東京商工会議所

株式会社パイプ技研

生活習慣病などの健康リスクを抑え、
働きやすい職場へ
社員作成の「健康推進委員会便り」で健康意識が向上

  • 組織・体制づくり

株式会社パイプ技研

本社: 東京都豊島区南長崎6-7-11

代表者名: 代表取締役社長 坪井 速世 氏

設立: 1979年

従業員数: 19名

事業内容: 給水・排水に関する工事・清掃・維持管理、産業廃棄物処理等

  主要取引先には官公庁も名を連ねている。生活に必須となる水を扱う業務ゆえ、機動力を高め、顧客が困ったときにはいち早く対応することを心がけ、信頼を得ている。

専門家派遣制度を利用した期間

2020年8月~2021年3月

支援専門家

社会保険労務士

専門家派遣制度を利用したきっかけ

社員の健康リスクを抑え、長く勤めてもらえるようサポートしたいが、そのための具体的な取組について専門家に相談したい。

同社の業務は入札に向けた見積の積算から現場の業務まで多岐にわたり、社員は一人数役を担っている。仕事柄、残業も多くなりがちだったが、先代社長が病気発覚後、短い期間に亡くなるという悲しい出来事に直面し、社内全体に健康やワークライフバランスを大切にする気運が生まれてきた。
2020年に社長に就任した坪井速世氏はその時のことをこう振り返る。
「突然のことで経営の引継ぎもできませんでした。社員も不安だったと思います。これまで健康診断は100%受診してもらっていましたが、2次健診の受診率が悪く、正面から健康経営に取り組み、私生活も仕事も充実した人生を送ってもらえるようにしたいと決意しました」
そこで、まず取り組んだのは、就業規則の見直しと残業の削減である。直行直帰を可能にするテレワークの環境整備を行うと同時に、意識改革を呼びかけた。
「10時間の仕事を8時間で終えようと工夫し、今は残業が大きく減りました。同時に自動車事故もほぼ無くなり、損害保険の保険料が下がるなど、いろいろな面で生産性の向上につながっています」と大きな前進を見た。
しかし、業務の進め方や効率化に一定の成果が出た一方で、社員の健康づくりの推進については、健康診断受診のほかに、具体的に「なに」を「どうすれば」の部分がまだ明確ではなかった。加えて、社内には生活習慣病に罹患している社員がおり、健康リスクを抑え長く勤めてもらえるようなサポートをしたいという思いが強かった。そのため、専門家派遣制度を利用し、具体的な助言を得ようと考えた。

代表取締役社長 坪井 速世 氏
代表取締役社長 坪井 速世 氏
本社エントランス
本社エントランス
専門家派遣による支援と取組
  • ● 健康経営の推進体制づくりと「健康推進委員会便り」による社員への健康情報の共有
  • ● 特定保健指導の受診促進
  • ● 社員の健康増進に向けた環境整備

まずは、専門家の正木秀幸氏(社会保険労務士)の助言に基づき、協会けんぽが実施している「健康企業宣言」によって、健康経営に取り組む会社の姿勢を社内に示すことから始めた。
さらに、社内の推進体制づくりのため、健康推進委員会を設置し、健康に興味を持つ社員を委員長に任命。毎月1回の委員会の全体会議では、社員が作成した「健康推進委員会便り」を配布し、健康づくりに関する社員への情報提供を進めた。
「健康推進委員会便り」作成にあたっても、専門家の助言を参考にしたことで、大変分かりやすい仕上がりとなった。内容は、例えばカップラーメンを多く食べることの問題点や、ドリンク類に含まれる糖分の情報など、社員に身近な食生活のテーマのほか、季節に応じた健康づくりなど、社員が専門家からヒントを得ながら検討、作成を行った。
次に、課題となっていた特定保健指導の勧奨をもれなく行った。特定保健指導は、特定健康診査の結果から、生活習慣病の発症リスクが高い従業員に対して、協会けんぽから派遣された専門スタッフ(保健師、管理栄養士など)が生活習慣を見直すサポートをするものである。特定保健指導を2名が受けて、そのうちの1名は9kgの減量に成功し、生活習慣病の予防につながっている。
そのほか、社内の自動販売機の飲料はカロリーを考慮したものに変更、血圧計や体脂肪体重計などの健康機器の設置を行い、社員の健康増進に向けた実際の環境も整備した。

健康推進委員会便り
健康推進委員会便り
取組による効果、今後の展望
  • ● 社内が明るく、コミュニケーションが活発になった。
  • ● 産業医相談やストレスチェックの導入など、自社に合った健康経営の取組を進められた。

健康推進委員会の設置により、組織的な健康づくりの推進が可能になったことに加え、委員会での「健康推進委員会便り」による定期的な情報提供により、時間とともに薄れがちな社員の健康管理への意識の定着化が進んでいる。
専門家による支援と取組を振り返り、坪井社長は次のように語る。
「まだ道半ばですが、良い方向に進んでいます。何より社員がよく笑い、会話も弾むようになってきています。専門知識とアドバイスには大変助けられました。私どものような中小企業が健康経営に踏み出せる良い制度だと思います」
一般論から踏み込んで、自社にとって適切な取組や対応方法がわかる点も、個別支援ならではの良さだと指摘する。
こうした取組の結果として、2021年には、健康優良企業「銀の認定」を取得することができた。また現在、健康経営優良法人2022の認定取得に向けて申請も行っている。
さらに、2021年秋から産業医と契約し、事業所の人数は50名以下であるが、ストレスチェックも実施していく予定だ。その際、何かあれば健康推進委員会から産業医へつなげるようにし、もし坪井社長に直接言いにくい心配事があっても気軽に産業医相談できる形をとるという。
そして、同社が目指すのは、「情報を共有し、助けあい、皆で仕事を進められる会社」である。誰かが休暇を取得してもほかの人が対応できれば、現場には支障が起きず、交代で休みを取りやすくなる。プライベートの時間も充実させられるだろう。
また、これまで同社の人材採用は社員の親族や紹介がほとんどであった。働き手から評価を得ている表れであるが、今後はさらに「働きやすさや健康に配慮し、その取組を外部に発信することで、新たな人材も獲得していきたい」(坪井社長)とのことである。

健康経営エキスパートアドバイザーより

  • 支援においては、最初に「生活習慣病予防」という課題解決のため、「特定保健指導の活用」や「食生活改善の取組」等についての検討を行いました。そして、それらの取組の推進を支援しながら、銀の認定取得にむけた支援も実施しました。その結果、銀の認定取得をはじめ結果が確実に生まれ、健康経営の土台が確立できました。今後もこれまでの取組を継続しながら、新たな取組も行い健康経営を進めていって頂きたいと思います。
  • 正木 秀幸 氏(社会保険労務士)
(取材:2021年10月)