政策提言・要望

労働政策に関する要望

平成14年7月11日
東京商工会議所

 景気見通しには若干改善の兆しも見られるものの、構造要因による高失業率など厳しい雇用情勢が大きく回復することは当面期待できない。雇用の改善に向け今後とも景気対策による経済の安定化と情報・サービス等の新規・成長産業分野の育成、国際競争力強化に向けた積極的な産業政策が望まれる。とりわけわが国雇用者の大多数を抱える中小企業、新産業の活力を担う小規模ビジネスの創業を強力に支援し、新たな雇用創出に結びつけることが重要である。
 一方、急速な少子高齢化の進展は将来的な労働力人口の減少と人口構成の急激な変化をもたらす。製造業からサービス業への産業構造の転換や労働者の就業意識の多様化等も含め社会経済の大きな構造変化は、「正規・常用・終身雇用」を前提とした従来の労働政策の大きな転換を迫るものとなっている。
 わが国企業はいま経済グローバル化と競争範囲の拡大という状況下で、市場の不確実性への対応やリスク管理を重視している。投入する労働の質と量、これにともなう費用について柔軟に対応できる雇用戦略を志向している。特に中小企業においては価格低下による収益力悪化が著しく、労務費管理を含め抜本的な経営改革を余儀なくされている。
 これからの労働政策においては、国際市場で競争可能な労働生産性の実現に向けた環境整備が重要である。企業の積極的な経営革新を可能とする「労使自治」を基本とした労働法制への転換をはかり、「働きやすく、雇いやすい雇用労働環境」を整備することが急務である。また、労働市場の規制改革により労働移動を円滑化するとともに、労働者の主体的な職業能力開発を積極的に支援するシステムづくりを進めるべきである。
 さらに、デフレ経済下でも高水準で推移する賃金等、わが国企業の構造的な低収益性、硬直性が顕在化している。企業としても市場原理から大きく乖離した労務コスト等を抜本的に見直す必要がある。「生産性と働き方に応じた人事・賃金制度」など、企業自らの構造改革が緊要な課題であり、労働行政や労働組合など関係各方面においても充分な理解が求められる。
 以上の認識のもと、今後の労働政策のあり方について以下のとおり要望する。

要望


1.多様な働き方を可能とする労働基準の確立
(1)有期雇用、裁量労働制の見直し
 労働者の就労形態の多様化、成果・業績重視の人事・賃金制度の広がりといった環境変化のなかで、新しい働き方に対応した労働基準法制の見直しを行う必要がある。
 有期雇用契約については、労使双方にとっての選択肢を増やすべく、契約期間の上限である現行の原則1年を撤廃し(労基法第14条の削除)、民法626条の適用に戻すべきである。
 裁量労働制は、「企画業務型」裁量労働制の導入要件及び手続きを大幅に簡素化し、「労使協定方式」を基本とすべきである。また、業務の遂行の方法を大幅に労働者に委ねる本来の趣旨から、みなし労働時間制ではなく、米国のホワイトカラーエグゼンプション制のように労基法41条に定め、労働時間等に関し労基法上の規定の適用除外とすべきである。さらに中長期的には、裁量労働制の適用対象を「専らルーティン業務を行う者」以外のホワイトカラー労働者すべてに拡大する方向で検討する必要がある。

(2)短時間勤務・在宅勤務などへの法制面での対応
 経済のグローバル化、ソフト化、サービス化などを背景に、短時間勤務、在宅勤務やSOHOなど、現行の労働法制で網羅できない新たな働き方・労働者が増えており、企業の労務管理上、難しい問題も生じてきている。従来の長期正社員を一括的に捉えた法制を多様な働き方・雇用形態に即した労働法制に見直すべきである。
 なかでも近年広がりを見せる短時間勤務に対応して、企業としては就業規則の「兼業禁止規定」の見直しを行う一方、政府としてはダブルジョブホルダーやマルチプルホルダーに対する労働法制(労働時間・休日・有給休暇など)、社会保険の適用ルールの確立などの条件整備が課題である。

(3)解雇ルール化には慎重な対応を
 企業の解雇権は法令上、原則自由であるにもかかわらず、司法判断の権利濫用法理の適用により実質的な制約が加えられてきた。特にいわゆる「整理解雇4要件」はこれまで経営改善をはかろうとする企業に過大な負担を課すものとなってきた。
 グローバル競争下にある企業の厳しい経営環境、雇用形態の多様化や労働市場の変化を踏まえれば、労働者全体の雇用を改善する観点に立ったとしても、経営改善をはかるための整理解雇に4要件すべてを一律に満たすことが妥当性を維持しているとは言いがたい。
 現在議論されている解雇要件・手続きのルール化は、実務面での基準が明確になり予見可能性が確保される一方、企業の解雇権に一律に一定の制約を課すものともなりうる。近年、司法判断が要件緩和の方向に転換しつつあること等をも勘案し、解雇に関するルール化は拙速な結論づけを避け、中小・零細企業への影響等にも特に留意しつつ慎重な対応が望まれる。

(4)最低賃金制度のあり方の再検討
 近年のデフレ経済化でも右肩上がりの上昇を続ける最低賃金額の動向は、収益力の低下した中小企業の経営をさらに大きく圧迫するもので、到底受け入れがたい。制度の本来的な趣旨通り、現下の物価(生計費)の動向、企業の業績(賃金支払い能力)を適正に反映するシステムに見直すべきである。
 中央最低賃金審議会が地方に対して最賃改定の「目安」を提示する従来の仕組みは見直すべき時期に来ている。地方最低賃金審議会が地方それぞれの経済、賃金動向や企業業績を充分に踏まえ、主体的に決定する方式を重視すべきである。また、「地域別最低賃金」が定着している現在、これに屋上屋を架す「産業別最低賃金」については絶対に廃止すべきであり議論の余地はない。中央最低賃金審議会での早急な結論が望まれる。

(5)一方的な通達行政の見直し
 労働安全衛生行政において去る2月、過重労働に関する行政通達が出されたが、労働の実態が業種や規模、職種で異なるにもかかわらず、週45時間以上の労働が一律に過重労働と見なされかねない内容となっている。業務の内容、作業環境、労働者の年齢その他の要因についての記載もなく、過度に企業に重い責任を負わせるもので著しく均衡を欠くものである。
 こうした行政通達の内容が労働基準監督行政等を通して、そのまま実質的な規制となり、延いては産業活動全体に重大な影響をもたらす惧れがある。企業の現場の実態、産業界の意見を充分に踏まえないまま策定される一方的な通達行政のあり方を見直すべきである。

2.有効かつ効率的な労働市場とセーフティネットの構築
(1)労働市場の改革
① 労働者派遣法・職業紹介事業の規制緩和
 深刻な雇用情勢が続くなかで、雇用機会の拡大をはかることが喫緊の課題となっている。労働者が多様で柔軟な働き方が選択でき、企業もフレキシブルな雇用戦略が可能となるような雇用システムと、「失業なき労働移動」に向けた効率性の高い労働市場の整備を進めるべきである。
 まず、労働者派遣法の規制緩和が不可欠であり、現行原則1年の派遣期間制限を撤廃するとともに、「物の製造の業務」をはじめ医療関係業務など派遣の対象から除外されている業務を早急に認めるべきである。また、民間職業紹介における求職者からの手数料徴収についてのさらなる自由化、責任者制や海外人材の紹介にかかる規制や運用の見直しを急ぐべきである。

② ハローワーク事業の民間委託
 雇用のミスマッチを解消し、早期再就職を促進するためには、ハローワークと民間の人材ビジネスとが有機的に連携し、求人・求職情報の収集・活用、カウンセリングやマッチングなどの需給調整機能を一段と強化する必要がある。大都市部のハローワークでは急増する求職者への対応の比重が高まり、求人開拓やマッチングが不充分となるなど機能の低下が指摘されている。
 このため特に大都市部を中心にハローワーク事業の一部について、民間の人材ビジネスの機動性や柔軟性を活かした求人開拓、アウトプレースメント会社の再就職訓練技法(心理的情緒訓練、面接訓練など)を導入するなど、民間への事業委託を積極的に進めるべきである。

(2)雇用対策の充実
① 若年層・中高年層対策の強化
 若年層の失業問題の背景として職業意識の低下が広く指摘されており、「インターンシップ」の拡大が重要である。特に中小企業でも制度が導入できるよう企業と学生をマッチングさせる仕組みの整備、受け入れ企業への政策支援の充実が望まれる。また、常用雇用に向けた「トライアル雇用(試行就業)」の拡充、「紹介予定派遣」の普及が有効である。 
 中高年ホワイトカラーについても円滑な労働移動をはかり、特に中小企業において能力を有効発揮することが期待される。失職直後のカウンセリングの強化、キャリア評価制度や訓練システムの整備をはかるとともに、企業のアウトプレースメント会社の活用や就業中の再就職活動支援などに対する助成措置を拡充すべきである。

② 高齢者雇用の拡大・定着
 少子高齢化の進展、公的年金の受給開始年齢の引き上げ等を背景に、高齢者雇用の推進が社会的要請になっている。企業としても将来的な労働力人口減少と人材確保難を先取りし、豊かな経験、知識や技能、充分な体力を有する高齢者の有効活用を企業の競争優位の源泉として位置付け、戦略的に雇用拡大をはかることも重要である。
 企業においては、職務に応じた賃金体系の見直しや高齢者向けの適職開発、勤務形態の弾力化等に積極的に取り組むことが課題となるが、当面実施に伴う負担増は避けられない。したがって、高齢者の雇用拡大に向けた各種助成金制度のさらなる拡充をはかるとともに、公的年金制度についても高齢者の就業を促進する仕組みを検討すべきである。

(3) 雇用保険制度運営の効率化
 失業者の増加によって雇用保険財政が悪化しているが、雇用保険料の再引き上げは厳しい経営状態にある中小企業に過度に負担を強いるもので、断固反対である。保険財政の改善に向けては、保険事業全体に亘る徹底的な見直しを行い、効果的かつ効率的な制度運営をはかることを最優先課題とすべきである。
 特に失業給付の水準については、基本手当の高い層の給付水準の見直し、再就職意志確認など失業認定基準の見直しが不可欠である。また、教育訓練給付制度は受講者の再就職や職業能力の向上に結びつく講座に限定するとともに、給付率と上限額の見直しなど、適切な自己負担のもとで主体的な能力向上を促す制度に再構築すべきである。
 雇用保険三事業は限られた財源のもと、利用実績と効果に基づいた適正な評価により必要性の高いものに重点配分し、併せて手続き面での簡素化をはかるべきである。

3.労働者主体の職業能力の開発・向上
(1)主体的な能力開発を支援する税制上の優遇措置
 就業構造や労働者の就業意識の変化、高学歴化などの環境変化により、新規学卒者を採用、育成し定年まで雇用する終身雇用慣行が徐々に変容するなかで、企業主体の能力開発、人材育成の見直しが広がりつつある。むしろ今後は個々の労働者が主体的かつ自らの責任において能力開発に取り組むことが重要であり、わが国の国際競争力の強化等の観点からもこれを政策的に支援していく必要性は高い。
 現行税制では個人が「職務に直接必要な」職業能力開発のために支出した費用について「特定支出控除」があるが、内容的に不充分で実際の利用も限定的である。個人が自らのキャリア形成のため職業能力の開発を行った場合に、その費用を給与所得から控除できる税制上の優遇措置を講ずる必要がある。

(2)キャリアカウンセリング機能の強化
 労働者の主体的な能力開発には、本人の能力や適性にもとづいて適切な職業生活設計についてコンサルティングを行う仕組みが重要である。米国ではこの仕組みが企業内ではもちろん、民間ビジネス分野で労働者主体のキャリア形成や円滑な労働移動に有効に機能しており、わが国でもキャリアカウンセリング機能を社会インフラとして整備すべきである。
 キャリアカウンセリング実務者の民間の資格認定制度も広がりを見せているが、政策的にもカウンセラーの育成支援とその有効活用を重点化していく必要がある。ハローワークや労政事務所等の公的機関に資格者を適正配置していくとともに、大都市部など一定規模のカウセンリング業務については民間への業務委託を積極的に進めるべきである。

4.その他
(1) パート労働者の処遇改善は正社員の処遇見直しと併せて
 正社員とパートタイム労働者の処遇格差について、日本型均衡処遇ルールの法制化、ガイドライン作成などが検討されている。東商のアンケート結果によると、「パートタイム労働者の処遇の改善は正社員の処遇の見直しと併せて行うべき」が42.8%、「主に正社員の見直しにより行うべき」が14.7%であり、合わせて57.4%の企業が一方的なパートタイム労働者の処遇改善には否定的な考え方を示している。
 正社員とパートタイム労働者の均衡処遇のあり方については、正社員の賃金水準を含めた人事・賃金制度の枠組みのなかで対応すべきであり、個々の企業の主体的な取り組みで行うことを基本とすべきである。企業においてはパートタイム労働者を含めすべての労働者を対象に、「職務」基準を重視した処遇に見直していくことが今後の課題である。

(2)保育所・学童保育の整備
 急速な少子化の進行による経済社会の活力低下が強く懸念されている。企業においては育児・介護休業法改正にもとづく社内体制整備(看護休暇、勤務時間短縮等)に積極的に取り組んでおり、また、育児中の社員に向けた社内保育施設の整備を行うところもある。行政においても今後、最重点課題として保育行政を充実させるべきである。
 特に大都市圏で不足している施設について、効率的な保育所の運営と量的な確保をはかるため、公立保育所運営の民間委託、PFI方式の活用などを積極的に進めるべきである。同時に延長保育・ゼロ歳時保育など保育サービスの拡充、学校や児童館の空き室を活用した学童保育の受入れ体制の整備などに早急に取り組むべきである。

(3)「構造改革特区」での新たな雇用・労働システム
 規制改革による経済活性化を推進するための「構造改革特区」構想が具体化されつつある。情報技術(IT)、物流などサービス産業各分野における規制緩和が、低迷する地域経済の起爆剤となり、さらに日本全体の規制緩和と経済活性化に向けて先導的役割を果たすことへの期待は大きい。
 「構造改革特区」の制度設計においては、将来に亘るわが国の新規雇用の創出、労働移動の円滑化といった重要課題を視野に入れるべきである。裁量労働制や有期雇用契約、労働者派遣や職業紹介事業など、懸案の雇用・労働分野の規制を大胆に見直して実施し、特段の支障のない限りこの規制改革を全国規模に拡大させることが重要な課題である。

(4)将来的な外国人労働者の受入れのあり方を検討
 少子高齢化の進展による労働力人口の減少、若年労働力不足が確実視されるなかで、将来的な外国人労働者の受入れ体制の拡充について検討を進めるべきである。当面は「専門的、技術的分野の外国人労働者」について受入れ範囲の見直しが必要である。
 一方、非熟練労働者については無制限の流入や社会的コストの増加、国民生活への影響等も懸念される。労働許可制など明確で厳格なルールや「特区」に限定した受け入れを含め、将来に向けた外国人労働者の受入れのあり方について幅広い検討を始めるべきである。

以上

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