門家派遣制度を利用することとなった。

健康経営分科会チームのメンバー 後列左から、荒井 昌樹 氏(厚木営業所)、倉持 武志 氏(HS開発部)、鈴木 賢人 氏(多摩営業所)、杉田 裕司 氏(大阪HS営業所) 前列左から、小高 理恵 氏(情報システム部)、佐古 篤 氏(横浜支店)、藤原 直子 氏(人事部) ※佐藤 大亮 氏(エンジニアリング本部)は取材日当日不在
健康経営分科会チームのメンバー
後列左から、荒井 昌樹 氏(厚木営業所)、倉持 武志 氏(HS開発部)、鈴木 賢人 氏(多摩営業所)、杉田 裕司 氏(大阪HS営業所)
前列左から、小高 理恵 氏(情報システム部)、佐古 篤 氏(横浜支店)、藤原 直子 氏(人事部)
※佐藤 大亮 氏(エンジニアリング本部)は取材日当日不在
専門家派遣による支援と取組
  • ● 認定取得に向けたスケジュール設定と体制づくり
  • ● 従業員自らが定める「私の健康目標」を実施
  • ● 経営層を対象にした「健康経営セミナー」の実施
  • ● 衛生管理者資格の取得による社内体制の強化

2024年8月に同社の取組をヒアリングした大神氏。まず指摘したのが、余裕なくタイトに設定されたスケジュールだ。
当初「とりあえず最短で、早く『銀の認定』を取得してミッションを達成したいと考えていた」という佐古氏は、すぐに健康企業宣言を実施、6カ月後に認定申請、というスケジュールを作成していた。それに対して大神氏は「このままでは、メンバー全員が息切れしてしまいます。もう少し時間をかけながらやっていきましょう」と助言。大神氏のこの指摘が、大きな気づきと、取組の方向転換につながったと、佐古氏は言う。
「大神先生の言葉で、自分たちが『従業員の健康よりもタスクをこなすこと』を重視していることに気がつきました。そこで、スケジュールと取組体制を見直しました。認定の取得は一つの目標ですが、『従業員一人ひとりが、自分の健康に向き合えるようにする』ことを第一に考える方向へと転換したのです」(佐古氏)
スケジュールは当初より3カ月ほど遅らせ、11月に健康企業宣言を行うこととした。認定の申請・取得は、2025年中旬以降を目標に定めた。
併せて行ったのが、同社独自の取組「私の健康目標」の実施だ。これは、従業員一人ひとりが自身の健康課題に合わせて目標を定め、半年間それに取り組むというもの。運動、食事、睡眠、メンタルヘルスといったカテゴリーから、自身が気になっているものを選び、具体的な取組(例:毎日8,000歩歩く)を決めてもらった。取組の意義や取組方法を伝えるため、オンラインで説明会も開催した。
この取組はサブリーダー藤原氏の発案で、従業員自ら、自身の健康と向き合って欲しいという思いで作成された。
「当社では、全従業員が半期ごとに成果・業績の目標設定をおこないます。『私の健康目標』も、そのタイミングに合わせて設定してもらいました。2024年の8月頃には、社長、役員含めた全員に『私の健康目標』を一人1つ立ててもらい、その目標をまとめたものを、10月の経営方針発表会の資料の最終ページに掲載して、全員に共有しました。また、『私の健康目標』への取組を促すPR動画を作成し、経営方針発表会で放映。とにかく楽しみながら、これから半年間、しっかり自分の健康と向き合ってほしいという、健康経営分科会の意向を伝えました」(藤原氏)
その後も、従業員が自ら定めた目標に向かって取組を継続できるよう、定期的に声掛けを実施。取組の一助になればと、運動、食事、睡眠といったカテゴリーごとに活用できそうなスマホアプリを調べて情報を共有した。また、取組スタートから3カ月後には進捗状況をアンケート集計。「順調・まずまず・全然取り組めていない」といった進捗確認に加えて、「自分が行って効果があったおすすめの取組」をヒアリングする項目も設置。従業員から集まった「おすすめの取組」を、他の従業員の参考になるように、社内イントラで配信するなどした。
また、大神氏による経営幹部約30名を対象にした「健康経営セミナー」を開催。「『健康経営』は経営の基本で、最強の武器になる」と題し、健康経営の考え方や、健康習慣と健康についての基礎知識などを解説。出席者の理解や状況を尋ねるクイズ形式の問いかけで行われ、講演を聞くだけでなく、参加者自らが考えるセミナーとなった。
なお、健康経営分科会チームは「『銀の認定』取得のためのタスク達成チーム」と「私の健康目標チーム」の2つに分けることで、業務を分担してメンバーに過度な負担がかからず取り組める体制を整えた。各取組は月1回の分科会で報告し合う仕組みとした。
加えて、大神氏のアドバイスから、メンバー全員で衛生管理者資格(第一種衛生管理者)の取得を目指すことに。衛生管理者は、従業員が安全で健康に働くことができているかを管理する役割にあり、健康経営の取組と重なる部分が多くある。同社にはすでに法令に準じて衛生管理者が在籍するものの、1名しかいないこともあって、いざというときのために複数名いた方がいいと、資格取得を目指すこととなった。

全従業員に配布した、私の健康目標シート(記入例)。
全従業員に配布した、私の健康目標シート(記入例)。
自作した動画の一部。思わずクスッと笑ってしまうようなトーンで仕上げ、従業員が楽しみながら「私の健康目標」に取り組んでくれるように工夫した。
自作した動画の一部。思わずクスッと笑ってしまうようなトーンで仕上げ、従業員が楽しみながら「私の健康目標」に取り組んでくれるように工夫した。
月1回の分科会では、各自の取組を報告し、対策を考案。大神氏も、専門家派遣期間中は分科会に参加してアドバイスを行った。
月1回の分科会では、各自の取組を報告し、対策を考案。大神氏も、専門家派遣期間中は分科会に参加してアドバイスを行った。
取組による効果、今後の展望
  • ● 従業員一人ひとりが「私の目標」達成に向けて行動し、生活習慣が改善された。
  • ● 3名が禁煙に成功した。
  • ● 福利厚生サービス「WELBOX(ウェルボックス)」を導入した。

「大神先生とも相談して、まずは従業員の6割の人たちの気持ちを乗せて、取り組んでもらうことができたら成功だと思って頑張ってきました」と、佐古氏。「私の健康目標」については、半期ごとの目標設定と同じタイミングで定めてもらう仕組みにしたこともあって、ほぼ全ての従業員が目標を定め、達成に向けて取り組んでくれた。
半年間の取組が終了した2025年4月の経営方針発表会の際には、結果報告として、取組に対する自己評価がAだった従業員を抽出して発表した。また今回も動画を作成し、分科会メンバーの体重のビフォア・アフターを紹介。取組によって起きた好ましい変化の一例として共有した。
「取組に対する評価基準には悩みました。他薦や部署推薦にするか、受賞者を表彰して景品を渡すかなど……。さまざま検討した結果、結局、健康であることは自分のため。自分の健康は自分の宝だよね、という話になり。自己評価にして、あえて表彰という形はとらないことにしました」(藤原氏)
この取組を経て、3名が禁煙に成功。また、休肝日を設定して飲酒量を減らすなど、従業員の生活習慣に改善が見られたという。
「禁煙に成功したうちの1人は、営業部の本部長です。トップが率先して取り組んでくれたことも、他の従業員によい影響を与えたのではないかと思います」(佐古氏)
組織のトップやリーダーが、健康経営を理解し推進していることの表れだ。大神氏による経営幹部セミナーが影響していると言えるかもしれない。
さらに、健康経営分科会での検討成果として、2025年3月から、福利厚生に「WELBOX(ウェルボックス)」を導入。スポーツクラブ利用の優待や、レジャーや資格取得支援などを活用できるサービスだ。
「従業員の健康的な生活を、もっと会社が支援できないかと、健康経営分科会で考えて、導入が決まりました。きちんと従業員皆の利用を促進するように、という課題がトップから降りてきていますので、そこにも取り組んでいきます」(藤原氏)
目標としていた健康優良企業『銀の認定』は2025年9月に取得。また、トップバッターとして第一種衛生管理者を受験した佐古氏、続く小高氏も、見事合格し資格を取得した。残るメンバーも、これから順次受験する予定である。
健康経営分科会は2025年9月で一旦解散となったが、健康経営の促進・啓蒙活動は総務部や人事部が引き続き行っていく。今後については、「私の健康目標」を、引き続き半期に一度の目標設定の中に組み込むことで、従業員の取組を促進していくと、藤原氏。
「これまでも運用されてきた、自身の業務に関連する目標を設定・管理するシートに、健康目標も組み込むことで、業務と同じく健康に関しても目標を設定・管理することが、当たり前になっていくことが理想です」(藤原氏)
従業員が自分で自分の健康状態をより良いものにしていこうという文化が、まさに根付き始めていると言えるのではないだろうか。

メンバーの一人は、半年間の運動と食事制限で体重を減らすことに成功。
メンバーの一人は、半年間の運動と食事制限で体重を減らすことに成功。
2025年9月に健康優良企業『銀の認定』取得
2025年9月に健康優良企業『銀の認定』取得

健康経営エキスパートアドバイザーより

  • 同社の強みは、「自律性」「協働」「面白み」です。健康経営分科会のメンバーが自薦で集まり、チームに分かれて提案し相互に議論するプロセスが実に丁寧でした。悪ふざけしすぎず面白がる姿勢が印象的でした。アドバイザーというよりも、チームに入れてもらい、一緒に知恵をしぼるメンバーの気持ちで関与させていただきました。記憶に強く残ったのは「衛生管理者の資格も皆で取ろう!」と問題集を品定めした場面と、従業員を鼓舞すべく作成した動画(秀逸な動画です!)のお披露目の場面です。面白くないことは続きません。そして、自分たちが決めたものでない、人からのお仕着せのものも続きません。その流れをつくった、社長のリードと見守りの手綱の引き方も良い効果の源泉だったと思います。
  • 大神 あゆみ 氏(労働衛生コンサルタント)
(取材:2025年10月)