政策提言・要望

政策提言・要望

日商・東商政策委員会報告書「これからの商工会議所の課題と行動指針」-変わろう、頑張る中小企業と活力ある地域のために-

平成12年5月9日
東京商工会議所

はじめに

 政府は、昨年始め、新たな政策理念に基づく中小企業基本法の抜本的改正など中小企業政策全般の見直しの作業に着手した。
日本・東京商工会議所の政策委員会では、政府のこの動きに合わせて、昨年11月、中小企業のさらなる飛躍が経済のダイナミズムの源泉であるとの認識に基づき、提言「スモール・イズ・ダイナミックの実現に向けて」を中間報告として取りまとめた。提言では、中小企業が経営革新に取り組み、新しい分野に果敢に挑戦できるよう環境整備を訴えるとともに、21世紀に求められる中小企業像とそれを支援する商工会議所の活動理念・役割について、その方向性を示した。
そして、昨年12月、中小企業国会と呼ばれた臨時国会において、中小企業基本法が36年ぶりに抜本的に改正されたが、この政策転換にあたっては、政策委員会の提言内容が基本的に受け入れられ、現在、新しい基本理念に基づく中小企業政策体系が構築されつつある。
これにより、数多くの創業者・ベンチャー企業の輩出が求められるとともに、地域経済や雇用に加えて地域共同体の文化・伝統の重要な担い手である既存中小企業は、経営革新に前向きに取り組み、来るべき21世紀において地域経済発展の中心的役割を果たすことが期待されている。
これまで、商工会議所が一貫して主張してきた中小企業・ベンチャー支援の環境整備に大きな道が開かれた今、中小企業の自立を促し、自助努力を支援していくことが、地域総合経済団体である商工会議所の大きな使命となっている。
そこで、日本商工会議所では、各地商工会議所の専務理事から成る「商工会議所運営問題研究会」を設置し、商工会議所は今後いかに行動すべきかについて議論を重ね、「当面の商工会議所の課題と行動計画(アクションプログラム)」を策定した。政策委員会では、そのアクションプログラムを受けて、新中小企業政策体系の円滑な実行という観点も踏まえ、昨年11月の中間報告についてさらに検討を加え、このたび最終報告として「これからの商工会議所の課題と行動指針-変わろう、頑張る中小企業と活力ある地域のために-」を取りまとめた。
中小企業が大きく自己変革を迫られる中、商工会議所も自らを21世紀の経済社会にふさわしい形に変え、地域経済社会の発展により一層貢献していく必要がある。各地商工会議所において、この最終報告で示された活動理念と行動指針に沿って、各地域の特性を十分に踏まえつつ、組織が一丸となった諸活動が展開されるよう強く期待するものである。

1.これまでの商工会議所活動と商工会議所を取り巻く環境の変化

○これまでの商工会議所活動
わが国に商工会議所制度が発足して120年余、この間、商工会議所は、地域における唯一の総合経済団体として、時代の要請に応えて、その組織・運営の強化・拡充を図りながら、国レベルから地域コミュニティレベルの課題に至るまで、多彩かつ広範多岐にわたる活動を展開してきた。
その主なものを挙げると、まず、景気対策、財政・金融対策、税制改正、国土の均衡ある発展に向けたインフラ整備など、商工業振興策、経済問題一般、地域開発問題等幅広い分野について、国や地方公共団体等に対し意見・要望活動を行い、その実現に努め、商工会議所存立の原点ともいうべき商工業者の世論機関としての役割を果たしてきた。また、経営改善普及事業に代表される中小企業支援事業に精力的に取り組む一方で、昨今の新たな経営環境の変化に対応し、ベンチャー・創業、情報化、国際化など中小企業の各般にわたる支援事業に積極的に取り組んできた。さらには、豊かで活力ある地域社会の実現に向けて、街づくりや地域振興事業、環境保全・社会貢献活動をはじめとする諸事業を展開するほか、民間経済外交の担い手として国際交流活動を行うなど、商工業の振興と地域社会の発展に大きく貢献してきた。
しかしながら、商工会議所を取り巻く環境の変化は、従来にないスピードで進展しており、今後は、会員や地域経済社会が求めるニーズを迅速かつ的確に捉え、これまで以上に強力な活動を展開する必要がある。

○商工会議所を取り巻く環境の変化
わが国経済社会を取り巻く環境は大きく変化している。具体的には、「IT革命等の技術革新」、「情報ネットワーク社会の進展」、「少子高齢社会の到来」、「経済活動のグローバル化」、「地球環境問題の高まり」、「金融システム改革の推進」、「行財政改革の推進」、「規制改革の推進」など、様々なものが挙げられよう。
こうした環境変化に加え、高学歴化、ライフスタイルや価値観の変化等を背景に、労働集約的産業から資本集約的産業、さらには、知識集約的産業へと産業構造の変革が進展するとともに、生産活動や消費活動に大きな変化と新たな広がりをもたらしている。また、従来の競争よりも協調性を重視した経済社会システムから、市場原理に基づく自己責任原則を重視した新たな経済社会システムの構築が求められている。
われわれ商工会議所は、これらの大きな経済社会の潮流に対応することは勿論のこと、特に、商工会議所運営に、より直接的な影響を与える「中小企業・小規模企業政策の見直し」、「地方分権の進展」、「街づくり政策の転換」などの環境変化に向けた対応が急務となっている。
商工会議所の目的は、これまでもこれからも基本的に変わることはない。しかしながら、時代の大きな節目である21世紀を目前に控え、商工会議所は自らを取り巻く環境の変化に対応し、目的達成のための組織のあり方、方法・手段の見直しが必須となっている。
こうしたことから、われわれ商工会議所は、従来の発想にとらわれることなく、新しい時代にふさわしい商工会議所のあり方を明確にし、行動する時期に来ている。

2.これからの商工会議所の役割と課題

(1)商工会議所の役割

先に述べた商工会議所を取り巻く様々な環境の変化を踏まえて、21世紀初頭のわが国ならびに地域経済社会において、商工会議所は以下の点を十分理解・認識し、その役割を果たす必要がある。

○わが国の発展は地域経済社会の活性化にかかっている
わが国の発展は、それぞれの地域経済社会がその歴史・文化・伝統を受け継ぎながら、生き生きとした住みよい地域コミュニティを形成しつつ、活性化することが基盤となっており、その総和がわが国全体の活力である。地方分権の進展により、今まで当然のように受け入れられてきた横並び意識から脱却し、それぞれの地域において、創意と工夫による個性あふれる住みやすい地域づくりが求められている。それは一方で、地域間競争が激化することも意味し、それぞれの地域が個性化・差別化や地域間での機能分担を図るなど、お互いに切磋琢磨しながら共栄していく時代が到来しており、わが国の均衡ある発展にとって、地域経済社会の役割はより重要となっている。

○中小企業の活性化こそがわが国経済のダイナミズムの源泉となる
中小企業は、これまで産業活力の源泉として、地域経済、さらにはわが国経済社会の基盤を支え、その発展に大きく貢献してきた。現在、わが国の企業に占める中小企業の割合は99.7%であり、従業者数も71%を占めている。今後も引き続き、地域経済、地域雇用、地域共同体の文化・伝統、地域環境・福祉、産業活力、産業構造改革等の担い手として、多様でかつ重要な経済的・社会的役割が期待されている。そして、今ある中小企業が活性化し、さらに、経営革新、新規創業に向けられる中小企業の活力こそが、地域経済の活性化、わが国経済のダイナミズムの源泉となる。

○商工会議所こそが地域経済社会の発展を実現する組織である
商工会議所は、一定の地域を基盤として成り立つ地域団体であり、かつ、様々な企業や業種・業態の商工業者を会員とする総合経済団体である。また、会員組織でありながら、会員の枠を超えて地域内の商工業の総合的な改善発達を図り、兼ねて社会一般の福祉の増進に資することを目的としている。商工会議所は他団体にはない特徴を持つ極めて公益性の強い団体であり、その目指すところは、まさに、前述の中小企業を中心とする商工業者の活性化をテコに、地域経済社会全体の発展を実現することにある。
また、最近は、市民によるNPO活動(特定非営利活動法人)が活発化してきているが、商工会議所の本来的な性格からいって、地域住民のニーズの多様化が進む中で、行政のスリム化・効率化の観点から「官から民へ」の流れが強まっており、例えば、福祉、環境などの分野において、NPO型の役割を果たすことも商工会議所の存在意義を高めるうえで従来にも増して重要となってくる。
今や、商工会議所は全国526都市にあり、中小企業を中心とした162万会員を擁する、いわゆる全国ネットワークを形成する組織である。すなわち、このネットワークを通じて結束し、あるいは、必要に応じて連携・協力関係、補完関係などの縦横無尽なパートナーシップを築くことによって、商工会議所個々のパワーをより高めることができる、他団体にない優位性を持つ組織である。その意味で、商工会議所は、ネットワークの力を活用し、地域経済社会の発展を実現できる唯一の団体であると言っても過言ではない。

○情報ネットワーク社会が進展する中、商工会議所が果たす役割と責任はますます大きくなる
情報ネットワーク社会が進展すればするほど、商工会議所の特性、すなわち、地域密着型の特性(地域性)、多数の中小企業を会員に持つ特性(中小企業性)、企業規模の大小を問わずあらゆる業種・業態を会員に持つ特性(総合性)、日本商工会議所の機能により全国規模の活動展開が可能となる特性(全国性)、さらには、世界のほとんどの国に存在する組織であるという特性(国際性)は、今後ますます大きな価値を持つとともに、数ある経済団体の中にあってその果たすべき役割と責任はますます大きくなる。
特に、情報技術革新の急速な進展、経済の成熟化・低成長、規制緩和の流れなどの市場環境の変化により、産業分野、国境はもとより、国内における地域の垣根が低くなり、相互の参入が活発化してボーダレスになっている。これは、地域中小企業の中から、小さいながらもグローバルマーケットで高いシェアを獲得する小さなガリバー企業が生まれる可能性が高まる一方で、地域外からより競争力のある企業が進出してくることを意味する。すなわち、地域中小企業にとって、チャンスであると同時に、大きなピンチでもある。そこで、経営者の自助努力・自己責任に対する自覚を促すよう意識啓発を図るとともに、公正な競争条件の整備に配慮しながら、厳しい競争にさらされる中小企業の企業体質の強化に向けた経営革新を支援することが、これからの商工会議所の重要な役割となる。
その際、IT革命への対応に遅れをとることのないよう、地域中小企業は情報ネットワーク化装備を急ぎ、それぞれがホームページを開設して、国内のみならず、海外のマーケットを視野に入れながら、積極的に情報を受発信する体制を構築していくことが重要である。商工会議所は、地域中小企業の情報リテラシーの向上など情報ネットワーク化への対応を強力に支援していく必要がある。
また、商工会議所は、その特性の一つである「総合性」にみられるように、同一業種の集まりである業種別団体とは異なり、いわば異業種交流の組織である。最近は、経営力の強化を図ったり、新たな事業分野への事業展開力を高めるため、異業種交流の重要性が強く認識されるようになり、また、新たな革新の契機は、業種の垣根を超えて生まれてくるとも言われており、単一業種の交流では、新しいビジネスチャンスが生まれる機会は少ないが、異業種間になるとその可能性は大いに高まる。すなわち、商工会議所は、新しいビジネスチャンスを生み出す苗床を有しており、例えば自社の経営課題の解決、取引拡大、ビジネスパートナーの発掘などに役立つビジネス交流プラザの開催など、その芽を開かせる触媒の機能を積極的に果たしていくことが期待される。

(2)商工会議所の課題

わが国経済にとっての最優先課題は、言うまでもなく、景気を一日も早く本格的な回復軌道に乗せることである。一連の経済対策により、一部回復傾向が窺えるものの、中小企業の足下の景況感は引き続き厳しく、地域経済社会のマインドは冷え切っている。まず、商工会議所は地域経済社会の先頭に立って、地域が元気を取り戻す環境づくりに全力を挙げて組む必要がある。
これに加えて、商工会議所が当面する課題としては、例えば、「政策面」では、法人事業税への外形標準課税導入問題や直間比率の見直し等税制問題への対応がある。また、地方分権の受け皿として、地方自治体の行財政能力の向上が必要であり、将来の道州制の導入など行政の広域化を展望しつつ、経済圏を踏まえた市町村の広域合併の推進がある。さらに、わが国経済の発展基盤であるものづくりを支える技能・ノウハウ等の維持・強化、少子高齢化に伴う労働力人口の減少に対応した人材の円滑な移動・育成への取り組み、教育改革や起業家精神高揚の要請を踏まえた教育問題への対応などがある。「組織・運営面」では、組織・財政基盤の強化、青年部・婦人会の活用、行政の広域化・合併に伴う商工会議所・商工会の広域連携・合併問題への対応、また「事業面」では、街づくり条例の制定促進による街づくり事業の推進、地域中小企業の情報ネットワーク社会やグローバル化への対応支援など、わが国の健全な発展に向けて、商工会議所が中心的に取り組まなければならない課題は枚挙にいとまがない。特に、外形標準課税問題は、全国の商工会議所を挙げて反対しなければならない喫緊の課題である。
このように、商工会議所は、日本の進路に関連する様々な課題について提言し、その実現に向けて、これまで以上に積極的な役割を果たしていくことが重要である。
そこで、21世紀を前にして、商工会議所が重点的に取り組むべき課題を、「政策面」、「組織・運営面」、「事業面」の3つの側面から検討し、その取り組み方について基本的な考え方を提案する。これらは、三位一体の関係にあり、常にこの3つの視点から、迅速かつ適切に対応することが不可欠である。これにより、商工会議所に対する会員・地域社会の信頼を高めて、真のリーダーシップを確立することができる。

①政 策 面
○地域の実情に応じた政策課題や地域・商工会議所ビジョンの検討が重要である
建議・要望活動や政策提言活動は、地域経済活動の根幹を成すものであり、会員等地域社会から商工会議所に求められる最大の役割である。今後とも、地域の実情に応じた政策課題や地域および商工会議所のビジョン、運営方針、活動計画等について、従来の経緯にとらわれず検討を行うことが重要であり、こうした取り組み努力により、地域における商工会議所への信頼性を高めることができる。そのため、必要に応じて商工会議所内に政策委員会等を設置し、こうした諸課題に取り組むとともに、その実現に向けて積極果敢に行動していく必要がある。
なお、諸課題の実現にあたっては、必要に応じ、業種別組合などの他の経済関係団体はもちろんのこと、同じく地域経済社会を構成する農林水産業の各種団体や市民団体等との連携を強化し、商工会議所がその要となって、地域の総力を挙げた取り組みが必要である。

②組織・運営面
○役員・議員の商工会議所活動への積極的な参画が求められている
商工会議所は、激しい時代の変化に迅速に対応し、新しい時代にふさわしい役割を果たさなければ、商工会議所の存在意義を失いかねないことになる。
まず、商工会議所運営の最高責任者である会頭およびこれを補佐する副会頭など役員の責任は大きい。これら会頭以下の執行部の力強いリーダーシップの発揮が期待される。そのリーダーシップのもとに展開される商工会議所の事業活動が真に効果をあげるためには、会員の理解と支持が必要不可欠である。そのためには、最高議決機関である議員総会の構成員である議員の責務と行動が強調されなければならない。すなわち、商工会議所活動の活性化は、役員はもとより議員のより積極的な参加なくしてあり得ない。
議員の主体的な参画意識を高揚し、議員相互の結束力・連帯感を高めるため、全国共通の議員憲章を制定するよう提案する。商工会議所の活性化の基本は、議員自らの素晴らしい活動・働きによって高められるものであるとの認識のもと、各地商工会議所において、憲章に基づき、役員・議員が一丸となった事業活動が展開されることを期待する。
また、議員総会の運営の見直しや、商工会議所活動に役員・議員がいかにして主体的に参画して、どう継続性を持たせていくかの仕組みを構築したり、企業人として、率先して地域社会の諸活動に取り組むよう、社会貢献意識を高めていくことも重要である。

○企業経営マインドが商工会議所運営に求められている
商工会議所は、法律に基づく公共性の強い団体であるが、事業活動を効果的・効率的に展開するためには、人材や財政が制約されている中にあって、その組織・運営については、効率性を重視した企業経営的なマインドが強く求められる。常に、企業人である役員・議員と一体となって改善に取り組み、成果に対しての自己評価を行いながら、これをフィードバックし、事業活動を展開することが重要である。

○商工会議所が果たすべき役割の実現には財政基盤の強化が不可欠である
商工会議所が、前述の役割の実現に向けて事業活動を遂行していくためには、まず財政基盤の強化が不可欠である。商工会議所が自主的に行動するためには、経済的な裏付けがなくてはならず、自主財源を確保することによって、組織や事業活動の活性化につながる。自主財源を強化するため、会員の拡大を図りつつ、会費収入を商工会議所財政の中核とすべきことは言うまでもないが、中小企業、さらには地域社会から歓迎され、かつ商工会議所が行うに相応しい事業を強力に推進し、それから得られる適正な対価を商工会議所の目的達成のためにさらに還元していくことが重要であり、そのための条件整備、人材育成、仕組みづくり等を検討する必要がある。

○商工会議所の組織力を高めるには会員増強、諸会議の活性化、事務局の人材
育成と活性化が重要である
新しい時代に先見的に対応し、真のリーダーシップを発揮しうる組織を目指して、商工会議所は組織の強化と事務局の人材育成・活性化を図らなければならない。このため、商工会議所は、まず、組織率の向上に向けた会員増強運動を展開するとともに、当面する諸課題に柔軟に機能し、21世紀の新しい産業構造に対応できるよう、適材適所の人事配置等による組織の活性化、部会・委員会・常議員会・議員総会等諸会議のあり方の見直し・活性化、青年部・婦人会の組織上の位置づけと更なる活用等に努める必要がある。また、商工会議所への信頼性と期待感を高めるには、事務局の人材に負うところが大きいことから、今後は特に、各種機関が行う中小企業支援施策を一元的に提供しうるコーディネート機能や企業経営上のより専門的な相談に対応できるコンサルティング機能の強化・充実に向けて、職員・経営指導員の資質向上、所内情報化の推進等に取り組むことにより、効率的で活力ある事務局体制を整備する必要がある。

○会員ニーズに対応した事業活動の実施と会員が参加・活用しやすい環境整備が必要である
企業を取り巻く経済環境が厳しい中、会員企業は商工会議所に、直接的なメリットを期待する声が強くなってきている。商工会議所は、会員のニーズに対応した事業活動の実施と会員が参加・活用しやすい組織・運営に十分配慮する必要がある。
もとより、商工会議所は会員組織であり、その一方で、「商工業の総合的な改善発達」と「社会一般の福祉の増進」という目的に沿って、会員のみならず地域社会のあらゆる人々の豊かさの実現を目指す地域総合経済団体である。その意味において、商工会議所の会費は、会員サービスの対価という面だけではなく、商工会議所活動を通じて地域社会全体の利益向上のため、地域社会に還元・活用されるという両面を持っていることを会員により強く認識してもらう必要がある。

③事 業 面
○会員ニーズに対応した事業活動を展開し自らの存在意義を高める
事業活動は、商工会議所と会員とを結ぶ絆であり、会員や地域社会の商工会議所に対する評価は、事業活動の実績によって決まると言っても過言ではない。商工会議所は、会員や地域社会が求めるニーズに的確に応えうる事業活動を展開し、会員はそれに参加することにより、会員メリットの享受と地域への社会貢献が達成でき、また、商工会議所も自らの存在意義を高めることができる。このため、会員企業が商工会議所の事業活動や機能を参加・活用するよう勧奨するとともに、参加・活用しやすい環境づくりに取り組むことが重要である。

○民間企業等の外部活力活用型の事業活動への転換が求められている
商工会議所の取り組むべき事業は誠に広範多岐にわたっており、そのいずれもが重要であるが、人材、財源などの経営資源は限られている。したがって、既存事業の見直しによる合理化・効率化は勿論だが、今後は、人材、財源などの経営資源について、従来のような行政依存型、自己完結型の事業方法を見直すことも必要である。これからは、商工会議所も企業家精神を持って、民間企業等の外部活力活用型の事業活動、すなわち、広く域内外の企業やネットワーク組織等と提携することにより、民間の能力を最大限活用する商工会議所事業の開発に向けた発想の転換が求められる。

以上、3つの側面から商工会議所の課題についての基本的な考え方を提案してみた。日本商工会議所は、商工会議所運営問題研究会のアクションプログラムの実施に向けて、各地商工会議所と一体となって早急にその具体化を図る必要がある。
そのうえで、日本商工会議所は、①全国の商工会議所との一体化を図りつつ商工会議所組織全体としての政策要望実現力の向上、②各地商工会議所が事業を実施しやすくするための環境整備(各地商工会議所への情報提供、情報ネットワーク社会に対応した商工会議所のためのインフラ整備、事業メニューやモデル事業の提示、全国的に実施可能な各地商工会議所の財政基盤の強化に貢献しうる事業の提案等)、③商工会議所の存在意義を全国にアピールするような情報の発信等を基本として、各地商工会議所のアクションプログラムの具体的展開に向けた取り組みを支援していく必要がある。
また、各地商工会議所は、地域の実情に応じて、アクションプログラムの中から取り組むべき課題と行動計画を適宜選択のうえ、事業活動を積極的に展開し、地域経済社会の活性化に取り組むことが期待される。
なお、その際、今後は地域の垣根を越えた経済活動の活発化や広域行政の推進により、各地商工会議所は、これまで以上により広域的な対応が求められることになることから、日本商工会議所は、商工会議所連合会との連携を図りながら、各地商工会議所の活動、特に小都市商工会議所活動への支援にも取り組んでいく必要がある。

3.これからの商工会議所の活動理念と行動指針

われわれ商工会議所は、「2.これからの商工会議所の役割と課題」を推進していくため、今後、以下の活動理念と行動指針に基づき、「地域社会のニーズに応え、行動する商工会議所」として諸活動を展開していくことを提案する。

(1)商工会議所の活動理念

わが国経済社会は今、21世紀を目前に控え、国内的にも国際的にも数多くの難問に直面し、歴史的ともいえる転換期を迎えている。
商工会議所は、この環境変化に対応した役割と責任を自覚し、21世紀における活力あふれる経済社会創出の牽引役として、地域経済社会、ひいてはわが国経済社会の発展のために、さらに一層の努力を尽くす。
このため、商工会議所は、地域社会のニーズへの適切かつ積極的な対応を図るとともに、地域における経済発展および伝統継承、文化創造の担い手として、わが国経済を支えてきた中小企業の一層の活性化に取り組み、豊かで活力ある地域社会の実現を図る。特に、経営者の自助努力・自己責任に対する意識改革を促しつつ、公正な競争条件が整備されるよう努め、厳しい競争にさらされ、試練に耐えながら環境変化への対応を迫られている中小企業の自助努力を支援する。
商工会議所は、全国的に組織の広がりを持つ地域総合経済団体として、緊密な連携のもと、総力を挙げてこれらに取り組み、わが国経済社会の発展に大きく貢献するため、新たな世紀の幕開けを迎えるにあたり、ここに力強く明日への第一歩を踏み出す。

(2)商工会議所の行動指針

○地域経済社会の声を代弁し、実現させよう
商工会議所に求められる最大の役割は、地域経済全体に係る諸問題の解決のため、地域経済社会の代弁者として意見を述べ、民間の力を結集した建議・要望活動を展開し、その実現を図ることである。地方分権の進展により、これまで以上に地方自治体へのきめ細かな対応が必要となるが、さらに、各地域の力を結集し、地域商工業者の声を国の政策に反映させることがますます重要となっている。また、これまでの単なる陳情型から要望実現型への脱却を図り、要望活動の進捗状況や結果を地域経済社会にフィードバックすることにより、商工会議所への理解と協力意識を一層高める。

○中小企業の経営基盤強化、経営革新に取り組もう
商工会議所は、地域中小企業、とりわけ、その太宗を占め、かつ、地域の伝統や文化を支えるなど地域コミュニティの中核的存在である小規模企業の経営基盤(ヒト、モノ、カネ、情報等)の強化、後継者の育成、経営革新に向けた様々な中小・小規模企業支援活動を展開するとともに、市場における公正な競争条件や再チャレンジが可能となるような経済的・社会的環境の整備に努める。また、地域雇用の重要な受け皿として、新規創業や新技術・新商品の開発、新たな事業分野への進出等を支援する。

○創業・ベンチャー企業の育成・支援、ビジネスチャンスの創出・拡大に取り組もう
商工会議所は、情報技術分野など今後成長が期待される分野における新産業・新事業の創出を支援するとともに、これらに取り組む創業・ベンチャー企業の育成・発展に全力を挙げて取り組む。また、商工会議所の総合性を生かし、会員間の新しいビジネスチャンスの創出・拡大に取り組む。

○中小企業・地域社会の情報化、ネットワーク化を支援しよう
商工会議所は、地域における情報拠点となるべく積極的に情報ネットワークに参画し、地域の情報発信の中心的な役割を果たすとともに、中小企業がネットワークに容易に参入し、それを活用した事業(電子商取引の普及・拡大等)を展開できるよう支援する。21世紀において、情報ネットワークは企業活動の基盤であり、商工会議所はその存在意義を賭けて、中小企業の情報化(情報リテラシーの向上等)を支援していく。

○中小企業・地域社会の国際化を支援しよう
商工会議所は、中小企業のグローバルな経済活動や地域社会の国際化を支援するため、海外投資環境情報、貿易取引照会情報等の提供を行うとともに、海外産地との経済交流、海外商工会議所との姉妹都市交流、国際コンベンションの誘致、海外の商工会議所との関係の強化などにより、地域の国際交流(ローカル・トゥ・ローカル)の推進に中心的な役割を果たしていく。

○「ものづくり基盤」の維持・強化を支援しよう
商工会議所は、これまでわが国経済の発展を支えてきた中小製造業の「ものづくり基盤(ものづくりを支える「ひと」に蓄積される技能・ノウハウ等)」の維持・強化を支援し、特に、専門的技能を有する人材の育成・確保と社会的地位向上に努める。

○地域づくり、街づくりでリーダーシップを発揮しよう
街づくり組織として重要な役割を担う商工会議所が、商店街や中心市街地の空洞化問題に対処し、都市機能の再構築を目指して、地方自治体の支援と協力のもとTMO(タウンマネージメント機関)の引き受け・運営等を通じて、地域の顔である商店街や中心市街地の活性化や地域間競争を踏まえた街づくりの推進に向けた活動をリードしていく。

○地域社会全体から求められる団体を目指そう
商工会議所は、地域づくり・街づくりのほか、地域社会一般の福祉の向上、つまり、地域社会全体の幸福を追求すべく、地域環境問題(リサイクル等)、地域福祉(介護等)、教育問題(地域の教育機能・教育力の向上等)などの事業に積極的に取り組むことにより、地域経済社会全体から必要とされる団体を目指す。特に、地方自治体から連携を求められ、頼られる存在として、これまで以上に重要な役割を担っていく。

○国や地方自治体の事業を積極的に担おう
地方分権一括法の成立や中小企業基本法の改正により、中小企業支援施策も国と地方の役割が分担される。商工会議所は、国や地方自治体が実施している中小企業対策や地域振興策等に係る事業について、国・地方のスリム化や施策の効率化の観点から、その見直しを積極的に提言し、商工会議所が担うに相応しい事業の積極的な実施主体となる。

○広域行政の実現を推進しよう
商工会議所は、小さな政府を目指し、将来の道州制の導入など行政の広域化を展望しつつ、地方分権の更なる進展を図るため、市町村の広域合併について前向きに取り組み、地域経済社会全体の利益の推進者となる必要がある。このため、広域的な視点からの意見集約・意思表示や事業展開ができるよう、行政および近隣商工会議所、他の経済団体との広域的な連携・提携を図っていく。もとより、商工会議所自らが行政の広域合併に先んじて、同一経済圏の商工会議所同士、あるいは、商工会議所と商工会との合併についても前向きに検討する。

○役員・議員・事務局一丸となり、新時代に対応した商工会議所組織・運営に取り組もう
21世紀を迎えるにあたり、商工会議所は、自らを取り巻く環境の変化を認識し、会員や地域社会が求めるニーズに的確に応えられるよう、上記の行動を起こすため、役員・議員・事務局が一丸となって、企業経営マインドを持って、新時代に対応した商工会議所組織・運営に取り組む。

以上、商工会議所は、この活動理念と行動指針に基づき、環境変化に機敏に対応しつつ、自己変革を図り(チェンジ)、政策課題に取り組み(ポリシー)、効率的で活力ある組織運営を行い(マネジメント)、企業家精神を持って事業を展開し(アントレプレナーシップ)、迅速に(スピード)行動する(アクション)。