政策提言・要望

政策提言・要望

次代を担う子どもたちの健やかな成長を支援するための地域企業の協力について~教育現場の荒廃や多発する少年事件を憂えて~

平成11年11月15日
東京商工会議所

はじめに

Ⅰ.教育機関・保育機関と地域の企業の協力・連携の推進にあたって
1.家庭の役割
2.教育機関・保育機関の役割
3.地域の役割
4.行政の役割

Ⅱ.地域企業にできること
1.従業員の子育てを支援する
2.社会的責任を自覚した企業経営、仕事の大切さを伝えることのできる企業人を目指す
3.企業の採用方針や人事考課制度の多様化・柔軟化を推進する
4.地域の子どもたちの育成支援に参画する

Ⅲ.東京商工会議所の取り組み
1.教育機関・保育機関と地域ならびに地域企業の協力・連携に向けた具体的な推進方法の研究と提案
2.子育て支援や社会貢献を当然とする新たな企業評価基準の推進
3.「東京子どもの成長支援ネットワーク23(仮称)」構築の提案

《参考》国(文部省等)および地方自治体等における取り組み例

【本提言の内容に関するお問合せ先】
東京商工会議所 企画調査部
E-mail:kikaku@tokyo-cci.or.jp

はじめに

 私たち企業人は、これからの子どもたちには、わが国の経済社会の発展を担うと同時に、個人としても豊かな社会生活を営むことのできる能力を備えて貰いたいと望んでおり、そのため、幼少年期の成長過程を通じて豊かでバランスのとれた人間形成と職業観の醸成を図ることが重要であると考えております。
しかし現在、学校現場における陰湿ないじめや刺傷・薬物使用事件の多発、「学級崩壊」現象の拡大などが頻繁に報道されており、基本的な躾や基礎的知識の習得、将来に向けての自立心の育成などができていない状況が見受けられます。このようなことから、子どもたちが根本的なところで変わってしまったのではないか、家庭や学校での躾や教育はどうなっているのか、わが国の先行きは大丈夫なのか、と危惧する見方が強まっております。

従来、子どもたちは、その成長していく過程において、家族や学校、地域社会における様々な人々と触れ合い、葛藤・協調や多様な社会経験・自然体験を重ねていくことにより、社会人として、また企業人として求められる豊かな感性や独創性、自ら学び・考え・行動できる自立心やチャレンジ精神・たくましさ、リスクへの対応力、困難に立ち向かう意思や忍耐力、喜びを持って働くことの大切さ、生きていく上での知恵、地域の文化伝統といったことを学んできました。また、社会の弱者やマイノリティーへの思いやりや奉仕の精神、責任・義務と権利の認識、善悪の判断力、公私のけじめといった倫理観など、多くのことを身に付けてきました。しかし現在、特に東京のような都市化が進んだ社会では、地域への帰属意識が希薄になり、少子化・核家族化が進み、子どもたちにとっての「社会」が非常に限定され、生きていく上で必要なことを学ぶ機会が失われてきたように感じられます。
このような状況に対して、私たち企業人としては、「何とかしなければ」と思いつつも、自ら地域の子どもたちの教育に積極的に関わることは、これまで少なかったと言えます。
一方、少子化の進行による学校等の統廃合が進むとともに、希望する者は全員大学に入れるような時代を迎え、進学・入試のあり方が変化しつつあります。また、学校週5日制が完全実施されるなど、21世紀初頭の子どもたちの教育環境は大きく変わっていくことが予想されます。文部省も、これからの子どもたちに生きる力を付けるためとして、現在様々な教育改革を打ち出し、その実施にあたっては、家庭や学校だけでなく地域の教育力に期待し、企業にも協力を求めてきております。

そこで、東京商工会議所では本提言を取りまとめ、東京商工会議所の活動地域である東京23区内の会員事業所を中心とする企業および企業人に対し、地域内の公立・私立の中学校・小学校・幼稚園・保育所の教育機関・保育機関や地域社会の関係者と連携して、地域が一体となって子どもたちの成長を見守り、積極的に支援していくことを、具体的な方法を示しながら呼びかけることにいたしました。
同時に、ともすれば閉鎖的となりがちな教育機関・保育機関に対しても、自らを地域に開き、企業を含めた地域社会との連携を推進して、子どもたちの教育・育児支援にあたることを提案することにいたしました。
教育の役割は、知・徳・体・情操のバランスがとれ、国際感覚を持った立派な日本人を育成することにありますが、まずは、各地域においてごく身近なところから取り組み始めることが重要です。また、次代を担う子どもたちの健全な成長に企業としても適切な関わりを持っていくことは、将来的には企業自身にとっても大いに役立つところとなると思います。厳しい経済環境ではありますが、それぞれに出来る範囲で取り組んでいただきたく、本提言がその契機となれば幸いです。

なお、本提言をまとめるにあたり、貴重なご意見をご披露いただきました講師の方々、調査や視察にご協力を賜りました皆様に対し、ここに厚く御礼申しあげますとともに、本提言をご覧いただきます皆様には、忌憚のないご意見をお寄せくださいますようお願い申しあげます。
また、東京商工会議所教育問題委員会では、わが国が高度な技術立国として存在し続けられるよう、今回取り上げなかった高校以上の教育支援や技術者の養成に関する教育問題について、引き続き検討してまいる所存でございますので、今後ともご協力を賜りますようお願い申しあげます。