東京商工会議所

株式会社アーチ

定期的な情報提供の積み重ねで、
従業員の健康への意識が変化
会社主催のイベントで、
運動機会を提供

  • 食生活
  • 運動
  • 睡眠
  • 労務管理

株式会社アーチ

本社: 東京都江東区木場5-8-40 東京パークサイドビル2F

代表者名: 代表取締役 角 弓弦 氏

設立: 1981年

従業員数: 95名

事業内容: コンピュータ・ソフトウェアの開発に関するシステムズ・エンジニアリングサービスの提供、コンピュータ・ソフトウェアの開発・販売および保守サービスの提供、情報処理システムに関するコンサルティングサービスの提供

専門家派遣制度を利用した期間

2023年7月~2024年3月

支援専門家

中小企業診断士・健康運動指導士

専門家派遣制度を利用したきっかけ

従業員の運動不足を改善し、より健康になってもらうために健康経営に取り組みたく、具体的な方法を専門家にアドバイスしてほしい。

コンピュータのソフトウェア開発事業で1981年に創業した株式会社アーチ。長年培ってきた業務知識や汎用性のあるスキルを元に、官公庁や外資系企業、金融業、製造業など広範にわたる業種・領域でシステムやアプリケーションの開発に携わっている。業務で取り扱う取引先企業の情報やデータ等は、セキュリティの観点から厳しく管理されるため、所属する約90名のシステムエンジニアの半数以上が、取引先企業へ出向いて業務を行うという働き方だ。
同社が健康経営を知ったのは2019年。当時の総務部長が取引先企業の事業方針説明会に参加した際、健康経営について耳にしたのがきっかけだと、代表取締役の角弓弦氏は言う。
「その頃、弊社とお付き合いのある大手企業の多くが健康経営に取り組み始めていらっしゃいました。会社側が従業員の健康を支援するという健康経営の考え方を素晴らしいと感じましたし、できるならば弊社も取引先と足並みを揃えて取り組んでいきたいと考えました。ですが、大企業ではなく中小企業の弊社にどのようなことができるのかがわからず、まずは健康経営のセミナーに参加するなどして、情報を収集し始めました」(角氏)
しかし、具体的なアクションにつながる前にコロナ禍に突入。2020年の5月頃には、ほぼ100%の従業員がテレワークで業務を行うようになったことで、従業員と顔を合わせることがなくなってしまった。
従業員がどんな状況で働いているのか、何か困りごとを抱えていないかを調べるため、2021年に業務の状況や健康状態に関するアンケートをとったところ、「通勤が楽になりました」といった回答とともに、「運動不足が気になる」という声が多くあがった。改めて健康経営に取り組みたいと考えたが、コロナ禍でどのようなことができるのだろうかと思案していたところ、取引先企業を通じて生命保険会社の健康経営認定支援サービスを紹介された。そのサービスを通じて専門家派遣制度を知り、健康経営を推進する具体的な方法を教えてもらいたいと申し込みを決めた。
総務部課長の大野純也氏、同部の林みゆき氏が健康づくり担当となり、具体的な取組を推進した。

専門家派遣による支援と取組
  • ● 食生活の重要性に関する情報を提供
  • ● 会社主催で運動イベントを開催し、運動機会を提供
  • ● 専門家による健康経営セミナーを開催

専門家の並木連太郎氏(中小企業診断士・健康運動指導士)はまず、従業員を対象に健康に関するアンケートを実施した。その結果、特筆すべき課題は「朝食の欠食率」が高いこと、そして「歩数(1日当たり)が8000歩以上の割合」が低いことだと指摘した。特に歩数に関しては、「参考値が50%ほどなのに対し弊社は10%ほどと、いかに運動機会が少ないかがわかりました」と、健康づくり担当の林氏は当時を振り返る。専門家派遣時は新型コロナが5類感染症に移行し、出勤する従業員が増え始めていたとはいえ、まだ8割がテレワークを継続していたことが大きな要因だと推測された。
まず、朝食の欠食率を改善するために取り組んだのが、食生活の重要性に関する情報の提供だ。「野菜は1日350g食べましょう」「夕飯が遅い時間になる時のポイント」「飲み物の選び方」といった内容のポスターを掲示したり、社内のコミュニケーションツール上で提供した。
「従業員に対して、急に『朝食を食べましょう』と言っても、実際に行動に移してもらうことは難しいと思いました。そこで、まずは『食べ物や飲み物に気をつけましょう』、『健康的な食事をすれば元気になれますよ』など、食生活が健康に与える影響や重要性に関する情報を提供し、食に対する意識を変えてもらうことから始めました」(大野氏)
加えて、月に1回行っていた衛生委員会で、産業医に食生活や喫煙など健康に関する講義をしてもらい、その内容をテキストにまとめて社内に展開するようにした。
運動については年に1〜2回、会社主催のフットサル大会を行うことで従業員に運動機会を提供した。
「先日行った大会では20名ほどが集まって、2時間ほど汗を流しました。フットサルができない人も応援に参加したり、ご家族も一緒に参加したりしていました」(大野氏)
もう一つ、食事や運動だけでなく健康経営全体に関する情報の提供として、2024年1月5日に、並木氏が講師を務めて従業員向けの健康経営セミナーを1時間ほど実施した。具体的には健康経営の定義と目的、食事・運動など生活習慣改善に関する取組例の紹介、自席で実施できるエクササイズの紹介など、健康に関する情報を全従業員に向けて講義した。

フットサル大会の様子
フットサル大会の様子
並木氏が講師を務めた従業員向けの健康経営セミナー
並木氏が講師を務めた従業員向けの健康経営セミナー
取組による効果、今後の展望
  • ● 食生活、運動、睡眠に関するアンケート結果が改善した。

並木氏が専門家派遣終了時に行ったアンケートでは、「朝食の欠食率」の数値は変わらなかったものの、「栄養成分表示を確認する割合」が改善した。
「若干ではありますが、従業員の食生活への意識が変わっているのかなと実感しています。私も実は、社会人になってから朝食はほぼ摂っていなかったのですが、最近では少し早めに出社してデスクで朝食を摂ったりと、食事への意識は確実に変わっています」(大野氏)
運動についても、「歩数(1日当たり)が8000歩以上の割合」の数値は変わらなかったものの「直近1週間の運動日数が週2日以上の割合」が改善。フットサル大会の開催は、運動機会の提供に加えて、社内コミュニケーションの機会の提供にもなったと角氏は言う。
「特にコロナ禍以降、社内のコミュニケーション不足は課題の一つだったのですが、フットサル大会で楽しそうにプレーしたり応援したりする従業員の姿を見て、コミュニケーションを促す意味でも効果があったかなと感じています」(角氏)
もう一つ、アンケート結果で改善されていたのが「睡眠時間が足りている割合」だ。こちらは専門家派遣制度を利用する前の2022年から取り組んでいる勤務間インターバル制度が理由では、と角氏。勤務間インターバル制度とは、就業時刻から次の始業時刻の間に一定時間以上の休息時間を確保する仕組みだ。2022年に勤怠管理のシステムを変更したのをきっかけに勤務間インターバルを把握するようになり、2023年からは具体的な数値目標を立てて取り組んだことが、睡眠時間の確保につながったのではないかと言う。
「健康経営とは別の流れで取り組んできたことですが、ちょうど専門家派遣制度を利用した時期と重なって、良い効果が出たのかもしれません」(角氏)
2024年の7月には健康優良企業「銀の認定」を取得した。また、健康経営に取り組んでいることがISO認証の審査においてグッドポイント(推奨ポイント)として評価されるという、嬉しい効果もあった。
「お取引先の企業も、経済産業省の『健康経営優良法人』認定を取得されるなど、皆様継続的に健康経営に取り組んでいらっしゃいますので、パートナー企業である弊社も同じように取り組んでいきたいと思っています」(角氏)
今後の課題について、大野氏が挙げたのは「BMI値の改善」だ。2023年の健康診断の結果を見ると、全体の3割の従業員のBMIが25を超えており、前年よりも増えてしまっているのだという。
「おそらく、コロナ禍を経てテレワークが常態化し、その間続いている運動不足が影響していると推測しています。従業員のBMI値を改善していくために、専門家派遣制度で行った従業員アンケートと同じ内容のアンケートを独自に6カ月に1回、継続して行うことで従業員の状況を把握しつつ、フットサル大会のような運動を促す、アクティブなイベントを設けていきたいと思います」(大野氏)
取引先企業に常駐する従業員が多く、なかなか一堂に会する機会がない中でも、アンケート等で積極的に従業員の状況を把握し、会社主催で運動機会を提供するなど、従業員の健康を支援する取組をしてきたアーチ。次なる課題の解決に向けて、これからも着実に取組を継続させていきたいところだ。

2024年7月に健康優良企業「銀の認定」を取得
2024年7月に健康優良企業「銀の認定」を取得

健康経営エキスパートアドバイザーより

  • 同社の健康経営の成功要因として、①社長や大野総務部課長を中心に全社的な推進体制を構築していたこと、②産業医や衛生委員会を活用し、健康診断やストレスチェック結果の共有、個別面談を丁寧に実施していたこと、③イントラネットで健康施策を積極的に発信していたことが挙げられます。特に「運動セミナー」では、社員の皆様が笑顔でエクササイズを楽しんでいる様子が印象的でした。健康経営の継続には、社員が楽しみながら参加できる施策が鍵です。今後も楽しい健康づくりの取り組みを進めていかれることを期待します。
  • 並木 連太郎氏(中小企業診断士・健康運動指導士)
(取材:2024年10月)