専門家派遣制度を利用した期間
2023年7月~2023年12月
支援専門家
認定産業医
本社: 東京都文京区小日向4-6-1 共立会館ビル4F
代表者名: 代表取締役社長 明珍 裕之 氏
設立: 1970年
従業員数: 25名
事業内容: 空気輸送装置のエンジニアリングおよび設計。粉粒体の輸送、供給、集塵等の機器の開発・設計・提供
専門家派遣制度を利用した期間
2023年7月~2023年12月
支援専門家
認定産業医
実施している健康経営の取組が正しいのか、また、効果的なのか助言が欲しい。
「混相流体技術」という特殊な技術を基盤とし、粒や粉(固相)を空気(気相)の力を利用して運んだり、別の機械へ排出したり、量の調節をしたりする機器・装置を開発・設計しているフルード工業株式会社。機器の提供はもちろん、工場等の施設に機器を導入するまでのトータルサポートを行う、メーカー兼エンジニアリング会社で、食品・医薬・機械・化学・鉱工業など幅広い分野の製造ラインの効率化と改善に貢献している。
同社は2022年、明珍裕之氏が代表取締役社長に就任したことをきっかけに、健康経営に取り組み始めた。
「代表就任を機に、従業員の労働環境を改善したいと思いました。弊社は、従業員のほとんどがデスクワークで、どうしても運動不足になりがちです。また、自分自身が50歳を過ぎ、健康に気をつけないとな……と考え始めたタイミングでもありました。健康経営については以前から知っており、他社の取組事例等で『健康経営に取り組んだ結果、会社の労働環境がすごく良くなった』という声を耳にしていたので、ぜひチャレンジしたいと思いました」(明珍氏)
取組を推進する担当者には、管理部管理課の係長・野口拓美氏と同課の平田杏実氏を選任した。2023年5月に健康経営宣言を行い、6月に従業員を対象に、同社が作成した独自アンケート「健康づくりについての意識調査」を実施。その結果を元にして、食事や運動など、従業員の健康づくりの取組を考案した。
早速、月に1回、野菜をふんだんに使った健康的なお弁当(工場勤務、リモート勤務のメンバーにはトマトジュースやスムージー等)を従業員に配布するなど、具体的な取組を開始。しかし、「社内メンバーだけでは行っている取組が正しいのか、また効果的なのか、疑問に感じることがあり、協会けんぽから送られてきた資料で知った専門家派遣制度を利用することにした」と、平田氏は振り返る。
「運動や食事など、我々の生活に日々密接に関わってくることについては取組を考えやすかったのですが、例えばメンタルヘルス不調者が出た場合に、どのように対応すればよいのかなどは、当社に不調者がいなかったこともあり全く手をつけていなかったので、この点についてもぜひ専門家のアドバイスをいただきたいと思いました」(平田氏)
専門家の星加彩氏(認定産業医)と共に改善に取り組んだ課題は、主に次の3つだ。
1つ目の課題が、運動不足。星加氏が従業員を対象に専門家派遣開始直後に行ったアンケートでは、「歩数(1日当たり)が8000歩以上の割合」「過去1年以上、週2日30分以上、運動する割合」など、運動に関する項目が参考値よりも低い結果となった。そこで、従業員に運動の機会を提供するべく、毎日15時から5分間の運動タイムを実施。最初の3〜4分は協会けんぽが提供しているDVDや厚生労働省が提供している動画を流し、オフィスにいる全員が同じ運動を行う。残りの1〜2分は、各自ストレッチや体操を行った。
加えて取り組んだのが、1カ月間の運動月間の実施だ。まずは、各自が自分にあった1カ月分の運動目標を設定。その目標を8割達成できたら会社から景品を渡す、という取組である。
「取り組むからには、従業員が皆楽しめないと意味がない、と考えていました。20代から70代までの幅広い年齢層の従業員全員で楽しむためには、一律で目標を定めるのではなく、各自が達成できると考える目標を設定し、その達成に向けて頑張ってもらうのがいいと考えました」(野口氏)
各自の目標は、一覧にしてオフィスに掲示。カレンダーをもとに作成したスタンプカードを従業員に配布し、目標を達成できた日は各自でチェックするようにした。そのカードを運動月間終了後に平田氏が回収・確認し、目標を8割以上達成した者にフルーツ等の景品を配布した。
2つ目の課題は、野菜の摂取量が少ないことだ。同じくアンケートの結果から、「野菜の摂取量(1日当たり)350g以上の割合」が参考値よりも低いことがわかった。そこで、すでに実施していたお弁当の配布に加えて、設置型社食を導入。週に1回、サラダやフルーツ、ヨーグルト、サンドイッチなどが、会社に設置された専用の冷蔵庫に届き、従業員はこれを安価に購入することができるサービスだ。まずは2カ月間のトライアルを利用した。
そして3つ目の課題が、メンタルヘルス対策が十分でないことだ。休職者などはいないものの、同じくアンケートの結果から「支援が必要な程度の心理的苦痛を感じる」と回答した従業員が若干名おり、明珍社長は「非常に心配で、何らかの対策を打たねばと考えました」という。まずは社内に相談窓口を設置し、平田氏が窓口担当を務めた。加えて、厚生労働省が提供している、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」を社内に周知し、従業員がメンタルヘルスに関する情報を得たり、専門家に相談しやすい環境を整えた。
運動については、専門家派遣終了時に行ったアンケートで「歩数(1日当たり)が8000歩以上の割合」が23%から27%と、若干ではあるが改善した。また、健康経営スタート時と同じく2023年度末に独自アンケートを実施。「日頃、運動量を増やす取組をしていますか?」という問いに対し、していると答えた割合が54%から79%に改善しており、確かな成果がでている。
「15時の運動が気分転換になり、体も心もスッキリして良いとか、運動月間のおかげで運動が習慣化したなど、従業員から好評です」(平田氏)
「野菜の摂取量(1日当たり)350g以上の割合」も、9%から18%へ改善。設置型社食は従業員から好評で、トライアル終了後、正式に導入が決定した。導入には当然コストがかかるが、こちらも独自アンケートの結果、従業員の過半数が続けてほしいという結果だったこともあり、導入を決めた。
メンタルヘルスについては、同アンケート上は改善には至らなかったが、今回の取組を通じて、メンタルヘルス不調者が出た際に適切に対応する環境を整えることができた。また、専門家派遣終了後、星加氏と産業医契約を交わした。これは、従業員の心の健康に何か問題があったとき、相談できる専門家が身近にいてほしかったこと、またストレスチェックを行うにあたり、その実施者を星加氏に務めてもらうことが大きな狙いだった。ストレスチェックは2024年5月に実施した。
「社内の相談窓口(平田氏)は設置しましたが、なにぶん人数が多くはない会社ですので、従業員同士の距離が近く、私に言いづらいケースもあると考えました。そんなときに、適度な距離があり信頼できる専門医がいると安心だと考えました」(平田氏)
健康経営への取組、専門家派遣の利用が一つのきっかけとなり、従業員の心の健康を守る体制がより整備されたのは、大きな成果の一つと言えるだろう。
もう一つ、専門家派遣終了時のアンケートで改善が見られたのが「最近2週間の幸福感が高い割合」で、46%から59%に向上。健康経営の各取組を通じて「社内のコミュニケーションが活発になった」「明るい雰囲気になった」という従業員からの声もあり、健康経営が従業員の健康だけでなく働きやすい労働環境の構築にも一役買っているといえそうだ。
今後取り組んでいきたいのは、すでに行っている運動の習慣化と睡眠だという。すでに、睡眠の質や量の改善に取り組む「睡眠月間」を実施。まずは2週間、睡眠の質や時間を記録して自身の睡眠の状況を把握してもらい、その結果を踏まえて、最終的には睡眠によい習慣を1つ取り入れてみよう、という取組だ。
この取組も、専門家派遣終了後に行った独自アンケートで、睡眠に課題を感じている従業員が多くいたことがきっかけだという。独自アンケートを適宜実施することで、従業員の健康状況や健康に対する考え、要望などをしっかりと汲み取り、取組に生かせる。その好例だといえる。
健康経営エキスパートアドバイザーより