政策提言・要望

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提言「東京・リボーン ―東京再生から始める活力の創造―」

2002年4月11日
東京商工会議所

<はじめに>

 現在の我が国は、バブル経済崩壊後の長い経済の不況と、厳しいグローバル化の波の中で、新たな発展への道筋を見出せずにいる。

 その中で、東京商工会議所は、直面している困難な課題を克服し、変革の時代を乗り越え、21世紀の新しい時代に相応しい希望に満ちた『健康な日本』の創造を大きな使命として掲げ、様々な行動を行う決意を表明している。

 『日本が健康になる』ためには、社会・経済活動の中心である都市、とりわけ、首都東京が、世界の都市との国際競争に打勝つ魅力ある都市に再生されることが強く求められている。

 今、日本は社会経済構造の変化に対応すべく、抜本的な構造改革に取組んでいる中で、都市再生は国家戦略的課題として認知されている。政府においては、小泉首相を本部長とした都市再生本部が始動し、都市再生特別措置法も制定される運びとなった。東京都においても、「東京の新しい都市づくりビジョン」を発表するなど、本格的な都市再生に向けた態勢が急速に進展している。

 東京商工会議所は、こうした都市再生に向けた一連の動きを全面的に支持しているが、さらに東京再生をより魅力的に、かつ迅速に進めていくための道標として、以下に記す『東京・リボーン』―東京再生から始める活力の創造―を提言し、積極的に取組んでいく所存である。

提言



<Ⅰ.東京・リボーン10か条>

 われわれは、活力ある首都東京を創造していくためには、東京で生活する、あるいは活動する人々に、共有の価値として理解してもらえるような都市づくりの目標を掲げ、そうした都市の実現に向け、都市づくりに係わる様々な主体が同じ方向に向かって具体的なアクションを起こせる環境を整えていくことが必要であると考えている。そこでわれわれは『東京・リボーン10か条』を掲げ、ここに示すものである。

東京・リボーン10か条

1.明確な『個性』を持った都市。

2.利便性や効率性が高く、生活者にとって『ゆとり』を享受できる都市。

3.新旧の多様な『文化』を味わえる都市。 

4.美しい『景観』のある都市。

5.健康・安全で『安心』して暮らせる都市。

6.すべての人にやさしく、良好な『環境』が用意されている都市。

7.国内外からの『投資』を引き付ける都市。

8.『新たな産業』を創出する都市。

9.ヒト・モノ・カネ・情報・知恵が国際的に『交流』する都市。

10.世界に誇る『国際競争力』のある都市。

<Ⅱ.東京・リボーン10か条の実現に向けて>

 『東京・リボーン10か条』を実現していくためには、20世紀に培った、人材・技術・資本を最大限活用し、21世紀に相応しい都市づくりを推進していく必要がある。

 欧米の先進都市に加えて、アジアの近隣都市も急速な勢いで、国際的な都市間競争に参加し始めた現在、東京においても、これまでにないスピードで都市再生に取組むことが求められている。

 そのためには、東京商工会議所をはじめとする民間と行政とが一体となって目指すべき都市像を明確にした上で、ハード面での水準向上と、ソフト面での施策の実施が不可欠である。

1.国際都市東京に求められる都市像  

 東京が真の国際都市となるためには、明確な個性を持たなければならない。そのためにはまず、職・商・政・創・食・住・遊・憩・健・学・育・文化などの都市機能を集積させるまちづくりを行っていく必要がある。これらの優れた都市機能の複合・競合的魅力の発揮が、東京の国際競争力を高めることにつながる。

 東京都が策定した「東京の新しい都市づくりビジョン」におけるセンター・コア再生ゾーンと東京湾ウォーターフロント活性化ゾーンなど、ポテンシャルの高い地域においては、こうした機能の充実を図るために、集中的に短期間で従来の発想にとらわれない都市づくりを行い、世界に向けて21世紀型の都市のモデルを提示していくべきである。

 また、それ以外の地域では、特色を生かしたまちづくりによって地域の活性化を行う必要がある。歴史や文化、特色ある産業の集積など、その地域に根差した独自の強みをより明確にし、住民をはじめとする地域で活動する者にとって、親しみやすく誇りに思える個性ある地域の姿を生み出さなければならない。

 そのためには、住民、企業、NPO、地方公共団体など多様な主体の参加が不可欠である。こうした活動が活発化することは、失われつつある地域コミュニティの再生にも繋がり、都市全体の活力の増進や、まちの安全性の向上など、様々な効用が期待できる。  

 一方で、こうした地域づくりを実現していくためには、適切な予算の確保、寄付に関する優遇税制のさらなる拡充、まちづくり専門家の派遣など、NPO等を含めた民間の開発事業者に対する制度面での総合的な支援が不可欠である。  

2.首都東京に相応しい基本インフラと施設の整備

 日本の大都市構造のウィークポイントとして、交通基盤の未整備が指摘されている。そこで、首都東京においても、首都圏三環状道路についてのみならず、整備が遅々として進んでいない他の都市計画道路についても、都市再生の観点から、優先順位を付け、完成目標期限を定めた上で、迅速に対応していかなければならない。

 また、日本の玄関口となる首都圏の空港や港湾施設についても、隣接するアジア諸国との熾烈な競争に打勝つ視点と、綿密な需要調査をもとに、迅速な対応が必要である。特に、羽田空港の再拡張と国際化、成田空港の本来計画通りの平行滑走路完成については早急に実現していくべきである。同時に、空港と都心部、両空港間をそれぞれ30分程度で結ぶための交通アクセスの整備も進めていくことが求められる。

 さらに、都市の安全性の観点から、火災、震災、水害などの災害に強い都市整備に取組む必要があり、特に、木造住宅密集地域の解消、河川、堤防、下水道等の整備促進は不可欠である。

 東京をはじめとする大都市には、21世紀に必要とされていながらも、依然として未整備な社会資本が多く残されている。こうした足らざる社会資本を迅速に整備していくためには、国においても歳出構造を大きく変え、大都市圏に優先的かつ重点的に財源を配分していくとともに、民間投資を呼び込めるような施策を講じていかなければならない。特に、上記に述べた道路交通網および空港の整備、防災都市づくり、さらには港湾の機能的な整備など、これからの東京再生に資する都市基盤整備については、民間投資を誘発する効果も高いため、それを推進するための財源を確保すべきである。そしてPFI等、民間の資金も積極的に活用していく姿勢が必要である。また、公益と私権の調和を充分考慮した上で、土地収用法の積極的な活用に留意していくべきである。

 一方、メガシティと呼ばれる世界の大都市の課題である高度空間の利用や、良好な環境を東京で実現するには、敷地を統合化した上で、緑地、空間を最大限確保できる超高層建築の導入、特定の地区については日影規制を緩和させ、建物の形態規制から絶対高さ規制に移行させることによる街並み景観創出等の手法も有効である。これにより、都心部では多様な機能をコンパクトに集積させることで、経済的、時間的、空間的な「ゆとり」が生まれ、東京の国際ビジネスセンターとしての機能と、災害対策を含めた生活面での機能の充実が図られる。さらには昼夜間人口格差等のアンバランスな都市構造を是正することも可能となる。同時に最新の耐震・制震技術を積極的に導入し、建物から逃げ出す都市から、建物へ逃げ込むことのできる都市づくりを実現する。

 上述した事項の実施にあたっては、以下の観点からの考慮も必要である。まず、環境・省資源の観点から、美しい都市景観の実現、ヒートアイランド現象対策、100年建築によるライフサイクルコスト抑制、地域冷暖房システムの導入なども重要である。

 また、ユニバーサルデザインの都市づくりの視点から、公共・民間施設のバリアフリー、行政・交通機関・観光関連施設等のサイン計画の統一化などは早急に実現されなければならない。

 3.ITの有効な活用  

 ITの進展は、従来にないコミュニケーションの実現と、東京が抱える都市問題を解決する可能性を秘めている。これまで、都市の課題は、居住水準の向上、オープンスペースや緑の確保、都市計画道路の整備や鉄道輸送力の強化、空港や港湾機能の拡充など、都市基盤整備の遅れや不足に対応したハード整備が中心となってきた。

 これに対して、ITの進展は、多様化するライフスタイルと都市活動への適切な対応を迅速に生み出すだけではなく、ヴァーチャルな時空間での処理が可能となるため、ハード整備の負荷を下げたり、整備に時間がかかる間の補完的な手段としても十分有効に機能するのではないかとの期待が込められている。

 また、SOHOとテレワーク、eコマースと物流システム、総合交通情報システム、遠隔学習システム・遠隔医療システムなど、ITの活用による都市の課題解決の糸口はすでに見えてきている。

 さらに、具体的な対外発信の手法としても、東京の持つ多様な都市の魅力を、絵、活字、映像などのデータとして整備し、ITを活用して、これを『東京コンテンツ』として世界の人々に紹介することが可能となる。

 現在東京都では、首都圏再生の観点から「3300万電子都市」の構築に向けて、光ファイバー網の整備のあり方、電子都市の活用方策、電子都市に相応しい自治体連携のあり方について検討している。世界の都市と比較しても、インターネットの普及、ブロードバンドの導入、電子政府などの高度情報化が遅れている現状に鑑み、電子都市の実現に向けた取組みを早急に推進されたい。また国においては、この東京都の取組みを積極的に支援すべきである。但し、電子都市の推進にあたっては、個人・企業の機密情報の保護や、サイバーセキュリティの強化が必要であることは言うまでもない。

4.世界をリードする産業の創造・育成

 国内外からの投資を引き付け、また新たな産業を創出し、ヒト・モノ・カネ・情報・知恵が国際的に交流する都市を実現するには、国家戦略的な見地が必要である。特に海外からの投資を阻害する障壁を取除くこと、そして経済活動を牽引し、集積するに相応しい産業を創造・育成していくことが重要である。

 特に、経済波及効果の高い観光関連産業の育成、国際的に評価の高いアニメーションなどのコンテンツ産業、アミューズメント関連産業、先端的なライフサイエンス関連産業、IT関連産業など、東京ならではのリーディング産業を迅速に創造・育成していくべきである。    

 また、産業あるいは都市を支える基礎として、人が最大のソフトインフラであることを忘れてはならない。人材育成・人的交流促進という観点からも、教育・研究のハブ機能を確立することが不可欠である。それによって、世界をリードする産業の創出が、より具体的な可能性を秘めてくるのである。

<Ⅲ.東京再生を迅速に実現する都市政策への要望 >

 東京再生をより迅速に、かつ有用なものとしていくためには、都市づくりにおいて、従来の都市政策からのパラダイムシフトを促し、一極集中性悪説から脱却し、集積の効用を見直した政策の誘導を図らなければならない。その推進のために、次のような施策や制度の早期実施、あるいは不要な制度を廃止していく必要がある。

1.「都市再生特別措置法」の有効な運用に向けて

 本国会にて「都市再生特別措置法」が成立した。本法は、時間と場所を限定して民間の力を活用し、都市再生を強力に推進することを目的としている。東京商工会議所は、本法が極めて短期間に提案され成立したことに敬意を表するとともに、このことは、日本の再生には都市再生の実現が不可欠であるという、政府の強い意志の現れと受けとめている。  

 今後、本法を実効あるものとすることこそが、東京再生を図る上で、極めて重要であるとの認識から以下の点を要望する。

(1)目標の実現に対する責任の明確化

 都市再生本部が政令で指定する「都市再生緊急整備地域」が「地域整備方針」に沿って確実に整備されるよう、関係地方公共団体等と充分な協議を行い、本部、国の関係行政機関、関係地方公共団体が責任を持って民間事業遂行の円滑化を図られたい。

(2)「都市再生特別地区」の積極的な運用

 既存の用途地域等による規制を適用除外とし、自由度の高い計画を定めることのできる「都市再生特別地区」を、民間の力を引き出すための制度として有効に活用する必要がある。そのためには、地方公共団体において、「都市再生基本方針」や「地域整備方針」の主旨に則り、積極的に「都市再生特別地区」の指定を行い、既存の再開発地区計画等とは異なる大胆な運用を図られたい。

(3)事前協議の短縮

 都市計画の提案と法定再開発等の事業認可申請の並行処理や、事業認可そのものの期間の明示により、都市計画に係わる事業の手続き期間の明確化と短縮が図られているが、本来の手続きに至る以前の事前協議等においても、期間を明確にし、スピーディな対応を図られたい。

(4)税制上の措置

 民間プロジェクトに対する金融支援を図るため、「民間都市再生事業計画」の認定制度が設けられたが、より一層の開発促進や業務・商業施設等の早期整備、企業等テナントの誘致による都市再生の推進のために、税負担の大幅な軽減措置を講じるなど、思い切った税制改正が必要である。

2.時間リスクの軽減と事前明示性の確保等

 民間の都市開発プロジェクトは、完成までの時間が長引くほどコストがかさむため、時間のリスクが大きければ民間事業者の投資を呼び込みにくい。

 都市再生本部では、「手続きの並行処理などによるスピードアップ」、再開発地区計画における建築計画が定まらない段階での実現可能な容積率の明示による「事前明示性の確保」、あるいは「民間投資を誘発する完了寸前の都市計画道路の強力な整備」のための、予算の集中投入と必要に応じた法手続きへの移行等について、緊急に制度改革として取組むことを決定しており、こうした点に関しては、地方公共団体の運用の改善が望まれる。特に、環境アセスメント条例に基づく手続きや埋蔵文化財調査手続きの簡素化と円滑化、並行処理行政窓口の一元化等による期間の短縮については早急な検討が望まれる。    

 また、東京都が進める政策誘導型の都市づくりを現実のものとするためには、民間の積極的な事業参画が大きな意味を持つ。そのためにも、再開発地区計画における「見直し相当容積率」の事前明示等、民間の開発・投資意欲を高めるための具体的な手立ての導入が必要である。また、こうした動きを法制度として担保する「都市づくり基本条例」(仮称)が早急に制定されなければならない。それによって、区レベルでの「街並み再生方針」(仮称)が打出され、「街区再編プログラム」(仮称)等の手法を用いることによって、細分化された敷地の統合化やオープンスペースの確保が実現されるなど、質の高い都市空間の創出が可能となる。

3.首都機能移転問題について

 東京商工会議所は首都機能移転の議論について、従来より一貫して、断固反対の立場にたっている。平成2年に国会で決議された当時とは社会経済情勢が大きく変化しており、移転の意義そのものを根底から再考すべき状況にある。構造改革の推進と首都東京の魅力向上を優先させ、限られた財源を東京圏における都市基盤整備に重点配分することこそが国益に適う選択であり、国会等の移転に関する法律の廃止と国会等の移転に関する決議の白紙撤回を強く望む。

4.首都圏の既成市街地における工業等の制限に関する法律

  (工業等制限法)の早期廃止

 同法については、法制定時の所期の目的を達成する手段としての有効性・合理性が薄れている。大学と産業界との一層の連携を促し、新たな産業を創出し、また職住学が混在した活力ある都市を創造していくためにも、早期に廃止すべきである。

<Ⅳ.東京商工会議所の役割>

東京商工会議所は、現在の政府・東京都の都市再生に関する方針を支持し、これらが早期に実現するよう協力していくとともに、民間企業を会員に擁する地域経済団体として、東京再生の中心的立場を担う所存であるが、今後の取組み等について、以下に提示したい。

1.まちづくりNPO『地域創造センター(仮称)』の設立検討  

 東京が個性ある多数の地域の集合体として総合的な競争力を持っている点に鑑み、それぞれの地域が自らのビジョンを構築し、実際の活動に移していけるよう、地域内の産・官・学・市民の連携の核として東京商工会議所支部の機能を活用し、地域の多様な人材の活用とネットワーク化を図り、活動の場や事務局機能の提供を行っていく。

 より具体的には、多面的・総合的なまちづくりを支援する地域まちづくりNPO『地域創造センター』(仮称)の設立検討や、東京都が創設を構想している『街並みデザイナー制度』等への協力などである。

2.民間開発の資金確保へのバックアップ機能の調査研究

 都市再生の実現のためには、収入の見込めない「プロジェクトの企画開発段階」で発生する資金需要(例えば、土壌汚染の調査・処理費用、まちづくりのプランニング費用)および、収入はあるものの投資回収が長期にわたる建設運営段階でのファイナンスへの対応が不可欠である。

 このため、国、地方公共団体、日本政策投資銀行等とタイアップし、こうした資金面でのボトルネック解消のための方策を検討する。また、その中で、プロジェクトファイナンスや、相互扶助の信頼関係を担保にした融資の枠組みであるコミュニティクレジットなどの新しい金融手法を会員企業に積極的に広報するとともに、そうした仕組みの中で商工会議所としての果たす役割を検討していく。

3.東京シティセールスへの積極的な協力

 東京が国際都市としての地位を高めていくためには、東京の魅力を世界に発信していかなければならない。とりわけ観光は、関連産業の裾野も広く経済波及効果も高い産業であるため、政府においても『観光省』の設置なども視野に入れ、大胆でインパクトのある観光政策を推進して行くべきである。

 もとより現在、東京都は「千客万来の世界都市・東京」を目指し、観光に力を注いでいるが、東京商工会議所としても、その発足時から全面的に支援している東京コンベンション・ビジターズビューローと連携し、東京のシティセールスについて積極的に協力していく所存である。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所