東京商工会議所

株式会社内外電業社

月1回の「健康づくり会議」で、
従業員の健康意識を向上
各種認定取得をステップに、従業員が健康で長く働ける環境をつくる

  • 組織・体制づくり
  • 健康診断
  • 食生活
  • 運動

株式会社内外電業社

本社: 東京都大田区大森中1-7-13

代表者名: 代表取締役 谷口 孝司 氏

設立: 1938年

従業員数: 61名

事業内容: プラント事業、電設通信事業、HA(ホームオートメーション)事業

  電気設備工事を目的として1938年に設立。石油化学プラントにおいて電気設備工事等を行うプラント事業、劇場やスタジオの照明工事等を行う電設通信事業、マンションを中心として住宅の情報管理システムであるホームオートメーション工事を行うHA事業の三つを軸に事業展開する。施工事例に平等院鳳凰堂ライトアッププロジェクト、トッパンホール、NHK NCスタジオなど。

専門家派遣制度を利用した期間

2020年10月~2021年7月

支援専門家

社会保険労務士

2021年に新社屋を竣工。プラント事業以外の従業員が働く
2021年に新社屋を竣工。プラント事業以外の従業員が働く
プラント事業の従業員は、全国に4カ所にある事業所で働く(写真は点検整備の様子)
プラント事業の従業員は、全国に4カ所にある事業所で働く(写真は点検整備の様子)
専門家派遣制度を利用したきっかけ

健康経営を進めるにあたって、自社に足りないところはどこか、そのためにどう取り組めばよいか、専門家のアドバイスが欲しい。

1938年に電気設備工事を目的として創業して以来、電気設備における施工管理のプロフェッショナルとして、実績を積み重ねてきた内外電業社。戦後の復興、電化時代、エレクトロニクス化・情報化という各時代を通じて、常に先駆として業界をリードしてきた老舗企業だ。
同社が健康経営を知ったのは保険会社とのやりとりがきっかけだったと、代表取締役の谷口孝司氏は言う。
「保険会社の方から『健康経営をご存知ですか』とお話を受け、健康経営という考え方を知りました。以前より、従業員に末長く働いてもらうためにも、真剣に従業員の健康維持・管理に力を入れたいと考えていましたが、その時のお話をきっかけによく調べてみると、健康経営は従業員の健康増進に繋がることはもちろん、企業イメージの向上により、リクルートの面でもメリットがあると分かり、これを機に健康経営に取り組むことを決断しました」(谷口氏)
健康経営の開始にあたり、取締役で総務部長の甲斐広美氏は、健康経営の代表的な認定制度である、「健康経営優良法人」認定(中小規模部門)の項目を確認してみたという。しかし、事業所ごとの健康づくり担当者の選任、ストレスチェック実施後の傾向分析、病気の治療と仕事の両立を支援するための社内制度の整備など、具体的にどう取り組めばよいか分からない点があり、社内だけで健康経営を推進することは難しいと感じた
「そこで、健康経営を進めるにあたり、取り組み方が分からない項目に対して、具体的にはどのように対処すればよいのか、専門家から的確なアドバイスをいただきたく、保険会社の方からお勧めされた専門家派遣制度に申し込みました」(甲斐氏)

代表取締役 谷口 孝司 氏(左)取締役総務部長 甲斐 広美 氏(右)
代表取締役 谷口 孝司 氏(左)
取締役総務部長 甲斐 広美 氏(右)
専門家派遣による支援と取組
  • ● 事業所ごとの健康づくり担当者の選任、月1回の「健康づくり会議」など、健康経営推進のための社内体制の構築
  • ● 健康診断、有所見者への受診勧奨の徹底
  • ● 産業医を活用した、健康診断有所見者・長時間労働者の健康フォロー体制の整備
  • ● 健康増進アプリを利用した、楽しみながら健康づくりに取り組む仕組みづくり

同社は、専門家の齋藤康子氏(社会保険労務士)による初回ヒアリングを経て、すぐに健康宣言事業に参加。経済産業省の「健康経営優良法人」認定の前に、まずは健康保険組合が認定する健康優良企業「銀の認定」を取得する、という目標を定め、取組をスタートさせた。
齋藤氏は、経営層が健康経営に対して強い意欲を持っていながらも、従業員を巻き込んで健康経営を推進していくための体制が整っていないことを同社の課題と指摘し、最初のステップとして、社内体制の構築についてアドバイスをした。
そこで同社は、まずは本社と全国に4カ所ある事業所ごとに「健康づくり担当者」を1名ずつ選任し、そのメンバ―を従業員代表として各事業所における取組の責任者とした。さらに、従業員が健康づくりを話し合える場として、毎月1回「健康づくり会議」を行うこととした。
「これまでも行っていた事業所ごとの安全衛生委員会の中に、『健康づくり会議』という項目を加えました。まずは、従業員皆でディスカッションをして、健康について考える場を設けたかったからです」(甲斐氏)
具体的には、甲斐氏が、健康について話し合うテーマを決め、それに沿った資料を作成し、各事業所の健康づくり担当者へ共有。各事業所では資料をもとにディスカッションを行ったあと、議事録を作成して本社に内容を報告するという方法を取った。
「先日の議題は『生涯現役の推進』でした。人生100年時代に向けて、若いうちからやっておいた方がいいことは何かという問いに、『運動をして体力をつけておきたい』とか、『定年後に向けて地域とのつながりを持っておきたい』など、様々な意見が出ていました」(甲斐氏)
次に、齋藤氏が改善のアドバイスをしたのが、従業員全員の健康診断の受診と、有所見者の再検査受診の徹底だ。同社の場合、本社の会議室で健康診断を受診できるという、従業員が各自で医療施設に足を運ぶ必要がない非常に受診しやすい環境にあるが、健診の受診率は8割にとどまっていた。
そこで、健康診断の実施を知らせる際に、日付や時間などの実施概要だけでなく、受診の必要性、すなわち病気の治療は早期発見が重要であること、また高血圧や脂質異常など病気の予兆は早めの対応が予防につながることをあわせて周知。なぜ健診受診が大切なのかを理解してもらうことで、受診率の向上を狙った。
また、メールでの個別連絡も徹底。さらに、有所見者に対しても、診断結果を放置すれば重大な疾病につながることを併せて伝え、従業員が再検査を受診するよう促した。
加えて、同社に産業医の選任義務はないものの、齋藤氏からの「産業医と契約をすることで、健康診断結果の有所見者や長時間労働者など、従業員が健康面の不安を医師に相談しやすい環境を整えられる」というアドバイスを踏まえて、近隣の内科医と産業医契約を締結。健康診断受診後の従業員のフォロー体制も整備した。
さらなる取組として、従業員が楽しみながら健康管理・健康づくりに取り組めるようにと、健康増進アプリを導入し、活用を促すこととした。健康診断の結果を記録・管理できるアプリで、いつでも自分の健康診断の結果を確認できるだけでなく、食事のカロリー計算、歩数測定、ストレッチ動画視聴など、各自の健康づくりに役立てることができる。また、より多くの従業員が積極的に利用することを目指して、ポイント制を採用。アプリ内に掲載された健康に関するコラムを読む、食事のカロリー計算をするなど、アプリを利用するたびにポイントが貯まる仕組みを活用し、貯まったポイントを使用できるようにした。
「一人当たり年間1万円を上限に、ポイントを使用できるようにしています。少しでもご褒美と言いますか、楽しみがあるほうが、従業員も積極的に利用してくれると考えました。中央安全委員会で年間の健康アプリ利用実績(合計獲得ポイントのランキングなど)を報告し、従業員のやる気増進を図っています」(谷口氏)
その他にも、従業員に健康に興味を持ってもらうため、取り組みやすい健康づくりの情報や、お弁当のメニューのカロリー・塩分表示など、情報提供の充実を図った。

健康づくり会議の議事録
健康づくり会議の議事録
導入した健康増進アプリ
導入した健康増進アプリ
本社の階段踊り場の壁には、健康に関連する情報が所狭しと掲示されている
本社の階段踊り場の壁には、健康に関連する情報が所狭しと掲示されている
取組による効果、今後の展望
  • ● 受診勧奨の徹底により健康診断の受診率が向上した。
  • ● 従業員の健康に対する意識が高まり、行動にも現れてきた。
  • ● 健康優良企業「銀の認定」「健康経営優良法人」認定を取得することができた。

健康づくり担当者の選任、また月に1回の健康づくり会議を実施することによって、従業員が定期的に健康について考える機会をつくることができた。最近では、各事業所の議事録を全従業員で共有することで、年齢や性別、働く環境が異なる従業員の多種多様な意見に触れ、「同じテーマでも人によって考え方がこんなに違うのか」と、健康に対する新しい発見とより深い学びを得られるようになったという。さらに、健康づくり担当者に、会議テーマのアイディアを出し合ってもらうなど、健康づくり会議は、従業員主体の取組として、社内に浸透してきている。
健康診断や再検査の受診勧奨を徹底した結果、健康診断の受診率は98パーセントに向上。また、産業医との個人面談も、今後活用されることを期待している。さらに、健康増進アプリも好評で、「楽しみながら健康づくりができている」という声が従業員から聞かれている。
これら一連の取組によって、従業員の意識や行動に変化が起きている、と甲斐氏は言う。
「社内でアンケートをとったところ、『健康に対して意識が高まっている』『階段の使用が増えた』『周りでも禁煙する従業員が増えてきた』など、嬉しい変化が聞こえてきました。また、食堂に設置された自動販売機では、特定保健用食品(トクホ)のお茶がよく売り切れるなど、従業員の健康への意識の高まりが、行動に現れ始めているのかなと感じています」(甲斐氏)
今後は、従業員や健康づくり担当者に対して外部の研修を行うなどしながら、従業員一人ひとりの健康意識を向上させていきたい、と甲斐氏。
「今回の取組を通じて、健康経営を実施していく上で必要な体制を一通り整えることができました。今後は各事業所の健康づくり担当者、そして従業員一人ひとりが自主的に健康を気遣った行動をしていってくれたらと期待しています」(甲斐氏)
同社は、専門家派遣終了後も取組を継続し、当初に定めた目標どおり、2021年11月には「銀の認定」を、さらに2022年3月には「健康経営優良法人」認定を取得した。今後は健康優良企業「金の認定」、健康優良法人「ブライト500」、また同社が本社を構える大田区が認定する「おおた健康経営事業所・ゴールド」など、各種認定取得を目指す。
「認定を取得することが健康経営の目的ではありませんが、認定の取得を目指していけば、当社が健康経営を行う上で足りないものが補われ、改善すべき点が改善されていきます」(谷口氏)
取得した認定証はHPに記載するなど、外部へのアピールも行っている。リクルートに関しても、徐々に効果が発揮されることを期待している。同社は、各種認定取得を健康経営実施のステップにしながら、より従業員が健康で長く働き続けられる環境づくりを継続していくつもりだ。

健康経営エキスパートアドバイザーより

  • 同社を訪問して最初に感じたことは、情報を社内に伝達できる体制が充実していることと、健康経営に対する十分な意欲と、意識の高さでした。
    取組を始めてからも、健康増進アプリを取り入れたり、厚生労働省のポータルサイト「こころの耳」を活用したり、取組ツールに対しても非常に積極的でした。
    一方で、従業員の皆様にアプリをインストールさせたものの、どのように活用させて良いか迷われていたり、健康診断を受診した後のフォローがなされていないなどの課題もありました。
    同社は、方向性さえ設定されれば取組が加速すると感じ、健康増進アプリの食事カロリーチェックは、生活習慣病予防のために役立てるなど、動機づけの提案をしたり、有所見者への再受診の勧奨、再検査の受診率の把握などについて、アドバイスをさせていただきました。
    また、そういった取組が、やがて従業員の心身の健康につながり、さらに生き生きとした職場づくりに繋がることなど、良い循環を生み出すことを説明させていただきました。
    すると同社は、次々に課題を解決していき、その結果予想以上に取組が加速して、「銀の認定」を高得点で取得し、その勢いで「健康経営優良法人」を取得されました。
    順調に取組が進んだ成功のポイントは、同社が、従業員一人ひとりの健康を真剣に考えながら取り組んだ結果だと思います。
    同社を訪問すると、皆様が良い笑顔だったり、親切にしてくださり度々感動するのですが、目に見えない空気の高まりを感じるのは、健康経営という全社共通の目標があるからこそかもしれません。
    これからも従業員の皆様と会社が一丸となって、健康経営を継続していかれることを期待しております。
  • 齋藤 康子 氏(社会保険労務士)
(取材:2022年11月)