東京商工会議所

株式会社ムサシ・エービーシー

代表取締役メッセージで、健康経営の推進がスムーズに
従業員の理解を得て、健康診断の受診率が向上

  • 組織・体制づくり
  • 健康診断
  • 運動
  • 喫煙

株式会社ムサシ・エービーシー

本社: 東京都中央区新富1-9-1

代表者名: 代表取締役 齋藤 道正 氏

設立: 1970年

従業員数: 650名

事業内容: データ入力業務代行・スキャニング(情報の電子化)

  データ入力やスキャニング、マイクロフィルム撮影、データの集計・編集・加工・システム開発など、官公庁や金融機関との取引を主軸に情報処理ビジネス業を行う。

専門家派遣制度を利用した期間

2021年3月~2022年3月

支援専門家

社会保険労務士

茨城県・宮城県にある2カ所の事業所で、月間100万件以上のデータ入力業務を行っている。国内トップクラスの設備をもち、入力の正確性が強みの一つ(写真:つくば入力センター)
茨城県・宮城県にある2カ所の事業所で、月間100万件以上のデータ入力業務を行っている。国内トップクラスの設備をもち、入力の正確性が強みの一つ(写真:つくば入力センター)
専門家派遣制度を利用したきっかけ

従業員の健康課題を踏まえ、中高年の従業員にも長く元気に働いてもらうための具体的な取組方法を専門家に教えてもらいたい。

東京に本社を置き、茨城県つくば市、宮城県仙台市に2つの入力センター(事業所)を構えるムサシ・エービーシー。600名以上の入力オペレーターを擁し、紙の文字情報をデータ化するといった情報処理ビジネス業を営んでいる。
同社が健康経営に取り組み始めた背景には、「従業員に長く健康で働き続けてほしい」という経営者の想いがあったと、健康経営推進を担当した川嵜一美氏は言う。
「当社で働く約600名以上の入力オペレーターはほとんどがパートタイマーで、主婦、子育て世代の女性が大半を占めており、特に40代・50代と中高年が多い状態です。従業員の健康意識を高め、健康で長く元気に働いてもらうためにも健康経営に取り組もうと、代表取締役の齋藤道正の判断でスタートしました」(川嵜氏)
関連会社が健康優良企業「銀の認定」を取得していたこともあり、同社も健康経営の一つの指標として、「銀の認定」取得を目標に、健康企業宣言を行った。また、具体的な取組に際して、協会けんぽから通知される企業全体の健康診断結果を確認。すると「それまでは全く気にしていなかったのですが、高血圧・高血糖に該当する従業員が多いことに気がつきました」と川嵜氏。
認定取得という目標が定まり、また従業員の健康課題も認識できたが、具体的にはどのように取組を行っていけばよいか分からず、健康経営の専門家から無料でアドバイスを受けられる専門家派遣事業に申し込んだ。

管理本部課長代理 川嵜 一美 氏
管理本部課長代理 川嵜 一美 氏
専門家派遣による支援と取組
  • ● 健康経営推進についての代表取締役メッセージの発信
  • ● 健康診断の提携先医療機関の増設と従業員への周知、健診結果の把握と再検査の受診勧奨の徹底
  • ● 地域のイベントや既存アプリを利用したウォーキング促進の周知

専門家の正木秀幸氏(社会保険労務士)は、「健康経営を始めるにあたっては、まず経営者が従業員に向けて、健康経営の推進を宣言して、全社的に健康経営の考え方を知ってもらうことが重要だ」とアドバイスした。
それを受けて、代表取締役の齋藤氏は、4月の新年度挨拶にて、今後、会社全体で健康経営に取り組んでいくというメッセージを全従業員へ発信した。このメッセージのおかげで、その後の健康経営を非常にスムーズに進めることができたと川嵜氏は振り返る。
「新しい取組を始めると、その都度、従業員から懐疑的な意見や批判的な意見が寄せられることもありました。その際には、『皆さんに健康に働いていただくためには、従業員の健康管理や健康増進も会社の役割であると思っているんです、代表取締役からのメッセージにあった、健康経営とはこのことですよ』、と説明することで、従業員にとっても健康経営のイメージがつかみやすくなったのか、受け入れてもらえるようになりました」(川嵜氏)
その一例が、健康診断の受診促進、健診結果の把握と再検査の受診勧奨における従業員とのやりとりだ。
同社は、健康診断の受診の手間や面倒さを軽減するため、健診を受診できる提携先医療機関を増やし、それを対象者全員に周知する取組を始めた。さらに、担当者が従業員の健診結果を確認し、再検査の項目がある従業員に対して、担当者から定期的に個別の声かけを行うことで、再検査受診の徹底を行った。すると、「『今まで会社から健康診断に関する働きかけはなかったのに、今年はどうして』『なぜ健診の結果を会社が知っているのか』などと問い合わせを受けることもありました。しかし、『会社には皆さんの健康状態を把握して、健康に就業可能かどうかを判断しながら業務環境を管理する責任があるんです』、と説明することで理解を得ることができました。」(川嵜氏)
また、専門家派遣のメリットは「様々な取組事例を教えてもらえること」だと川嵜氏は言う。「健康経営」というと、どこか大掛かりで、人員やお金といったコストをかけなければ進められないというイメージを抱く人もいるだろう。しかし実際は高いコストをかけずに進められる取組も多くあり、専門家が提案する事例はその宝庫だ。
「健康経営の担当になったものの、私自身、健康経営に関する知識がなく、どのように進めればいいのか不安がありました。ですが、経験豊富な正木先生に『こんな時には、例えばこんなやり方があるよ』と選択肢を提示していただいた中から、これなら当社でもできそう、というものを選んで、前向きに取り組むことができました。具体的には、安全衛生委員会で産業医から得られた健康情報を社内のチャットツールで共有したり、地域で行われるウォーキングイベントの情報をシェアしたり、飲料品メーカーが一般に無料で提供しているウォーキングアプリを活用して、楽しみながらウォーキングを習慣化することを促したりと、特別大きな投資をしなくてもできる取組が多くありました」(川嵜氏)
同社では、他にも、従業員が自由に使用できる血圧計の設置や、喫煙者に対する禁煙のメリットを押し出した情報提供の工夫など、専門家からのアドバイスをもとに、できることから様々な取組を行った。

血圧計を設置し、従業員がいつでも使えるようにした(仙台入力センター)
血圧計を設置し、従業員がいつでも使えるようにした(仙台入力センター)
取組による効果、今後の展望
  • ● 代表取締役メッセージにより、従業員に健康経営の考え方が浸透した。
  • ● 提携先健診機関を増やしたことや受診勧奨により、健康診断受診率、再検査受診率が向上した。

従業員が健康診断を受診しやすい環境を整えたことで、それまで7割ほどだった健康診断の受診率が98%まで向上。また、再検査の受診勧奨と結果報告も、会社が健康経営を進める理由を説明しながら積極的に行ったことで、ほとんどの対象者が、再検査を受診し、その結果を提出してくれるようになり、従業員の健康状態を確実に把握することができるようになった。これらがスムーズに進んだのも、最初に代表取締役からメッセージを発信して、従業員に健康経営の考え方が浸透したことの効果が大きかっただろう。
現在は、健康診断のオプションとしてがん検診等の情報提供を積極的に行うなど、従業員が健康診断やがん検診を受けやすい環境の整備に努めている。
「今は口頭でオプション内容を周知するにとどまっていますが、次回以降は一覧表にして配布するなど、対象者全員に情報が行き渡るような仕組みをつくっていきたいです。また、今後はいくつかのオプションについて、受診費用を会社で負担することを検討しており、より多くの従業員に受診してもらえるようになればと考えています」(川嵜氏)
その他にも、専門家のアドバイスを参考に、健康経営の取組を広げている。2022年から一部の従業員向けに試験的に設置しているLINEの相談窓口がその一例だ。健康問題はもちろん、業務にまつわるさまざまな質問を受け付けて、従業員をサポートしている。
「現在使用している社内チャットツールは、社員のみが使用できるもので、パートタイマー従業員への情報伝達は、社員からの声かけやポスター等の掲示物に頼っているのが現状です。それではきちんと情報が届いているか把握しづらいため、昨年導入したクラウドサービスを活用して、パートタイマー従業員一人ひとりに情報発信をできるようなインフラの構築を目指しています」(川嵜氏)
健康経営がきっかけとなって、正規・非正規にかかわらず、全ての従業員と会社とが双方向でコミュニケーションがとれる、風通しのよい社内環境の整備が進んでいると言えだろう。
さらに、まだ構想段階ではあるが、従業員に対する運動不足の解消や食生活に関するサポートも行っていきたいと、川嵜氏は言う。
「従業員は座りっぱなしで作業をするケースがほとんどなので、例えば仕事の合間に体操やストレッチを実施するようにすると、肩こりや腰痛といった体調不良や、運動不足改善に繋がるかなと思います。また、入力センターには補食といって、休憩時間に食べられる軽食を置いているのですが、そのほとんどがお菓子のようなスナック類です。そこをもう少し、健康的な間食に適した食べ物に代えていけるといいなと考えています」(川嵜氏)
このような様々な取組を進めた結果、2023年2月に「銀の認定」を取得。また、長期的には、一連の取組の積み重ねと、毎年の健康診断受診の徹底が、当初の課題であった高血圧・高血糖に該当する従業員を減らすことにも繋がっていくことが期待できる。
まずはできることから取組を実施し、その結果見えてきた次の課題に対して、少しずつ改善を重ねる。従業員に長く元気に働いてもらうため、同社は今後も健康経営の取組を進めていく。

健康経営エキスパートアドバイザーより

  • 初回支援で訪問させて頂いた段階では、健康企業宣言はしたが、具体的に健康経営にどう取り組んでいけば良いかの分からずに悩んでいらっしゃるという状況でした。
    そこで、まず「健康企業宣言をしたこと」「会社としてこれから健康経営に取り組んでいく」ということを社内外に情報発信していくことから始めていくことを助言しました。そして、健康経営を進めていく上で重要なことの一つとして、健康経営に経営者が積極的に関与していくことがあることを伝え、できれば「健康経営に取り組む」という情報発信を社長様からして頂くのが良いことを助言しました。
    また、本社の他に、茨城県つくば市と宮城県仙台市に事業所があることをふまえ、「健康経営の取り組みは、全社的に進めていく必要がある」ということをお伝えし、全社的な健康づくり体制の構築と健康に関する定期的な話し合いを行い、健康課題に応じた取組を策定し実施していくことを提案いたしました。そして、協会けんぽや東京都の「とうきょう健康ステーション」の活用はもちろん、事業所のある自治体(茨城県や宮城県)でも健康経営を推進していることを伝え、そちらからも健康に関する情報を収集し活用していくことで、事業所に合わせた情報提供ができるのではないかと助言しました。
    途中取組が進まずにいろいろと苦労することもありましたが、健康課題を的確に洗い出し、その改善に向けた取り組みをあきらめずに進めていかれた結果、着実に健康経営の認知が拡がっていき、ポジティブな効果が出てきたと思います。
    どうしても健康経営を進めていくには特別なことをしなければならないという気になってしまいがちですが、同社のご支援を通じて、私自身も改めて、難しく考えすぎず、自社の現状をふまえた取組を推進していくことが何よりも大切なのだということを再確認させて頂きました。ありがとうございました。
    ぜひ、これからも着実に取組を通じて健康経営を推進して頂き、社員のヘルスリテラシーを高め健康に働き続けることのできる職場環境をつくっていって頂ければと思います。
  • 正木 秀幸 氏(社会保険労務士)
(取材:2022年12月)