政策提言・要望

政策提言・要望

大都市部における大店立地法ならびに法第4条に基づく指針の見直しに関する意見

2003年10月9日
東京商工会議所

 大規模小売店舗(以下、大型店)の出店規制の緩和により「大規模小売店舗立地法」(以下、法)が平成12年に施行されて3年が経ったが、この間、特に大型店数の多い大都市部においては、他の都市では見受けられず、法施行時においてあまり検討されなかった問題が顕在化してきている。地域の中小商業者の一層の衰退と空き店舗の増大はもとより、大型店の倒産・撤退、住宅地と近接した高密度な商業立地と、複数の行政区分にまたがる商業集積地の拡大、地価と人口密度が非常に高いこともあって、法や指針に従うことによりかえって設置者、出店者の側には出店にあたっての過度の負担感、地域住民の側には生活環境等の悪化の訴えなどの発生などである。
 一方、法施行時に5年以内とされた法第4条に基づく指針の見直しについては、平成15年3月に閣議決定された「規制改革推進3ヵ年計画(再改定)」で、「平成16年度中を目途とする見直し」と前倒しの方向が示され、見直し時期が迫ってきている。
 このような状況から東京商工会議所は、総合的なまちづくりを推進し地域全体の発展を考える機関としての立場から、平成14年8月に他の大都市所在の7商工会議所と合同で「大型小売店とまちづくりに関するアンケート調査」(以下、合同調査)を実施し、設置者・出店者と地域住民双方から見た大店立地法の下での大型店出店とまちづくりに関わる問題点の把握に努めるとともに、大型店と地域の中小商業者との協調やまちづくりの中での商業・物流等のあり方に関して検討を続けてきた。
 そこでこの度、大都市部において地域と大型店の設置・出店との共存を図り、良好なまちづくりを進めるにあたって、法ならびに法第4条に基づく指針の中で早急に見直す必要がある事項について、下記のとおり意見をとりまとめ、要望するものである。

提言



Ⅰ.大規模小売店舗立地法第4条に基づく指針の見直しについて

1.地域のまちづくりへの配慮
 大型店の設置・運営においては、指針が設置者・出店者に求める規定が不適切、不明確なため、地域の生活環境の保持を困難にすると思われる問題も散見される。
 そのため、都市部地域住民の生活環境を保持し、大型店の出店・変更・廃止と当該地域のまちづくりとのより一層の一体化を促進するため、指針について以下のとおり見直す必要がある。

(1)「まちづくりへの配慮」を
 大店立地法案を審議するにあたっては、平成10年5月7日衆議院商工委員会附帯決議7項にて「「街づくり」、(中略)が促進されるよう、(中略)必要な独自の振興策を講ずることを積極的に支援すること。」、また、平成10年5月26日参議院経済・産業委員会附帯決議2項にて「街づくりにも十分配慮して指針等を策定すること。」とされている。
 しかし、指針には、大型店の設置にあたっては、「街並みづくり等への配慮等」が求められ、景観面だけが重視されているとも受け取られかねない。
 附帯決議でも求められているように、また、法の施行時から、改正都市計画法や改正建築基準法により、地域住民が自らまちづくりに参加することのできる方策が確保され、多くの地域で住民による活発なまちづくりが進められている。
 その手法も社会実験を多用するなど従来の型にしばられず、例えば、交通車両を極力減少させる「コミュニティゾーン」や、中心市街地活性化法に基づき、各地商工会議所などが主体となったTMOなどの活用による取り組みが進められており、こうした状況の中で、大型店の問題を検討するにあたっては、「街並みづくり」に止まらず、まち全体の中での商業集積・施設のあり方を考えられるようになってきている。
 したがって、指針に明記されている「街並みづくりへの配慮」に加え、「まちづくりへの配慮」を併記するとともに、指針の見直しにあたっては、設置者・出店者に対して、各地域において多様な主体が参加できるまちづくり活動への配慮と積極的な参画を求めていくべきである。
 その上で、賑わいのあるまちや活力ある都市部の創出に向けて、大型店と地域が共存することのできる指針見直しがなされるべきである。


(2)駐車場分散確保時の基準の明示
 駐車場の適切な確保が困難な場合は、指針により駐車場の分散確保が認められている。しかし、店舗と駐車場の距離が300m近い店舗出店もあるなど、適切な駐車場確保や経路設定、隔地駐車場周辺への環境配慮がなされているとは言えない。
 分散確保により駐車場を確保する際には、店舗と駐車場の距離に一定の距離範囲を定めるべきである。

(3) 深夜・早朝営業、24時間営業の場合の特別基準の設定
 旧大店法や大店立地法施行時には想定していなかったが、特に都市部における顧客動向の変化や公共交通機関の発達により、深夜・早朝(23時以降・6時以前)営業や24時間営業を行う大型店が多数出店してきている。
 また、都市部周辺の住宅地域においては、利用客の利便性を確保するため、スーパーマーケット等から24時間営業化に向けた営業時間変更の届出が数多く提出されている。
 しかし、現行法や指針には24時間営業店舗の設置者・出店者に向けたガイドライン等はなく、地域の生活環境等に悪影響を及ぼしている懸念もある。
 そのため、深夜・早朝営業や24時間営業を行う店舗の新設、あるいは当該時刻にかかる開店・閉店時刻の変更においては、
①駐車場確保台数の適正化(深夜帯に駐車場利用者がピークを迎える店舗を想定し、入庫待ち車両による騒音を防ぐため)、
②騒音予測における深夜帯基準の設定(夜間騒音より一層厳格に算定)、
③防犯対策への協力明記(防災だけでなく、地域夜間防犯にも協力)、
④夜間における屋外照明や広告塔照明の光度基準設定(配慮は明記されているが、基準が明記されていない。)
などの基準を設け、地域生活環境の保持に努めるべきである。

(4) 説明会実施の適正化
 法第7条により、軽微な変更を除き、新設・変更届出を行う場合は説明会の実施が求められ、法施行規則第11条により「一回開催するものとする。ただし、都道府県が当該大規模小売店舗の立地がその周辺の地域の生活環境に与える影響が大きく多数の者が説明会に参加することが必要と認める場合には、三回を上限として都道府県が指定する回数開催するものとする。」と定めている。
 しかし、開催にあたっては、開催時刻や方法についての定めはなく、千葉、川崎、横浜など同法運用要綱などで夜間や日曜日の開催を求めている自治体もあるが、自治体で特段の定めがない場合は、昼間の開催も見受けられ、近隣住民の中には参加できない者も多いのが現状である。今後は、複数回を実施する場合は1回程度、また1回開催の場合はその1回に関して、平日夜間または土曜・日曜・休日の開催を指針において示す必要がある。
 また、同法施行規則第12条2号により「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載すること」とされている。しかし、日刊紙を講読していないために、店舗と隣接しているにもかかわらず設置者から説明会の案内を受け取ることができない住民がいるなどの問題もあり、地域の生活環境を保持する観点からは、より多くの住民の参加を求める必要がある。
 合同調査によると、「必要に応じ追加説明」が58.4%、「地元関係者に事前説明」が32.9%に及んではいるが、指針の見直しにあたっては、一定範囲への全戸配布など、地域に対する大型店出店の周知をより徹底するよう定めるべきである。

2.設置者・出店者の届出内容の適正化
 大型店の出店等の調整を行う大規模小売店舗法から、大型店の立地地域の環境保持を重視する大規模小売店舗立地法への政策転換は、過度な出店規制を緩和し、設置者・出店者の負担を軽減するものと思われた。
 しかし、合同調査の結果では、設置者・出店者の49.7%は出店が「難しくなった」とし、その主な理由には80.2%が、指針に示された環境基準をクリアするためのコスト負担が過大であることをあげている。
 さらに、地域間競争がますます激化している現状にあっては、経済産業省中小企業庁が平成15年度から大型空き店舗活用支援事業を予算化したように、現在では中心市街地における核店舗として営業してきた大型店の空き店舗が増加している。
 このような状況の中で、地域経済情勢、顧客動向等に即応した大型店の設置・出店と継続的な営業は、地域の小売業全体の健全な成長に大きな影響を及ぼすものになってきており、数時間程度の営業時間変更など、地域によっては軽微な変更においても多量な届出が必要な指針は必ずしも実態を反映していない。
 ついては、指針の見直しにあたっては、指針における調査・届出項目を再整理するとともに、地域特性に配慮しつつも、設置者・出店者の届出内容を適正化するために、以下のとおり指針を見直す必要がある。

(1) 駐車場に関する全国一律基準の見直し
 指針においては、地域における実情を考慮するということから、自動車分担率の設定に際し、出店地域別の算定基準を設けている。しかし、全国一律であることと変わりはなく、必ずしも現在の交通事情からして、現実的ではない。
 特に大都市部においては、慢性的な交通渋滞等による、地域生活環境の悪化を改善するため、例えば東京都においては、特定の道路や地域を通行する自動車利用者に対して課金を行うロードプライシング制度により、都市部への自動車の流入を削減する施策を検討していることから、店舗面積に応じた駐車場台数を全国一律に課していく指針は、必ずしも各地域の施策展開に沿った基準であるとはいえないことから適正化すべきである。

①高密度な商業集積地区における必要駐車台数基準の適正化
 法施行令第4条第1項、法施行規則第4条第4項及び指針に基づき、設置者・出店者には必要駐車台数の確保が求められている。
 しかし、合同調査でも立地法の指針・運用について、44.5%の設置者が「都市部では指針数値が実態に則さない」と回答している。
 指針に示される1日の来店客数のうち自動車を使用する率を示す自動車分担率では、人口100万人以上、同40万人以上100万人未満、同40万人未満には分けられているものの、大都市中心部人口100万人以上の地域においては、地価が高いこともあって土地の確保も難しく、指針に基づく必要駐車台数を確保することは極めて困難であるのが実情である。
 また、指針により「(前略)自動車の利用実態に照らして、来客の自動車分担率が(中略)過少または過大である場合」、自動車分担率を「既存類似店のデータ等その根拠を明確に示して他の方法で算出することができる。」としている。しかし、「過少または過大である場合」の例示もなく、設置者・出店者と都道府県・政令指定都市(以下、都道府県等)の判断に委ねられている部分が多い。
 そのため、指針においては、商業地域の中においても、特に高密度な商業集積を有しており、また公共交通機関が発達している地域を高密度商業集積地域(仮称)とするなど、別途自動車分担率を定め、設置者・出店者に求める必要駐車場台数の適正化を行うべきである。
 また、これまでの都道府県等の運用実態に照らし、設置者・出店者に対して「過少または過大である場合」に使用された算出方法などの各種事例の情報を提供するとともに、設置者・出店者の届出内容を適正化するべきである。

②店舗に接する道路(幅員、車線数、交通量等)別の算出基準の新設
 指針に基づき必要駐車台数を算定する際には、都市計画上の地区指定(商業地区/その他)と近隣駅までの距離(500m±)が条件として求められている。しかし、都市部においては、道路の幅員や車線数、一方通行指定路の存在、交通量等で道路環境には、地域により大きな差異が認められ、必要駐車台数も大きく変動する。
 そのため、地域特性に配慮するとともに、道路の幅員・車線数・管理方法や、交通量等を勘案した新たな係数や算出基準を設定するべきである。

③店舗特性による必要駐車台数の緩和基準の明示
 指針において、「大きな家具を扱う家具店のように店舗面積に比して1日に来店する客数が極端に少ない場合」は「既存類似店のデータ等その根拠を明確に示して他の方法で算出できる。」としている。しかし、「極端に少ない場合」の例示が少なく、都道府県等の運用上の判断に任されている部分があることも否めず、軽減率も示されていない。
 上記家具店以外に、高級アパレル・宝石・時計・皮革等高級品取扱店舗なども同様の類型に含まれると思われることから、各業態の指定、軽減率の基準明示等、設置者・出店者の負担を適正化すべきである。

(2) 駐輪場、自動二輪車駐車場設置基準の明示
 指針においては駐輪場の確保が求められているが、「業態、店舗規模、立地場所、近隣の自転車使用実態等により店舗ごとに相当程度差異があるため、一律に原単位を算出することは不適当」としている。また、自動二輪車(大型自動二輪車を含む)にあっては、駐車場法第2条第4号により、駐車場の対象となる自動車に「大型自動二輪車及び普通自動二輪車以外のものをいう。」との定めから、大型店を含め、駐車場設置基準が明確に記されていない。
 しかし、基準が明示されていないことにより、駅前大規模小売店舗などでは適切な駐輪場、自動二輪車駐車場の位置や台数の確保がなされておらず、一方では買物客以外の駐輪との区別も付きにくいこともあって、違法駐輪、違法駐車を巡って各種問題を頻発させている。
 店舗規模や駅との距離などを勘案した一定の基準を明示すべきであり、特に自動二輪車にあっては、新しく基準の算定等を検討すべきである。

Ⅱ.大規模小売店舗立地法の改正について

法的救済の明示
 大型店の出店が地域の生活環境に与える様々な影響を最小限に止めようとするのが、法の趣旨である。
 しかし、都道府県等による出店後の調査や設置者・出店者による異議申し立てが認められていないなど、法の趣旨の徹底には現行法では限界があると思われる。
 そのため、大型店と地域の共存を図るためにも、以下のとおり、法を改正する必要がある。

(1) 出店後の都道府県等による調査および意見・勧告権の法的明示
 法第14条では、第1項で「都道府県知事は、(中略)大規模小売店舗を設置する者に対して」、また、同条第2項で「都道府県知事は、(中略)大規模小売店舗において小売業を行う者に対し、参考となるべき報告を求めることができる。」と定めている。しかし、地域の生活環境の保持にとって最も重要である出店後の店舗運営や環境負荷に関する調査権限は、明確には定められていない。
 したがって、現行の報告徴収制度を強化し、法第8条に基づき都道府県等が意見を有した場合には、出店後一定期間の調査権限を法的に定め、提出資料と現状の店舗運営に大きな乖離が認められる場合は、必要に応じて設置者・出店者に意見・勧告を行う権利を都道府県知事・政令指定都市首長(以下、都道府県等首長)に認めるべきである。

(2) 設置者・出店者の異議申立て制度の導入
 法第8条に基づく都道府県等の意見、法第9条に基づく都道府県等の勧告にあたっては、設置者・出店者は同法に基づき変更に係る届出または変更しない旨の届出を提出することになっている。そのため、法の施行にあたり、行政不服申立て制度はなじまないとされていた。
 しかし、法は意見・勧告を受理した設置者・出店者が必ず変更を行うことを前提にしており、都道府県等の審議会などでは、法や指針が想定する審議内容を逸脱するなど、設置者・出店者の意思が十分に反映されない場合も想定される。
 したがって、都道府県等の意見提出あるいは勧告の後、設置者・出店者が異議を都道府県等首長に対して申し立てることのできる制度が必要であり、早急に法的整備を行うべきである。

Ⅲ.大規模小売店舗立地法第4条に基づく指針の運用について

都道府県等および設置者・出店者に対する情報提供の充実
 経済産業省商務情報政策局流通産業課においては、法の適切な運用を図るため、都道府県等から寄せられた質問と同省回答を取りまとめ、『大規模小売店舗立地法についての質問及び回答集』として、平成13年9月に発行、平成15年2月に第2版を発行した。
 しかし、都道府県等に対する法的な解説だけに止まらず、各地域における出店に際して発生している都道府県等と設置者・出店者、ならびに設置者・出店者と出店地域における各種事例に関する情報などは、都道府県等の審議会運営や設置者・出店者が出店に際しての留意事項として、大変有益である。
 ついては、法第8条に基づき都道府県等が意見を提出した出店事案の問題点・経過、報告徴収などで得た情報などを、各地経済産業局などを通じ都道府県等および設置者・出店者に対して情報提供するべきである。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所