東京商工会議所

真韻株式会社

従業員2名ながらも「金の認定」を取得
健康経営の継続で、会社の“輪”を広げ続ける

  • 組織・体制づくり
  • こころの健康
  • 労務管理

真韻株式会社

本社: 東京都板橋区舟渡3-5-8 板橋区立ものづくり研究開発連携センタービル505

代表者名: 代表取締役 亀山 文一郎 氏

設立: 2005年

従業員数: 2名

事業内容: 業務用機器のライフサイクルコストマネジメントサービスの提供

 ※ライフサイクルコストマネジメントという考え方のもと、業務用販売機器に使用されている機能部品のリサイクル及びリユースを手掛ける。故障や寿命を迎えた部品を修理再生、もしくは新規部品開発を行うことで、機器が再び市場で使用できるようにするサービスを提供している。

専門家派遣制度を利用した期間

2021年7月~2021年10月

支援専門家

・中小企業診断士
・社会保険労務士

専門家派遣制度を利用したきっかけ

従業員の健康や働きやすさを大切にする経営の一環として、健康経営の取組を進めるにあたり、健康優良企業「金の認定」取得を含め専門家の意見を聞きたい。

主に自動販売機などの業務用販売機器に使用されている部品のリサイクル及びリユースを手掛ける真韻(まいん)株式会社。従業員2名という少人数の会社ながらも、「福利厚生はもちろん、働きやすい規則や仕組みは大企業にも劣らないよう、できる限りの整備をしてきました」と、代表取締役の亀山文一郎氏。従業員の健康や働きやすさを大切にする経営を実践する中で、健康経営という言葉に出会い、健康経営の「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する」という考え方が同社の理念に合致すると感じて、認定取得を目指すこととなった。
「“認定”という第三者からの客観的な評価を得ることで、常日頃から行ってきた当社の取組を、さらに向上させることができるのではと考えました」(亀山氏)
従前から健康経営の概念に沿った取組を行っていた同社が、健康優良企業「銀の認定」を取得した後、次の目標に見据えたのは、健康優良企業「金の認定」の取得である。しかし、「金の認定」は従業員だけでなく従業員の家族の健康促進や、安全衛生面の改善、過重労働対策についての取組など、「銀の認定」よりも一歩進んだ取組が必要になってくる。加えて、そもそも規模の大きな企業が取得することを前提に考えられた認定であり、従業員2名という小規模事業者が「金の認定」を取得した例はこれまでにない。
「従業員2名の企業では取得の例がない『金の認定』に向けて、どのようなアプローチができるかという点について、複数の人のご意見や知見をいただきたいと思っていました。その一つとして、健康経営の専門家のお話を伺いたいと思ったのが、専門家派遣を申し込んだ理由です」(亀山氏)
あえて「金の認定」取得という高い目標を掲げ、健康づくり担当者に海老根祐子氏を任命した背景には、認定取得に至るまでの道のりを「従業員教育に活かしたい」という考えもあった。
「認定の取得というのは、従業員が『仕事を進めるプロセス』を学ぶよい機会だと考えました。我々が行う開発の仕事は、然るべきプロセスを経て、課題があればそれを解決し、時には社外の関係者を巻き込んだり、既存のルールを変えるなどしながら、サービスを世に出してくという仕事です。認定の取得も、根本的な考え方は同じだと思います。しかも取得できれば賞状までいただけますから、それは取り組む従業員のモチベーションにもなると考えました」(亀山氏)

代表取締役 亀山 文一郎 氏(左)海老根 祐子 氏(中央) 顧問税理士 藤井 克則 氏(右)
代表取締役 亀山 文一郎 氏(左)
海老根 祐子 氏(中央)
顧問税理士 藤井 克則 氏(右)
広がる“輪”をイメージした同社のロゴ
広がる“輪”をイメージした同社のロゴ
専門家派遣による支援と取組
  • ● 「ストレスチェックに準ずる形でのセルフチェック」の実施
  • ● 就業規則の見直しと勤怠管理システムの導入

専門家の正木秀幸氏(社会保険労務士)は、衛生委員会を毎月開催している、地域産業保健センターから年2回産業医の支援を受けられるようにしている、自転車通勤の実施やスポーツインストラクターの派遣など従業員の運動機会を創出している、など、同社が健康経営に関する様々な取組を行っていることを改めて確認した。また、就業規則において、法的義務の社内規程の整備をしっかりと行っている点も、高く評価した。
その上で、正木氏は、「金の認定」取得に向けての課題を、「ストレスチェック実施の制度化」と、「勤務時間の正確な管理」の2つに定めた。
まず、ストレスチェック実施の制度化に関して、法的な側面を含め、押さえておくべきポイントの説明があった。「金の認定」では、ストレスチェックが法的義務ではない50人未満の事業所であっても、法令に基づくストレスチェックと同程度の実施が必要となる。それを行うためには、ストレスチェック実施者として産業医や保健師と契約を結ぶ、外部の業者と契約をする、といった方法が考えられたが、どちらもコスト面から難しい状態だった。そこで、厚生労働省のメンタルヘルス・サポートサイト「こころの耳」の検査を利用したセルフチェックを行うことで、この項目のクリアを目指すこととした。
「従業員が『こころの耳』でセルフチェックを行い、その結果、高ストレスと判断された場合は、地域産業保健センターの産業医の面談が受けられるようにしました。10人未満の企業がストレスチェックを実施する場合、産業医や保健師がいない企業がほとんどであること、また集団分析ができない(10人未満の単位では行えない)ことなどを踏まえると、このような対応が現実的なのでは、という見解になりました」(亀山氏)
もう一つの課題であった勤務時間の正確な管理のためには、就業規則の見直しと勤怠管理システムの導入を行うことにした。これが、健康づくり担当者の海老根氏が一番苦労した取組だったという。就業規則の見直しについては顧問税理士の藤井克則氏と連携して進めたが、大変だったのは勤怠管理システムの導入だ。「元々デジタルに強いわけではなかったので、正直、難しかったですし時間がかかってしまいました」と海老根氏は振り返る。いつまでに何をやるか、項目を挙げスケジュールを立て、一つひとつクリアすることで取組を前進させた。疑問や課題にぶつかるたび、調査し解決方法を探ることを繰り返した。最終的に、クラウド型の勤怠管理システムを導入し、それまで手書きであった勤怠管理をデジタル化。1分単位で勤怠管理が行える体制を整えた。

亀山氏が通勤で使用している自転車
亀山氏が通勤で使用している自転車
取組による効果、今後の展望
  • ● 健康優良企業「金の認定」を取得することができた。
  • ● 健康づくり担当者としての経験が従業員の学びとなった。

亀山氏のリーダーシップ、藤井氏のサポート、そして海老根氏の頑張りもあって、2022年3月に、「金の認定」を取得した。「金の認定」取得に至るまでを「大変でした」と振り返る海老根氏だが、同時に「自分の頑張りが認定の取得に繋がってよかったです」と、確かな充実感も覚えているようだ。亀山氏の狙い通り、この経験が今後の糧となっていくことが期待される。
従業員2名の企業による「金の認定」取得という、前例のない結果を残した同社ではあるが、「認定の取得は、あくまで頑張ってきたご褒美です」と亀山氏。同社が行っている健康経営の一番の効果は、新しい出会いや体験、学びが生み出されていることだ。
例えば健康づくりに繋がる運動機会の提供として行ったカヌー体験、そこから派生した船舶免許の取得、さらに、東京都のスポーツ推進の取組「Enjoy Sportsカタログ」のオリンピアン派遣を活用して開催した元バドミントン日本代表選手の小椋久美子氏による講演会、福利厚生の一環としての社員旅行などの取組は、新たな人々との出会いになるとともに、従業員の新しい体験、学びに繋がっており、さらにそれが、まるで大きな“輪”のように広がっているのだ。
「これらは全て、直接的に会社の利益やビジネス機会の創出に繋がっているわけではありません。ですが、この新しい出会いや体験、学びが互いに繋がって大きく広がっていき、また新しい出会いや体験、学びを生み出しています。この連鎖によって輪が広がっていくこと、輪を広げていくことこそが、当社が考える健康経営です。健康経営を行ったその先に、こんなに有機的な輪の広がりがあるとは、当初、私たちも想像していませんでした」(亀山氏)
輪の広がりがもたらす影響もまた、従業員が健康で働きやすい環境につながり、ひいては同社の開発のきっかけやアイデアにもつながるのかもしれない。「健康経営」を自社なりに解釈し、自社なりに行う意義を見出すことで、継続・定着させている好例と言えるのではないだろうか。

健康優良企業「金の認定」認定証(左)と、自転車通勤推進企業宣言プロジェクトの認定証
健康優良企業「金の認定」認定証(左)と、自転車通勤推進企業宣言プロジェクトの認定証
長野県立科町にある女神湖にてカヌーを体験
長野県立科町にある女神湖にてカヌーを体験
社員旅行の際に神戸から淡路島を眺めた一枚
社員旅行の際に神戸から淡路島を眺めた一枚

健康経営エキスパートアドバイザーより

  • 同社は、既に「銀の認定」を取得されていることもあり、初回に訪問しヒアリングをさせて頂いた時点で、とても高いレベルで健康経営に取り組まれていることが分かりました。「金の認定」申請に向けて課題となっていた「メンタルヘルス対策」を中心に支援をしていくこととしました。中でも一番の課題となったのが、ストレスチェックの実施についてでした。
    ストレスチェックの実施は、法的義務のない規模の事業者であっても、検査の実施者は医師等が務める必要があり、検査結果は本人の同意なしに会社が把握することができない等といった法的な定めを遵守する必要があります。そのため社員が2名である同社においては、その実施はとてもハードルの高いものでした。
    そこで、ストレスチェックの目的である、社員自らがこころの健康状態を把握できるようするということに主眼を置いて実施方法を検討しました。具体的には、会社が社員に厚生労働省が提供する「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト『こころの耳』」を紹介し、そのサイトにあるストレスのセルフチェックの活用を促し、セルフチェックの結果高ストレスの判定が出て当該社員が医師の面談を受けたいと希望する場合は、会社に申し出ることで会社が医師の面談を提供するという形での取組を検討し提案しました。
    そうした甲斐があってか、結果的に「金の認定」取得ができ、私も大変嬉しく思います。
    今回、前例のない社員が2名という少人数で「金の認定」取得にチャレンジする取組の支援ができて、私も試行錯誤しながらでしたが大変良い経験をさせて頂きました。
    同社は、亀山社長の「人を大切にする」という強い思いを様々な形で具現化し健康経営を実現されています。私も今回同社の支援を通じ、改めて健康経営の素晴らしさを再認識するとともに大きな刺激を頂きました。ありがとうございました。ぜひこれからも様々なアイデアを出しながら、継続して健康経営を推進していって頂ければと思います。
  • 正木 秀幸 氏(社会保険労務士)
(取材:2021年10月)