政策提言・要望

日商・東商政策委員会意見書「わが国のIT革命の推進と中小企業のIT化支援」

平成12年7月17日
東京商工会議所

はじめに

 IT革命は、経済に力強いダイナミズムをもたらし、生産性の向上と新しいビジネスチャンスの拡大等長期的な経済発展の原動力になるものである。
とりわけ、わが国経済の太宗を占めダイナミズムの源泉である中小企業のIT化の促進は極めて重要な政策課題であるが、現状をみると一部において積極的にIT活用を進め、ビジネスチャンスを拡大している中小企業があるものの、圧倒的多数の中小企業がIT革命の波に取り残されつつあることも事実である。このため、日本商工会議所としても中小企業の情報化促進支援活動を21世紀に向けての最重点事業「商工会議所ミレニアム・プロジェクト」として位置づけ、全力を挙げて取り組んでいるところである。
こうした中、政府においては、IT戦略本部とIT戦略会議を設置し、IT先進国の仲間入りを目指して、官民挙げてのIT革命への取り組みの推進が打ち出されたことは、誠に時宜を得た決定であり、わが国におけるIT戦略が大きく前進することを期待している。また、来る7月21日から沖縄において「先進国首脳会議(G8サミット)」が開催され、知的財産権の保護、課税問題、セキュリティ対策などIT革命を促進するための国際ルールの整備や規制緩和の推進、南北間の情報技術格差対策等が討議されるところであるが、森総理大臣の強力なリーダーシップのもと各種対策の合意と実現に向けて、大きな成果をあげられることを望むものである。
ついては、政策委員会として、わが国のIT革命の推進、特に中小企業のIT化支援ならびに南北間のデジタル・ディバイド(情報技術格差)是正に向けて、政府が以下の事項について積極的に取り組まれるよう意見を申し述べる。

1.IT活用による中小企業経営の革新

(1)中小企業のIT化支援

中小企業のIT化を推進するためには、まず中小企業経営者のIT化の必要性と有効性について理解を進めるとともに、経営者や従業員の情報機器の操作能力の向上が不可欠である。このため、政府は、ITに関するセミナー・講習会の開催や成功事例・失敗事例の収集・提供等を官民連携のもとに行い、経営者の意識変革と情報リテラシーの向上に取り組むとともに、ソフトウェアの開発・共同利用について支援策を拡充すべきである。
日本商工会議所としても、ミレニアム・プロジェクトにおいて、中小企業者への格安パソコンの斡旋、情報リテラシーの向上、ソフトウエアのレンタルサービスを行うアプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)事業等を推進しているところである。
また、中小企業者が戦略的な情報化投資を立案するに当たって、的確な指導・助言を行えるパートナーの育成・確保が重要であり、現在政府で検討されているITコーディネーター制度を早期に実現されたい。
さらに、日本商工会議所では、中小企業のIT化について気軽に相談に応じ、必要があればITコーディネーターにつなぐなどの活動を行う"ITヘルパー制度"(大企業や情報関連産業の退職者を活用)の仕組みを検討しているが、政府は、中小企業支援の中心的役割を担っている全国300カ所の地域中小企業支援センター等にITヘルパーを配置するなど、体制強化を図られたい。

(2)IT(情報技術)とMT(製造技術)を融合した次世代ものづくりシステムの構築

経済新生のため、政府は、わが国の産業競争力の基盤である"ものづくり技術・ノウハウ"のデジタル化の推進など、全てのものづくり産業のITとMTとを融合した新しいものづくりシステムへの移行を戦略的に推進すべきである。このため、特に金型産業など日本国内で伝承していくべきものづくりの基盤技術分野を特定し、ソフト開発や情報技術者の育成支援等への政府予算の重点投下や税制・金融面での思いきった促進策の導入などを図られたい。

(3)情報通信機器購入等IT投資への税制優遇措置の拡充

情報通信機器の進歩のスピードは年々加速化してきており、現行税法上の償却期間(購入6年、リース4年)は実態に合わないものになっていることから、取得価額20万円以上の情報通信機器の償却期間の短縮(各々3年、2年)が必要である。また、少額資産に関する損金算入の特例(現行限度額10万円)については、IT関連のハード・ソフトについて限度額を30万円に引き上げられたい。さらに、特定情報通信機器の即時償却制度(パソコン税制)については、期間の延長に加え、そもそも資産計上しなくてもよい制度にするなど、税制面の優遇措置の拡充を検討されたい。

2.IT革命推進のための環境整備

(1)ネットワーク社会に対応した法制度の整備と国際調整

IT革命を推進していくためには、ネットワーク社会に対応した法制度の整備など新しい情報環境に対応した国内システムや制度の整備と国際的な整合性の確保が必要である。
このため、政府は、「ネット株主総会」の実現に向けた商法改正をはじめ、電子商取引促進のための電子署名・電子認証、電子決済、プライバシー保護、消費者保護等に係る法整備(ネットサービス法(仮称)の制定など包括的法制度の整備)、さらにサイバー・セキュリティ対策、知的財産権や課税問題への国際的な取り組みを一層加速化させる必要がある。
また、コンピュータやネットワークを利用したビジネスの手法等に関するビジネス・モデル特許については、今後特許の侵害をめぐる訴訟が国際的に増加することが予想されるので、特許の審査基準の調和とその前提となる先行技術に関するデータ・ベース整備に向けて国際的な協力を推進されたい。

なお、電子商取引の阻害となる書面交付、署名捺印義務等の諸規制の解除・代替方法や著作物の再販制度の廃止などについても検討が必要である。

(2)安価で利用しやすい情報通信ネットワークの整備

IT革命の成果を享受し、企業活動の発展につなげたり、国民の便利で豊かな生活を実現していくためには、安価で利用しやすい情報通信ネットワークの整備が重要である。このため、政府は、必要な法改正を進める等により、ネットワーク事業者の有効な競争が促進される環境整備を図るとともに、欧米並に低廉かつ定額化された利用料の早期実現を図られたい。

(3)国・地方の電子政府構築の早期実現

政府部門等の情報化は、行政サービスの向上、業務効率の向上、行政の情報公開の促進につながるとともに、民間企業等のIT投資促進にもつながると思われる。このため、政府ならびに地方公共団体は、情報弱者にとって行政サービスの低下につながらないよう配慮しつつ、わが国におけるIT革命の先導役として、①単一のウェブ・サイトによる各種行政情報の公開、②官公需情報の提供ならびに入札の電子化、③貿易手続EDI、決済EDIの推進をはじめ各種許認可・届出の手続等の電子化によるサービスの向上(24時間受理体制の整備)等を積極的に推進すべきである。

3.南北間の情報技術格差の是正など国際貢献の推進

 IT革命がわが国のみならず世界的規模で経済社会のあり方を大きく変えつつある中で、多くの発展途上国では、情報通信ネットワークなどIT革命の基盤となるインフラの未整備等のため、先進国と発展途上国間(南北間)の情報技術格差(デジタル・ディバイド)が拡大していくことが危惧されている。
このため、政府は、国内のデジタル・ディバイドの解消に努める一方、南北間のデジタル・ディバイド解消にも貢献すべく、IT分野に特化した政府開発援助(IT・ODA)の創設等により、発展途上国の情報通信インフラの整備やIT奨学生の受け入れ、現地でのIT教室の主催など、IT関連人材の育成支援に取り組むとともに、電子商取引の促進に必要な国際ルールの確立など、途上国が情報ネットワークを活用したビジネスに円滑に参入できる環境整備に積極的に貢献すべきである。
なお、発展途上国におけるIT革命促進のため、IT関連企業の創業融資制度「ジャパンITファンド(仮称)」の創設も検討されたい。

4.沖縄地域振興

 沖縄経済の自立化と産業振興は、わが国の極めて重要な政策課題であり、日本商工会議所としても全国の商工会議所の連携のもとその推進に協力しているところである。沖縄県では、情報産業を重点産業と位置づけ、「沖縄県マルチメディア構想」のもと情報関連企業の誘致に積極的に取り組んでいるところであるが、沖縄の歴史的・地理的条件などからみて、アジア太平洋の情報通信ハブ基地としての役割が期待されている。
このため、政府は沖縄県と緊密な連携のもと、通信コストの大幅な低減措置の拡充や法人税・所得税の減免など税制上の優遇措置の拡大等により、情報通信関連企業の誘致を積極的に支援されたい。