政策提言・要望

政策提言・要望

企業行動規範について

2002年12月12日
東京商工会議所

 

提言要望

平成19年4月12日、「企業行動規範」を改定しました。
(当ページ記載内容は、平成14年12月作成のものです。)

はじめに
 東京商工会議所の創立者である渋沢栄一翁は、80年前、経営哲学として、「道徳経済合一説」(仁義道徳と生産殖利とは元来ともに進むべきもの)を提唱されたが、この精神は、今日の東京商工会議所会員の企業行動原理として、すべからく受け継がれるべきものである。
 そもそも、自由・活発な市場経済は、法令や商業道徳の遵守を前提として成り立ち、機能するものであり、渋沢翁の経営哲学は企業行動の基本理念として共通・不変の規範であるといえる。
 近時、わが国経済社会の成熟化につれて、求められる道徳の基準や法令の内容が変化するとともに、消費者の意識やニーズも大きく変化し、商品やサービスの「安全度・安心度」が重視される傾向が強まるとともに、これらを提供する企業を見る目も格段に厳しくなっている。
 一方、経済のグローバル化の進展や中国等の追い上げ、さらには、わが国のデフレの進行という状況にあって、企業は国内外で厳しい競争に晒され、ともすれば目先の利益の追求に走りがちになるが、経済性・効率性と併せて、顧客や取引先はじめ社会からの信頼・信用が得られなければ、企業の持続的な発展は望めない。従って、企業はその行動の適法性、公正な競争および情報開示等を通じて、これを獲得するための努力を積み重ねていくことが不可欠である。
 ところが、昨今、虚偽表示・不正入札等の不祥事が相次いで発生しており、これらの違法行為、反社会的行為によって、企業は一夜にして社会からの信頼と信用を失って、その存立すら危うくされるケースも生じている。とりわけ、中小企業においてこのような事態が発生した場合は、企業経営に及ぼす影響は一層大きくなる可能性が高いものと考えられる。
 以上のような状況に鑑みて、多くの中小企業を会員に持つ東京商工会議所が、改めて「原点」に立ち戻り、全会員に企業行動のあり方を問うとともに、道しるべともいうべき企業行動規範を提示することにした。
 このたび企業行動規範特別委員会において策定した規範(案)をもとに、会員企業がその実情に応じてコンプライアンス・プログラムを作成し、実践することを願うものである。

Ⅰ.企業行動規範(案) 

1.法令の遵守
法令を遵守し、立法の趣旨に沿って公明正大な企業活動を遂行する。

2.顧客(消費者)の信頼獲得
市場における自由な競争のもとに、顧客のニーズにかなう商品・サービスを提供するとともに、正しい商品情報を的確に提供し、顧客の信頼を獲得する。

3.取引先との信頼関係
公明正大な取引関係の上に取引先との信頼関係を築き、相互の発展を図る。

4.株主・債権者の理解と支持
公正かつ透明な企業経営により、株主・債権者の理解と支持を得る。

5.社員・従業員の連帯と自己発現への環境づくり
社員・従業員が企業の一員として連帯感を持ち、自己の能力・活力を発揮できるような環境づくりを行う。

6.社会とのコミュニケーション
広く社会とのコミュニケーションを図るため、社会の要求に耳を傾けるとともに、必要な企業情報を積極的に開示する。

7.個人情報等の適正な管理
個人等の情報、自社の秘密情報を適正に管理する。

8.政治・行政との関係
政治・行政と健全かつ透明な関係を維持する。

9.反社会的勢力および団体への対処
社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力および団体とは関係を持たない。

10.地域社会との共生
地域の発展と快適で安全な生活に資する活動に協力するなど、地域社会との共生を目指す。

Ⅱ.企業行動規範の実践
  
企業行動規範を確実に実践し、成果を挙げるためには、特に以下のような点に十分留意することが肝要である。
① 経営者の倫理観の重要性
 会社規模の大小を問わず、企業行動は経営者の考え方に大きく左右されることから、公正な企業行動は経営者自身の倫理観の高さ、深さに根ざすといえる。企業行動規範の実践は経営者の率先垂範なくしてはあり得ない。
② 不祥事の発生を予防する社内組織の整備
 不祥事の発生が企業の存続に壊滅的な打撃を与えるケースも多くなってきている。従って、不祥事の発生を未然に防ぐことが何よりも重要であり、そのために必要な社内組織を整備する。いわゆる風通しの良さの確保(社内通報のルール整備と通報者の保護など)を予防措置の一環として取り上げることも有効であろう。
③ 法の不知による違法行為を防ぐための教育
 法令の改正等に関する情報力の不足から、事業活動を行う上で本来守らなければいけないルールについて十分な知識を持たず、結果的に法令に抵触してしまうことがある。しかしながら、法令を知らなかったからといって違法行為が許されるわけではない。コンプライアンスの前提として、業種や企業の特性に応じて、特に守るべき法令に関する知識を習得するための社員・従業員に対する教育を徹底する。
④ 規範遵守意識の徹底と実行
 いかに立派な規範が整備されていようと、それが着実に実行されなければ全く意味がない。経営幹部・社員ともに、規範を遵守することの重要性を認識し、実行するための教育・訓練を適宜行う。

Ⅲ.規範違反事態への対応

 不幸にして不祥事が発生したときはどのように対応すべきか。この点については、
先ず、事態が発生したときに臨機応変に対応できる社内の態勢(広報対応を含む)を整備しておく、あるいは、マニュアル化しておくなどの危機管理体制を整えておくとともに、事態発生時においては、経営者の陣頭指揮のもと、事態の正確な把握、原因の究明、応急措置、再発防止措置などを適時・的確に行うこと、責任の所在を明らかにすること、また、社会への悪影響防止のために関係当局へ通報することや対外的に必要な情報を提供することが重要である。

 なお、以上のような場合の実践対応のテキストとして、東京商工会議所広報委員会が平成12年7月に取りまとめた「企業を危機から守るクライシス・コミュニケーション」をもとに編纂された、「企業を危機から守るクライシス・コミュニケーションが見る見るわかる」(東京商工会議所編・サンマーク出版)が刊行されているので、参考にされたい。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所