政策提言・要望

日商・東商政策委員会提言(中間報告)「スモール・イズ・ダイナミックの実現に向けて」-21世紀の中堅・中小企業と商工会議所の活動のあり方-

平成11年11月8日
東京商工会議所

はじめに

1.21世紀に求められる中堅・中小企業
(1)中堅・中小企業に期待される役割
(2)中堅・中小企業の経営革新
(3)中堅・中小企業の活躍が期待される事業分野

2.中堅・中小企業支援のための環境整備
(1)創業・ベンチャー支援
(2)既存の中堅・中小企業支援

3.商工会議所の活動理念・役割
(1)商工会議所の活動理念
(2)商工会議所の役割
(3)むすび

はじめに

 わが国経済は、情報ネットワーク化、経済のボーダレス化、規制緩和、市場開放などの進展により大きな構造変革を迫られている。その中で大企業は、経営の選択と集中を進め市場競争力の強化を図りつつある。しかし、中堅・中小企業はかつてない厳しさでその影響を真正面から受けている。
さらに、世界的な地球環境に対する関心の高まりや少子高齢化、地方分権への移行など社会環境の変化は、あらゆる企業に新たな事業機会を提供する一方で、企業経営者に対しそれらの変化への的確な対応を迫っている。
こうした大きな環境変化の流れを受けて、中小企業政策審議会は、この秋に取りまとめた答申において、これまでの「中小企業の過小過多という弱者としての画一的な中小企業像を前提とした、大企業と中小企業間の格差是正」という政策理念を見直し、21世紀に向けた新たな政策目標を「多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展」に転換することを求めている。
日本・東京商工会議所は、平成7年11月、"中小企業のさらなる活躍が経済のダイナミズムの源泉"であるとの認識に基づき、「スモール・イズ・ダイナミック」を提唱し、これからの自己責任原則が求められる市場経済社会では、勇気を持って攻めの経営に邁進する中堅・中小企業が数多く登場してくる必要があることを提言した。
21世紀のわが国経済社会の発展は、新たな政策理念のもとで中堅・中小企業支援のための環境整備が図られ、地域に深く根ざした中堅・中小企業が、国際的視野をもって情報化に適切に対応しつつ、果敢に行動に打って出ることができるかどうかにかかっている。
商工会議所は、これまで地域に密着した総合経済団体として、各時代の要請に応えるべく、中堅・中小企業支援を中心とする多様な事業活動を展開し、地域の振興、商工業の発展に寄与してきた。地域の経済や雇用に加え、地域の文化・伝統の重要な担い手である中堅・中小企業が大きく自己変革を迫られている今日、商工会議所も、自らを21世紀の経済社会に相応しい形に変え、地域経済社会の発展により一層貢献していきたいと考えている。

1.21世紀に求められる中堅・中小企業

(1)中堅・中小企業に期待される役割
21世紀の中堅・中小企業は、地域経済、地域雇用、地域共同体の文化・伝統、経済活性化、産業構造改革等の担い手という、多様でかつ重要な経済的・社会的役割が期待されている。

○地域経済、地域雇用、地域共同体の文化・伝統の担い手
中堅・中小企業は、これまで産業活力の源泉として、地域経済、ひいてはわが国経済社会の基盤を支え、その進歩と発展に大きく貢献してきた。特に、その太宗を占める小規模企業は地域の生活者の身近な存在として、その多様なニーズを汲み上げ、商品づくりやサービスの提供に力を発揮するだけでなく、地域雇用における重要な担い手として、また、地域共同体の文化や伝統の担い手として、豊かな国民生活を実現する地域社会の基礎的構成要素としての役割を十分に果たしてきた。今後も引き続き、このような経済的・社会的役割を果たすことが一層期待されている。

○経済活性化、産業構造改革の担い手
他方、経済環境の激変は、新たな、かつ、様々なビジネスチャンスを提供してくれる。このため、中堅・中小企業は、製造業・非製造業を問わず、持ち前の起業家精神と創意工夫により、機動性・柔軟性を活かし、新規創業や新技術・新商品の開発、新たな事業分野への進出等を通じて、経済の活性化や新規雇用創出の担い手、産業構造改革の担い手としての役割が大いに期待される。

(2)中堅・中小企業の経営革新
中堅・中小企業は、経営革新のため、企業体質の強化、情報ネットワーク化、少子高齢化、グローバル化、地球環境問題への対応を図る必要がある。

○企業体質の強化への対応
中堅・中小企業においても、市場原理と自己責任原則に対応するため、キャッシュ・フロー重視の経営、国際会計基準も視野に入れた会計処理、投資家等利害関係者への情報開示など、企業体質の強化に向けた経営革新を行う必要がある。また、これまでのように行政の支援に依存するばかりでなく、自らの経営努力によって乗り切っていこうとする「攻め」の心意気こそが大切である。

○情報ネットワーク化への対応
ネットワーク化社会の到来により、電子商取引が一般的な取引形態として進展するようになり、中堅・中小企業においてもビジネスチャンスが拡大すると同時に、ネットワークを利用した受発注を行う機会も増大する。この動きに対応するためには、社内における情報ネットワーク化装備を急ぎ、かつ、自社のホームページを開設して、積極的に情報を受発信する体制を構築することが重要である。

○少子高齢化への対応
シルバーマーケットの需要に的確に対応するためには、供給者側である企業においても高齢者を積極的に雇用・活用し、そのセンスや感性を商品企画等に取り入れる必要がある。また、高齢者および女性を積極的に就業者として受け入れ易くするため、安全・衛生に配慮した職場環境づくりに努めるとともに、フレックス・タイムの導入やテレワークの活用などにも目を向ける必要がある。

○グローバル化への対応
グローバル化の進展は、国際的な競争の激化や国内の下請分業構造の流動化等を招いている。こうした中、脱下請け、自立化を図る企業、あるいは、企画力を武器に大企業とのパートナーシップを形成している企業も見られる。また、企業のアウトソーシングが進む中で、下請企業関係とは別な取引関係も広がりつつある。こうした多様な企業関係の形成に向けて努力する必要がある。

○地球環境問題への対応
地球環境問題への関心が高まる中で、中堅・中小企業が、この問題に対して責任ある経営を行うことは、企業の存続・発展の条件であると考えられる。こうしたことから、国際環境規格(ISO14000シリーズ)の認証の取得など、中堅・中小企業においても適切な対応を講ずることが重要である。

(3)中堅・中小企業の活躍が期待される事業分野
21世紀に中堅・中小企業の活躍が期待される事業分野は、生活文化関連分野、情報通信関連分野、医療・福祉関連分野、環境関連分野、その他の新技術分野等である。

社会環境の大きな変化は、既存の商品・サービスに新たな付加価値を求めるとともに、企業に様々な事業機会を提供することになる。今後、新たに事業を起こそうとする企業やさらなる成長を目指す既存の中堅・中小企業は、次の事業分野において活躍が期待される。
1) 生活文化関連分野
生涯学習、余暇、ファッション、食文化・生活の多様化に関連する産業や、消費力旺盛な若年層を対象とした産業。また、高齢者などを対象とした買い物の代行・宅配などを含む総合生活サービス、地場産品を組み合わせた地域ブランド製品の開発とインターネットなどを活用した販売。
2) 情報通信関連分野
電子商取引の普及や行政等の公共サービスの情報効率化など情報通信の発達が国民生活に寄与する分野。また、特殊用途の部品製造等。
3) 医療・福祉関連分野
高度医療機器産業、病院業務代行業(給食等)、在宅介護サービス、福祉用具・バリアフリー関連、健康サービス・機器など、高齢者や介護者の視点に立ったケアー・サービスなどの各種サービス提供産業。また、先端技術を応用した高機能な医療・福祉機器等。
4) 環境関連分野
産業・生活廃棄物の収集業務や処理装置の開発・生産。
5) その他の新技術分野
バイオテクノロジー、航空・宇宙、新エネルギー等の先端技術の研究・開発に必要な、検査・測定装置の材料や部品の開発・製造など。

2.中堅・中小企業支援のための環境整備

(1)創業・ベンチャー支援
わが国企業の廃業率が創業率を上回った現在、新規創業を支援し、経済の新陳代謝を促すことが経済活性化と雇用創出に不可欠となっている。

大企業のリストラによる人員削減は、企業の存続のためにはやむを得ない場合の最後の手段であるが、企業の社会的責任を考えると雇用確保に十分配慮した企業経営が肝要である。しかしながら、これまでのように大企業が大量に雇用を受け入れる役割を担うことは難しくなっており、今後は、ベンチャー企業や既存の中堅・中小企業が雇用の重要な受け皿となることが期待されている。また、雇用創出や経済活性化の役割は、先端技術分野の研究開発型だけでなく、SOHOをはじめとする商業・サービスなど幅広い分野での小規模な創業企業が担うことが期待される。そして、これらの動きを強力に支援する以下の施策が必要である。

○資金調達の円滑化支援
金融機関には、もっぱら物的担保に固執することなく、経営者の資質および技術やノウハウ等の無形資産に着目した融資の道を開くことが求められる。特に、立ち上がり時のベンチャーには、経営者の資質、事業の継続・発展性等経営ソフト面を評価した資金供給を行う必要がある。他方、国や地方自治体は、株式公開市場の改革等ベンチャー企業が直接金融市場から資金を容易に調達できる環境を一層整備することが重要である。同時に、新規企業へのマル経融資の条件緩和や、融資枠拡充と返済期間延長の恒久化なども検討する必要がある。

○ベンチャー活性化税制
幅広い分野での創業を促すには、以下のさらなる税制支援が不可欠である。
1) 投資家のベンチャーへの投資損失と他所得との損益通算を認める等のエンジェル税制の拡充
2) ベンチャーの人材確保やベンチャー支援者に有効なストックオプション制度の対象範囲の拡大および関連税制の拡充
3) 投資家がベンチャーやVC(ベンチャー・キャピタル)に、あるいは、VCがベンチャーに投資する場合、投資時点で投資額の一定割合を所得から控除するなどの優遇税制の創設

○目利きのベンチャーキャピタリストの養成
VCで活躍すべきベンチャーキャピタリストが育っていない。大学等においてベンチャーキャピタリストを養成するなど、VC活動を経済活性化の公益と理解して、社会全体で支援する必要がある。

○ベンチャーのアウトソーシングと産学連携
ベンチャーが、大学の技術や人材を活用したり、大学や大企業との共同研究開発が容易に行えるようにするため、TLO(大学の技術の民間移転・事業化を担う移転機関)の実効性をさらに高めるとともに、一定の条件のもとでの国立大学の教官等の民間企業役員の兼業を認めるなどの措置を検討する必要がある。

○起業家資質を伸ばす人材育成
長期的な視点で、起業家精神やリスクマネジメント意識を子供の頃から育むことが重要であり、教育を通じて、幼少年期に起業家と子供達との経験交流を行うなど、未来の起業家輩出を支援する必要がある。さらに、国際化時代に十分対応できる英語教育が不可欠である。

○空き店舗・事務所情報ネットワーク化
商業・サービス業の分野で創業を目指す場合の大きなネックが店舗・事務所などの確保であることに留意し、商工会議所が行う空き店舗・事務所情報のネットワーク化を支援することが必要である。

(2)既存の中堅・中小企業支援
国・地方自治体は、既存の中堅・中小企業が公正な競争条件のもとで経営革新を行えるよう、資金面などの支援を行うとともに、セイフティネットの整備も行う必要がある。また、小規模企業への特段の配慮も重要である。

自助努力を前提とした政策支援を行うにあたっては、市場において中堅・中小企業が活躍できる公正な競争条件を確保するとともに、金融環境の激変への臨機応変な対応や市場競争を乗り切れなかった者への再挑戦の機会の提供等セイフティネットを整備するため、以下の支援策が必要である。

○資金調達の円滑化支援
中堅・中小企業は大企業に比べ、資金調達面で極めて弱い立場にあり、貸し渋り問題やシステミック・リスクが生じた際には、金融安定化特別保証制度などのセイフティネットを提供することが重要である。
また、金融機関は、経営者の資質、事業の将来性や技術内容を評価する融資の道を開くべきであり、特に、担保不足に悩む創業後間もない企業や小規模企業については、経営力や企画力に着目した融資が必要である。さらに、中堅・中小企業が発行する社債や私募債に公的保証を付けるなど、資金調達手段の多様化を図るための仕組みも整備することが重要である。

○労働力確保に向けた支援
昨今の雇用状況は、中堅・中小企業にとって、優秀な人材を確保する絶好の機会であり、大企業から中小企業に円滑な人材の流動化を促すための環境整備が是非とも必要である。例えば、中堅・中小企業が導入しやすい確定拠出型年金制度の創設や中堅・中小企業が求める能力の開発など再就職のための職業訓練制度などの拡充が急がれる。また、労働力の需給調整機能強化のために、職業紹介事業の許可基準の思い切った緩和や弾力的な運用が必要である。

○情報ネットワーク化への支援
中堅・中小企業、とりわけ、小規模企業の情報化対応は、一般の企業と比較して遅れている。情報リテラシーの向上、情報機器導入促進制度の拡充など情報ネットワーク化への参加に対する支援が必要である。また、ネットワーク化への対応が容易となるよう、アクセスポイントの拡充、回線速度の高速化、通信料金の低料金化など、情報インフラの早急な整備を図る必要がある。

○小規模企業への特段の配慮
中堅・中小企業、とりわけ、その太宗を占める小規模企業は地域の経済活動の主体であるばかりでなく、地域の伝統や文化を根底から支えており、まさに地域コミュニティの中核的存在である。したがって、地域が元気を取り戻すには小規模企業の活性化がまず図られることが肝要である。そのためには、小規模企業の経営環境の変化への適切な対応を支援することが必要不可欠であり、小規模企業対策に対する特段の配慮が望まれる。
今後は、地方分権の進展と中小企業基本法の改正により、国と地方の役割が分担されることになり、中小企業政策における地方自治体の責務もこれまで以上に重くなるが、これを実施する地方自治体の財源の問題や人材の確保・育成等が今後の課題として残されている。これらの課題を速やかに解決する必要があるが、近年、地方自治体の財政事情の悪化から小規模対策に関わる事業費の削減や、地域によっては人件費の削減が行われており、小規模企業対策の円滑な実施に支障を来たし始めている。小規模企業の重要性を再認識し、地方自治体による十分な財政措置が講じられることを強く望むものである。

○中堅・中小企業の体質強化のための税制の整備
地域雇用の場の確保と中堅・中小企業の活力創出を図るために、下記税制について特段の配慮が必要である。
1) 中小企業の事業承継円滑化のための事業承継税制の確立
2) 既に存在理由のなくなっている同族会社に対する留保金課税の廃止
3) 地価の下落と税負担が連動しない固定資産税の課税方法の見直し
4) 法人事業税への外形標準課税の導入反対

○セイフティネットの整備
大企業の経営の選択と集中が進み、系列取引の崩壊や工場閉鎖等が行われることによって、中堅・中小企業を中心とする地域経済が大きな打撃を受けることとなる。地域経済社会の疲弊を招かないためにも、こうした急激な環境変化に対する公的セイフティネットが是非とも必要である。また、厳しい市場競争を克服できなかった中堅・中小企業のために、再挑戦を容易にする倒産法制の整備が必要である。

3.商工会議所の活動理念・役割

(1)商工会議所の活動理念
わが国経済を取り巻く環境が変化し、中堅・中小企業がその変革を迫られている中、商工会議所も自らの役割を再認識し、自己変革をする必要がある。

○新時代に対応した商工会議所
わが国に商工会議所制度が発足して120年余、この間、商工会議所は、わが国唯一の地域総合経済団体として、経済社会の変遷に合わせ、広範多岐にわたる諸事業を展開するなど、地域の発展と商工業の振興に貢献してきた。
中堅・中小企業が経営革新を迫られているとき、商工会議所が、これら中堅・中小企業の体質強化・発展に向けて果たすべき役割は、以前にも増して大きくなっている。21世紀を迎えるにあたり、商工会議所は、自らを取り巻く環境の変化を認識し、地域経済社会が求めるニーズを的確に捉え、それに対応できるよう自己変革をする必要がある。特に、商工会議所は、商工会議所法に基づく極めて公益性の強い団体であるが、その組織・運営は、目的達成のために効率性を追求するという点では、企業と何ら変わらない。今後は、商工会議所といえども、経営マインドを持って、役員・議員を中心にその運営改善に取り組み、自己評価を行うことが重要である。
自己変革をするうえで、第一に取り組む必要があるのは、「商工会議所組織・財政基盤の強化」である。特に、会員のニーズに迅速かつ的確に応えることが、商工会議所への信頼感・求心力を高める源泉であるので、会員サービスの改善・開発に努めていくことに重点を置く必要がある。
第二に、「競争原理を意識した商工会議所運営」である。これまで商工会議所が実施してきた中小企業支援に係る事業についても、今後、他団体との競争原理の中で行われることになるので、それを改めて認識する必要がある。
第三に、「商工会議所職員の人材育成」である。活動基盤の土台を成す事務局の強化は、商工会議所の活性化のための絶対条件である。商工会議所の存在感をアピールできるような事業・政策要望を立案・実現しうる人材の育成が急務となっている。
第四に、「地方自治体との更なる連携に向けた対応」である。地方分権の進展により、また、これを受けた中小企業基本法の改正により、中小企業支援施策についても国と地方の役割分担が図られることになるため、今後、商工会議所は、特に地方自治体が行う施策について、これまで以上に地方自治体との連携を強化する必要がある。

○ネットワーク化に対応した活動の強化
情報ネットワーク網の整備により、中堅・中小企業の事業活動範囲・商圏は、地域の枠を越えて、全国および全世界に広がりつつある。今後、商工会議所が中堅・中小企業のニーズに的確に応えていくためには、これまでの地域完結型の活動だけでは困難であり、CIN(商工会議所情報ネットワーク)をより高度化し、中堅・中小企業が新たな事業機会の創出、新規事業展開や国際化を図れるよう、企業が必要とする情報を積極的に発信することにより、その活動を支援していく必要がある。

○地域社会全体から求められる地域総合経済団体への変革
商工会議所は、その活動の対象を会員や商工業者のみならず、今後は、従業員、住民、地域コミュニティにまで広げ、地域全体を巻き込んだ事業等に積極的に対応することにより、地域経済社会全体から必要とされる存在、つまり、親しまれ頼られる団体を目指す必要がある。特に、地方自治体から連携を求められ、頼られる存在として、これまで以上に重要な役割を担う必要がある。

○地方分権推進の原動力としての活動
日本商工会議所では、かねてから地方分権の重要性に着目し、「広域行政体としての道州制の採用」や「地域新時代の活性化戦略」など、地方分権のあり方について提言を行ってきた。今般、地方分権一括法が成立し、わが国でも地方分権に向けて第一歩を踏み出した。地方分権は、地方の自主性が高まることにより、地域経済、地域産業振興へのきめ細やかな対応が可能となることから、商工会議所は、地方自治体とともに、「地域ロマン」の実現に向けて、その推進の原動力として活動していく必要がある。
また、地方分権の進展とともに、商工会議所は地域経済社会全体の利益の推進者として、広域行政に向けた動きを活発化させる必要がある。これを推進するため、一地域にとどまらない広域的な視点からの意見集約・意思表示ができるよう、行政および近隣商工会議所、他の経済団体との広域的な連携・提携を図っていくことが重要である。さらに、地域総合経済団体としての事業活動の効率化を図るためにも、同一経済圏の商工会議所同士、あるいは、商工会議所と商工会との合併についても前向きに検討する必要がある。

(2)商工会議所の役割
21世紀を迎えるにあたり、商工会議所は、「地域経済社会の代弁者」、「コーディネーター」、「国、地方自治体の事業の受け皿」、「地域における情報の受発信基地」、「街づくり推進のリーダー」、「地域経済活性化の牽引役」、「地域の国際化の支援」としての役割を果たす必要がある。

○地域経済社会の代弁者としての役割
商工会議所に求められる最大の役割は、地域経済社会の代弁者として意見を述べ、建議要望することである。地方分権の進展により、これまで以上に地方自治体へのきめ細かな対応が必要となるが、さらに、各地域の力を結集し、地域商工業者の声を国の政策に反映させることがますます重要となっている。また、これまでの陳情型から要望実現型への脱却を図り、要望活動の進捗状況や結果を地域経済社会にフィードバックすることにより、自らの存在意義を高めていく必要がある。

○コーディネーターとしての役割
現在行われている中小企業支援施策は、各種団体・機関ごとの縦割りになっており、利用者にとって活用しにくいものとなっている。商工会議所は、あらゆる業種・業態の企業を擁する地域総合経済団体であることから、各組織ごとの支援施策をコーディネートしながら、起業家や企業に一元的に提供し、銀行やベンチャーキャピタル等との連携を図りつつ、技術開発から事業化、販路拡大まで全面的に支援する役割を果たしていく必要がある。また、人材流動化促進のため、高度な専門的能力を持った人材を有する大企業とそれを求める中堅・中小企業との間の仲介役等の「草の根コーディネーター」としての役割を果たしていくことも重要である。

○国、地方自治体の事業の受け皿としての役割
地方分権一括法の成立や中小企業基本法の改正により、中小企業支援施策も国と地方の役割が分担されることとなる。国と地方の財源の配分問題や地方自治体の人材確保・育成等が今後の課題として残されているが、商工会議所は、国や地方自治体が実施している中小企業政策について、国や地方のスリム化、官と民の役割分担の見直しといった観点から、これを積極的に受け入れ、国や地方自治体の事業の受け皿としての役割を果たしていくことが重要である。

○地域における情報の受発信基地としての役割
21世紀において、新たに商工会議所に期待されているのは、地域における情報拠点としての役割である。地域の情報化、中小企業の情報化を推進していくため、商工会議所は、全国523商工会議所、164万会員を擁する組織力を活用し、特に以下の役割を果たす必要がある。
1)中堅・中小企業の情報化支援(操作・保守等)を行うエージェント機能
2)中堅・中小企業を対象とした講習会の開催等、情報リテラシーの向上支援
3)認証局事業の実施等、電子商取引の普及支援

○街づくり推進のリーダーとしての役割
街づくり組織として重要な役割を担う商工会議所が、TMO(タウンマネージメント機関)の引き受け・運営等を通じて中心市街地活性化に取り組むなど、街づくり推進にリーダーシップを発揮していくことが必要である。一方で、街づくりを進めるための制度的基盤を整えていくことが重要であり、「街づくり3法の運用における整合性の確保」のほか、「地域事情に沿った大店立地法の弾力的な運用の確保」、「都市計画法の抜本改正をはじめとする総合的な土地利用規制の確立」等を主張していく必要がある。また、地域独自の計画的な土地利用規制としての街づくり条例の制定を求めていくことが望まれる。

○地域経済活性化の牽引役としての役割
民間主導による地域活性化を進め、生活と産業の調和した街づくりを推進し、「地域ロマン」を実現していくためには、商工会議所がその旗振り役となって、商工業者、非商工業者、大学、研究機関、住民、地域ボランティア団体など幅広いセクターを集め、知恵と力を出し合うことが重要となっている。
また、国や地方自治体は、中堅・中小企業が急激な環境変化に円滑に対応できるようにするとともに、失敗しても再起が可能となるような経済的・社会的環境を整備する必要がある。商工会議所はその円滑な実施を図るための中心的な役割を果たすことが重要である。

○地域の国際化を支援する役割
中堅・中小企業の国際化を支援し、また、地域社会の国際化を推進するため、海外投資環境情報、貿易取引照会情報等の提供を行うとともに、海外産地との経済交流、海外商工会議所との姉妹都市交流、国際コンベンションの誘致を行うなど、今後とも、地域の国際交流(ローカル・トゥ・ローカル)の中心的な役割を一層果たすことが重要である。

(3)むすび
わが国経済社会は今、21世紀を目前に控え、一大転換期を迎えている。この中にあって、企業、とりわけ、経済社会発展の原動力である中堅・中小企業はかつてない厳しい試練を乗り越え、自らの力で経営基盤を固めるとともに、新規創業や新規事業分野への進出、業種・業態の転換等に取り組むことが期待されている。
また、地域社会は、地方分権の推進により、創意と工夫で、個性あふれる住みやすい地域づくり、街づくりに取り組むことが求められている。
それだけに、地域経済社会の先導役である商工会議所への期待はますます大きくなっている。これに応えるべく、商工会議所は、役員・議員の強いリーダーシップのもと、組織、運営、事業のすべてにわたって一層の活性化を図り、新しい時代にあった使命と役割を果たしていく必要がある。
特に、長引く景気の低迷で、地域経済社会のマインドは冷え切っている。今こそ、商工会議所は、地域経済社会の先頭に立って、地域が元気を取り戻す環境づくりと、試練に耐えながら転換期への対応を急ぐ中堅・中小企業の自助努力を支援する体制づくりに向けて、全力を挙げて取り組む必要がある。
商工会議所は、全国的に組織の広がりを持つ地域総合経済団体として、緊密な連携のもと総力を挙げてこれらに取り組む決意である。